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簡易宿泊所の利用者は約9割が生活保護受給者!?本質的な対策が必要では(後半)

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
明智カイト×油井和徳(NPO法人「山友会」前にて撮影)

5月17日午前2時頃、川崎市川崎区日進町の簡易宿泊所「吉田屋」(木造3階建て)の玄関付近から出火したと思われる火災が発生し、隣接する「よしの」と合わせて2軒が全焼しました。この火災によって10名が死亡しています。

簡易宿泊所や、そこに暮らしている生活保護受給者の実態と今後の課題について、東京の山谷地域で生活困窮者へ支援を行うNPO法人「山友会」の油井和徳理事にお話を伺いしました。

前半の記事はこちら。

簡易宿泊所の利用者は約9割が生活保護受給者!?川崎火災から考える(前半)

表面的な対策だけではなく、本質的な対策も必要

明智 今後、簡易宿泊所の火災事件を無くしていくために必要なことは何でしょうか?

油井 このような痛ましい出来事を繰り返さないためには、表面的な対策だけではなく、根本的な解決を図らなければならないと感じています。

今回の川崎市の事件では、簡易宿泊所が違法建築であるとか、防火対策の不備なども指摘されていますが、火災の責任を施設側だけに求めても、この問題は根本的には解決しないと思います。

ただ、先ほどお話したように、身寄りがない生活保護受給者の方の住まいの選択肢は限られてしまっている中で、ただ単に簡易宿泊所でない選択肢を増やしていけばよいのかと言えば、それだけではないと思います。

類似する背景の事件として、2009年に群馬県のたまゆらという無届の施設で火災があり、入所されていた都内の生活保護受給者10数名が亡くなるという痛ましい事件がありました。そこには高齢の方もいましたし、認知症などのために介護が必要な方もいました。こうした悲劇を繰り返さないためにも、その選択肢には「安全性」が担保されていなければなりません。

さらに、先ほどの要因を整理してみると、社会的に不利な立場におかれる方々が地域で暮らすことへの不安を、いかに社会で分かち合うかということが問題解決へのヒントのように思えます。不安を分かち合うために、そうした方々が地域の中で暮らしていく上での支えとなる存在があることが大切です。

地域の中で暮らしていけるサポートを

ケア付き宿泊施設「山友荘」
ケア付き宿泊施設「山友荘」

明智 油井さんたちはどのような支援活動を行っていますか?

油井 私たちの活動の生活相談・支援事業では、アパートや簡易宿泊所に暮らす方を支援する「地域生活サポート」という取り組みがあります。具体的には、一人で病院に行けない方の通院に付き添ったり、介護が必要になったときに介護サービスの利用手続きをお手伝いしたり、医療機関、介護事業所、福祉事務所などの支援機関との連絡調整などを行い、孤立してしまい困ったときに誰にも助けが求められないような状況にさせないような取り組みを行っています。

山谷地域では、こうした取り組みを、私たちだけではなく、複数のNPOがバリエーション豊かに展開しています。また、そうした方々が支援を受けるだけでなく、活動に参加してもらったり、一緒に支援を担ってもらったり、社会の中で役割を持ってもらえるような支援も行われています。

さらに、そうしたNPOを中心に、地域の医療・看護・介護・福祉事業所などとのネットワークづくりの取り組みも行われており、地域ぐるみでそうした方々をどのように支えていったらよいかということも考え始められています。

これらの取り組みはあくまで一つの例ですが、住み慣れた地域で暮らす上での「安心」をいかに担保するのか、ということも大切な視点だと思います。

そして、それが一方的に供給されるのではなく、当事者も地域に参加でき、社会的に不利な立場にある方も暮らしやすく参加しやすい地域づくりに結び付けていく、こうした取り組みは、身寄りのない生活保護受給者に限らず、より多くの方々にとってもメリットのあることなのではないかと思います。

川崎市の火災は決して他人事ではありません。簡易宿泊所が身寄りのない生活に困窮した方の受け皿になってしまうような構造に目を向け、身寄りがなくても、低所得でも、高齢でも、病気や障害を抱えていても、「地域」で「安心」して「安全」に暮らせる住まいを地域の中に整備することが、この問題の根本的な解決になると考えています。

川崎市における火災事件の対応について

明智 10人が死亡した川崎市川崎区の簡易宿泊所の火災を受けて、このほど川崎市は川崎区内の簡易宿泊所を利用する生活保護受給者の転居支援を民間事業者らに委託して行う方針です。今回の川崎市の施策についてどのように思われますか?

油井 そうですね、問題を放置せず、少しでも前向きな動き出しをしてくださったという意味では評価できると思います。あとは、この施策が「誰のためのものなのか」ということは強く意識しなくてはいけないと思います。

現在はクローズアップされて社会的に問題意識があるから実施するという、対処療法的な発想では、先ほどもお話したように個人的には根本的な解決にはならないと思います。

住まいの選択肢が簡易宿泊所に限られてしまった方々や同じような状況にある方々などの視点で課題にコミットしなければ、長期的に見て、簡易宿泊所では同じことが起きないだけで、場所を変えて同じようなことが起きてしまうだけかもしれない気がします。

地域に溶け込めるように支援を行うことは、とても大切なことだと思っています。ただ、私たちも、それにはやはり当事者と事業者だけの関係では限界のあることだと日々痛感しているところです。なので、そうした人々が孤立せず、地域の中で居場所と役割を持って暮らしていくことができるように、地域の支援機関やコミュニティなどさまざまな地域資源とのネットワークづくりも必要となってくると思っています。

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山友会

東京都の台東区・荒川区をまたぐエリアにある通称「山谷地域」で、1984年から無料診療、生活相談、炊き出し・路上訪問、宿泊支援などのホームレス支援活動を行っている団体。

『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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