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レズビアンのタレント、牧村朝子さんと対談「LGBTなど性的少数者が子どもを持つということ」(後半)

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
明智カイト×牧村朝子

レズビアンのタレントで同性パートナーと一緒にフランスで暮らしていた牧村朝子と、ゲイの活動家でいじめ自殺未遂経験者の明智カイト。全く異なる人生を歩む二人が日本とフランスのLGBT事情について語り合います。

※前半のインタビューはこちらです

レズビアンのタレント、牧村朝子さんと対談「LGBTが子どもを持つということ 日本の養子縁組/里親制度について考える(前半)」

制度の整備が先行しすぎると「かわいそう」なことに

牧村 とはいえ逆説的に聞こえるかもしれないけれど、LGBTに育てられている子どもが「かわいそう」な目にあっているというのもまた事実だと思います。

明智 どういう意味でしょうか?

牧村 オランダでは同性婚が認められて10年以上が経過していますけど、同性カップルに育てられている子どもが、「同性カップルに育てられている」ことが理由でいじめられている、という現状は確かにあるからです。

制度が整って法的に同性婚が認められて、同性カップルが子どもを育てることも認められているけれど、それに対する社会の認識・理解が追いついていない。

もちろん「親が同性愛者だからかわいそう」なんじゃなくって、「親が同性愛者であることを理由にいじめられていることがかわいそう」なのよ。改めるべきは親ではなくいじめ加害者であって、「子どもがかわいそうだから同性愛者に子どもを持たせるな」という議論が完全におかしいことに変わりはないですけどね。

だから、そういった誤解や偏見をなくしていくことと、同性カップルであっても子どもを持つことができるように制度を整えていくこと、これを同時並行で進めていくことが大切なんじゃないかしら。

明智 たしかに現状のまま制度を整えていったとしても「お前の父ちゃん、男なんだか女なんだかよく分からない」みたいにからかわれることは容易に想像がつきますね。

牧村 そう、だから制度だけを作っていくことには危うい面もあるんだと思います。人生やり直すことはできないし、子どもの心に傷がついてしまったらそれは一生残ってしまうし。

たとえば、フランスでは、「LGBTはおかしなものではない」ということを積極的に子どもたちに教育しています。「おむかえのじかん(原題「L'heure des parents」、Thierry Magnier Editions、日本語版未発売)」っていう有名な絵本があって、そこでは、同性同士のカップルだったり、動物たちが多様な家族生活を営んでいる様子が描かれています。

あとはハーヴェイ・ミルク(*2)の伝記が子ども向けの本として出版されていたりね。やっぱり教室で子どものことをいじめるのは子ども自身だから。子どもへの教育を進めていくことが大切なんじゃないかな、と思っています。

*2:アメリカ合衆国の政治家。ゲイの権利活動家。1977年カリフォルニア州サンフランシスコ市の市会議員に当選し、同国で初めてゲイであることを明らかにして立候補し選挙で選ばれた公職者となる。しかし、議員就任1年も経たない1978年11月27日、同僚議員のダン・ホワイトにより同市庁舎内で射殺された。

同性愛者だから家庭で子どもを育てられない、なんてことはない

牧村 あと難しいのは、そもそも日本においては同性カップルが子どもを育てている、という事例が少ないために行政を動かすことが難しいという事情もあるんでしょうね。まあ、制度的に現状、同性カップルが子どもを持つことが難しいから当たり前のことではあるんでしょうけど・・・。

明智 そうですね。とはいえ、日本でも実は少しずつそうした動きを後押しするような事例も出てきています。

2013年12月に、性同一性障害を理由に女性から男性へと性別を変更した方が、最高裁によって子どもの「法律上の父」であると認められたというニュースが国内で大きく報じられました。この夫婦は、妻が第三者から精子の提供を受けることで子どもを授かりました。

また、男性から女性へと性別を変更した人が、「特別養子縁組」制度によって母親として認められたという報道もありました。

このように、性的マイノリティと呼ばれる人々が子どもを持ち、その関係が法的に認められるという例も少しずつではありますが出てきているわけですね。

牧村 そうすると、そうしたいわゆる日本的な「伝統的家族観」から外れた家庭が、実際いまの日本にどのくらいいて、どんな現状にあるのか、という現状把握がまず必要なのかもしれないわね。

アメリカでは同性カップルが子どもの成長に及ぼす影響の研究が行われていたり、フランスでは同性カップルの人たちのアソシエーションによる調査で、同性カップルの下で育てられている子どもが7万人いるという調査結果が出ています。それがメディアで報じられたことで、2013年の同性婚の議論のときにも大きな影響がありましたし。

明智 そうですね。日本でも、前夫との離婚後に、子連れのシングルマザーが同性パートナーと新たに家族を作り子育てしているケースや、最近では、精子提供を受けて出産し同性パートナーと子育てしているレズビアンカップルも現れるようになっています。

ですから、まずは「同性カップルによる子育てってこれくらいあって、それでも普通に社会は回ってるじゃん!」みたいなところを示すべきなのかもしれませんね。

今年の国勢調査(*3)において同性カップルが記入ミスとみなされないようになったので、数字として実態が把握できるようになります。そうすれば里親制度を考える上でも随分と見方が変わってくるんじゃないかと思っています。

*3:同性カップルも家族です!同性カップルの国勢調査における誤記扱いについて解説(明智カイト×岩本健良)

同性愛者であっても保育士の方はいるわけですし、職業的にしっかり立派にやっている人もいる。「同性愛者だからという理由で家庭のなかで子どもを育てることができない」なんてことはない、ということをもっと広く理解してもらえるように今後も働きかけを続けていきたいと思っています。

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牧村朝子

【ブログ】

牧村朝子オフィシャルサイト

【プロフィール】

1987年生まれ。2010年、ミス日本ファイナリスト選出をきっかけに、杉本彩が代表を務める芸能事務所「オフィス彩」に所属。フランス人女性と結婚生活を送りながら、人間の性のあり方について各種媒体に執筆・出演を続けている。著書「百合のリアル」(星海社新書)ほか。

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『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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