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レズビアンのタレント、牧村朝子さんと対談「職場で事実婚・同性婚を想定した就業規則を作ってみました」

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
牧村朝子婦妻

レズビアンのタレントで同性パートナーと一緒にフランスで暮らしている牧村朝子と、ゲイの活動家でいじめ自殺未遂経験者の明智カイト。全く異なる人生を歩む二人が日本とフランスのLGBT事情について語り合います。

●過去の記事はこちらをご覧ください

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自分の職場で事実婚・同性婚を想定した就業規則を作ってみました

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明智 性的少数者(LGBT)であることを公表している従業員の私の提案を受けて、認定NPO法人フローレンスは4月21日より就業規則を変更し同性婚・事実婚も、法律婚をした社員と同等に慶弔休暇が取れるようになりました。

慶弔休暇には「本人の結婚5日」「配偶者の出産2日」などの規定がありますが、この「結婚」に事実婚、同性婚を含めました。また、「配偶者」にも事実婚、同性婚の相手方を含めています。この就業規則はフローレンスが雇用している全ての社員約330人が対象となります。

牧村さんはこの事実婚・同性婚を想定した就業規則についてどう思いました?

牧村 「事実婚も含めて」というのが新しいと思いました。

確かに、現状の結婚制度を利用できない/しないという人は、同性同士に限りませんものね。それぞれのお家の事情があったり、結婚によって強制的に同じ苗字にされてしまうのは困るということがあったりして。

ところで明智さんはなんでフローレンスで働こうと思ったの?

明智 私は子育て支援や少子化対策に興味がありフローレンスで働きたいと思っていました。あと、子育てを社会全体で支えるというフローレンスの理念に賛同しました。LGBT当事者は自分の子どもを持つことは厳しいかもしれませんが、社会の一員として子育てを支えていくことはできると考えたのです。

また、フローレンスの採用情報ページには、「様々なバックグラウンドを持った人が働いており、多様性を大切にしています。LGBT等、性的マイノリティの方も歓迎です」という記載があります。だからカミングアウトして働くことができるとも思いました。

そして、フローレンスではLGBTだけではなく子育て中の女性や、障害児などいろいろな人たちを支援しているので、まさしく多様な人材、多様な家族を認めてくれる職場といえます。

牧村 フローレンスはLGBTが働きやすい職場でした?

明智 私はフローレンスでは初めてLGBT当事者であることをカミングアウトして入社したのですが、「明智さんは男子トイレと女子トイレはどちらを使うの?」と聞かれました。私はゲイなので、トイレの配慮は要りません。それでちょっと不安を感じました。

牧村 あぁ、そういう偏見ってありますよね。ゲイは心が乙女だから女子トイレを使うんでしょ?みたいな。男性が恋愛対象=心が女性、みたいな物の見方で、どこまでも異性愛前提なんですよね。

明智 それで、積極的に採用するというわりにはLGBTに関する理解が浸透していない、という印象を受けたんですね。それで人事部に対してLGBTへの理解を深めるためにLGBT研修を行うことを提案しました。

研修を実施したことによりソフト面(理解)はクリアすることができました。次はハード面(制度)を整える必要があります。それで、「LGBTなど性的少数者が働きやすい職場づくりのための提案書」を提出しました。具体的には履歴書や就業規則が異性愛者を前提とした内容であったため改訂を提案しました。

あと、フローレンスを利用する園児や保護者にも当然、LGBTなどの性的少数者がいるはずです。そうした園児や保護者にとっても利用しやすい環境にするためには、現場スタッフが、園児・保護者にLGBTなどの性的少数者がいることを想定した案内ができるようにならなければいけない。そこで「LGBTなどの性的少数者が利用しやすい『環境作り』について」も提案しました。

LGBTがどうこう以前に、性のことで不平等があってはならないフランス社会

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明智 ところでフランスの企業はどうですか?LGBTが働きやすい職場ですか?

牧村 LGBTかどうかに関わりなく、性別・性的指向による差別は一律で禁止ですね。企業がLGBTだけを「一段低いところにいるかわいそうな人たち」と扱うような風潮はもう過去のものになりつつあります。ただ、それでも性別・性的指向による差別を取り締まって行かなければならないのは、やはりまだそうした差別行為がなくなってはいないからです。

たとえば2014年には、ピザチェーン店で働いていた23歳の男性が職場で「男らしくない」と指さされ、上司から「お前はクソホモ野郎か?」などと聞かれた、という事件がありました。そこで本社は「いかなる差別も許さない」との声明を出し、加害者全員に異動を命じました。この件では、被害者が同性愛者であったかどうかは問題にされず、加害者たちの同性愛嫌悪的な暴言に処分が下されたわけですね。

というわけで、性別・性的指向にまつわる差別は、被差別者がLGBTかどうかに全く関係なく取り締まられます。男性差別も異性愛者差別もダメ。また、たとえば「○歳にもなって独身か、ホモっぽくて気持ち悪いから社員旅行に来るな」みたいな“異性愛者に向けられる同性愛者差別”もダメ。とにかく、LGBTがどうこう以前に、性のことで不平等があってはならないというわけです。

フランスのマクドナルドも、男子高校生同士の恋物語に「ありのままのあなたでお越しください」とのキャッチコピーを重ねたCMを放映していました。私も妻の会社を訪れる時は、受付で「編集部の○○の妻ですが……」「はい、少々お待ちください。○○さん、奥さまがお見えですよ~」なんて会話を普通にします(笑)。

明智 う~む、さすがフランスは進んでますね。フローレンスの取り組みを受けて今後、日本の企業に期待することはなんですか?

牧村 いい意味で、LGBTだけを特別視しない、っていうことですね。現代社会において、性のことで困らされるのはLGBTが多いですけれど、LGBTだけではありませんから。LGBTを、ただの流行物の、ダイバーシティアピール道具にしているような会社は必ずバレます。「我が社は同性カップルにも結婚祝いを出すLGBTフレンドリー企業で~す!」にとどまらず、「結婚制度を使えない/使わない家族は同性同士だけじゃないよな」と気づけるかどうか。常により広い視点で物事を考えていくことが、よりたくさんの人たちの暮らしを良くする企業のあり方につながっているんではないでしょうか。

明智 そうですね。最近では企業相手にLGBTの人権をネタに商売する人権屋みたいなNPOが出てきてダイバーシティアピールするとか、LGBTを支援するというより単なる企業の広報戦略というところを見たりします。実際に私も「こんなことして意味あるの?」と疑問に感じる取り組みもありますし。ただ、企業も単なる人助けではなく、ビジネスでいろいろ動いているんだなということを割り切って考えていくことが必要かなとも思います。

とりあえず、フローレンスではLGBT以外にも様々な個性や生活のポリシーを持つ人が「働きやすい!」と思える職場を目指しています。そういう意味でもフローレンスが日本の職場のロールモデルになれるようにこれからも取り組みを続けていきたいです。

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牧村朝子

【ブログ】

牧村朝子オフィシャルサイト

【プロフィール】

1987年生まれ。2010年、ミス日本ファイナリスト選出をきっかけに、杉本彩が代表を務める芸能事務所「オフィス彩」に所属。フランス人女性とフランスでの結婚生活を送りながら、人間の性のあり方について各種媒体に執筆・出演を続けている。著書「百合のリアル」(星海社新書)ほか。

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『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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