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東日本大震災と人権【連載3】「震災問題に関する国際人権セミナー」から考える

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

地震やハリケーン、津波が襲来したとしても、人権がなくなることはありません。災害に遭った人々は非常に弱い立場におかれるため、差別や虐待を防ぐことが極めて重要です。

2011年6月24日に国連人権高等弁務官を招いて開催された「震災問題に関する国際人権セミナー」での報告をもとに、震災時における人権保障について考えてみたいと思います。

東日本大震災と人権【連載1】:震災時における人権保障について

東日本大震災と人権【連載2】:避難所生活全般について

ここでは「震災問題に関する国際人権セミナー」で報告のあった「子どもの権利」について検証してみたいと思います。

子どもの権利

「子ども被災者への支援にあたって必要とされる視点」

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女性と子どものこころえカード
女性と子どものこころえカード

東日本大震災子ども支援ネットワークの森田明美氏より「子ども被災者への支援にあたって必要とされる視点」について報告がありました。東日本大震災子ども支援ネットワークは、子どもとともに震災復興支援に取り組むNPOとNGOのネットワークです。

また、東日本大震災子ども支援ネットワーク参加団体の辻雄作氏、柳本佑加子氏(サバイバーズ・ジャスティス)からセクシュアル・マイノリティの子どもたちへの配慮や、支援が行き届いていないことを追加で報告しました。

(1)子どもに対する性的安全の確保

子どもたちが日常生活の様々な場面で、たとえば登下校時、学校、痴漢、トイレ、更衣室、交通機関内の盗撮、教員等からのセクシュアル・ハラスメントなどにより、性的安全を損なわれていることは日々の報道等が示すとおりです。このことは震災時の状況下においても変わることはないのです。こうした事態から子どもたちを守るための機能が低下している現状において、そのリスクは高まっていると言えます。

普段から性被害の発生しやすいトイレ、更衣室の点検や、人目の付かない場所の確認を実施したり、子どもたちがどんなことでも安心して話せるホットラインやいられる場所を作るなどして、子どもたちの性的安全を確保する工夫が必要です。また避難所などの被災者が利用する施設運営者に対しセクシュアル・ハラスメント防止研修を実施し、不適切な性的な言動の予防を図る必要があります。

(2)子どものニーズの把握

子どもには子どものニーズがあるという当然のことを忘れず、そのニーズを正確に把握するために丁寧に子どもたち自身に聞き取りをする必要があります。2011年6月11日に開催された「震災・復興と男女共同参画6.11」シンポジウムでは、被災地の特に10代女子のニーズが十分に満たされていないことが報告されています。

(3)セクシュアル・マイノリティの子ども

日本のセクシュアル・マイノリティは総人口の3~4%であるとする統計があります。避難所にいる人たちの中にもこれくらいの割合でセクシュアル・マイノリティの人がいることを前提とした被災者に対する対応や施設管理が必要です。たとえば男女の性別に関係なく利用できるトイレや更衣室の設置、性的指向や性自認をネタにした冗談は当事者に対する人権侵害や差別にあたるということの周知(「避難所でみんなが快適に過ごせるために」といった手引きなどを作成し配布するなど)、特に避難所等施設管理者には(1)に記したのと同様のセクシュアル・ハラスメント防止研修を実施し、不適切な言動の予防を図る必要があります。セクシュアル・マイノリティの子どもは、自分自身の性自認や性的指向について不安を覚えていることも少なくなく、またそのことを理由にいじめを受けることもあります。そうした状況にある子どもたちを支えるためのホットライン等の設置も必要です。

「東日本大地震の被災地における子ども支援について」

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セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの森田明彦氏より「東日本大地震の被災地における子ども支援について」の報告がありました。

まず何よりも、子どもの最善の利益を最優先に考慮した支援計画の策定・実施をお願いします。そのために必要なのは、避難センター、市町村、県、そして国レベルで被災した子どもの声を支援計画の策定に反映させることです。宮城県では子ども議会を県議会が中心となって実施しています。今後の復興計画を策定する際には、ぜひ被災者である子どもの意見を聴いてあげてください。

1:短期(水、電気、ガスが復旧し、商業ベースでの物流が回復するまでの時期:4月末までの一ケ月間)

(1)「子どもひろば」が運営できる経験者(幼稚園教諭、保育士、学童指導員、児童館職員、NPO職員等)が、食料と燃料(ガソリン、灯油)調達のために時間を取られており、雇用することが極めて困難となっています。従って、食料と燃料に関する物流の回復が急務です。

なお、現時点で県外からのボランティアが大量に入ることは救援活動の妨げになると思います。県内にも自宅が被災せず、ボランティア活動に従事できる大学生は大量にいます。また、避難センターの子どもたち自身がセンター運営に参加している事例もあります。まずは地元の人的資源の活用を最優先にして、子どもたち自身が自信と安心を取り戻せるような支援をお願いしたいと思います。

(2)困難な精神状態にある子どもたちを支援する大人(支援者)のメンタルサポート体制も不可欠です。

(3)子どもたちにとって一日も早く被災前の生活に戻り、学校に通えるようになることが、精神的な安定のために不可欠です。また、避難センターでの集団生活で子どもたちも疲れてきています。そのために、学校施設を避難センターに使っているところでは、4月の新学期開始に向って、避難者の落ち着き先を早急に準備する必要があります。仮設住宅の建設、空いている公営住宅への優先的入居、企業所有の寮・社員クラブの借り上げ等を通じて、避難家族が一日も早く落ち着いて暮らせる環境を整備することが、子どもたちのメンタルヘルスのためにも不可欠です。

(4)長期の避難所生活のストレスで通常の学校生活に復帰することが困難な子どもたちが多数いると想定されます。これらの子どもたちに対するメンタルケアが必要です。

2:中期(今後1年間)

(1)小中高等学校については、授業の遅れを取り戻すことが教師・生徒の最大の関心事です。食料調達や、交通手段の確保で教師や父兄、そして子どもたちが疲れてしまわないように、物流と交通手段の復旧を早急にお願いしたいと思います。

(2)生活が安定するにつれて、震災によるトラウマが表面化すると思います。セーブ・ザ・チルドレンは、子どもたちが通常の学校生活に復帰できるように、学校をベースとし地域社会との連携に基づいた子ども支援プログラムを用意しています。日本政府より、この子ども支援プログラムがスムーズに進むように被災地の教育委員会を通じて、各学校にこのプログラムの必要性をお知らせいただけないでしょうか。

なお、この段階で児童心理学や臨床心理士などの勉強をしている実務経験のある学生・大学院生のボランティア、保護者、教員を目指している大学生、教員免許を有しているが教職に就いていない者(県外を含む)を募ることは、被災した子どもとボランティア学生の両者にとって有益と思います。

(3)今回の地震・津波により、両親・保護者が死亡・被災し、授業料(その他教育関連費)が支払えなくなる子どもたち(小・中・高校)が多数いると推定されます。彼らが教育を引き続き受けられるように、財政面を含む必要な支援をお願いします。

3:長期(2年目~10年目)

セーブ・ザ・チルドレンはグローバルな市民社会組織として、この度の東日本大震災の復興支援のために世界中から寄せられた募金に基づき、地方自治体や学校との緊密な連携の下で中長期的な復興支援活動を展開しています。

この度の被災者支援を通じて、従来の縦割り行政を越えた動きが生まれてきています。この新たな市民社会の発展を促進するような制度整備をぜひ進めてください。

・パリ原則に基づく国家人権委員会の設置

・子どもの権利に関する包括的法律の採択

・子どもの権利を実施するための国、広域行政圏、地方の活動を調整できる適切な国家機関の設置

・子どもの権利の実施に携わってきた市民社会組織との継続的交流と協力の確立

の実現を勧告しています。

特に、被災地における子どもの声を行政に活かす子ども議会や、子どもの権利条約作りを促進するような国政レベルでの枠組み作りをお願いします。

国連人権高等弁務官からのコメント

国連人権高等弁務官のマチルダ・ボグナー氏からは「国際基準を総合的に捉えて子どもの最善の利益を実現するための活動と、子どもの声を聞き反映することを意識的にされていることに感謝する。どこにいても計画に参加できない人を含めた反映がされておらず、子どもと一緒に話し合いの場に入れるアドボカシーの重要性を一層強く感じた。とくに性的なマイノリティの子どもたちなど、見過ごされる立場にある子どもたちにも配慮されている活動があることは重要な活動と思った。国レベルでも総合的な子どもへの保護政策がないことに対しては、将来に役立つ政策につくりかえて行くようなアドボカシーが必要である」というコメントを受けました。

(了)

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参考文献

関係機関常任委員会「自然災害発生時の被災者保護に関する運用ガイドライン」

発行者:「国内避難に関するブルッキングス・ベルン・プロジェクト」2011年1月

仮訳 責任編集:特定非営利活動法人ヒューマンライツ・ナウ

翻訳協力:ホワイト&ケース法律事務所

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東日本大震災子ども支援ネットワーク

東日本大震災子ども支援ネットワークは、子どもとともに震災復興支援に取り組む、NPOとNGOのネットワークです。日本ユニセフ協会、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン、チャイルドライン支援センター、子どもの権利条約研究所と、たくさんのアドバイザーや参加団体が力を合わせて活動しています。

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セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン

セーブ・ザ・チルドレンは、国連に公式に承認された、子どもたちのための民間の国際援助団体(NGO)です。

『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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