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地方におけるセクシュアルマイノリティが抱える課題とは?活動の鍵は「パネル展」「支援者の活躍」(後半)

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
広島県セクシュアルマイノリティ協会(「かも?」Cafe)の野元氏×明智カイト

「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」では、「多様な性、知っていますか?」パネルの貸し出しを行っています。このパネルを使用したパネル展示を積極的に開催している一般社団法人「広島県セクシュアルマイノリティ協会(通称「かも?」Cafe)」にそのメリットをお聞きしました。

※前半の記事はこちらです。

地方におけるセクシュアルマイノリティが抱える課題とは?当事者のコミュニティつくりを促すために(前半)

「多様な性、知っていますか?」パネル展が期待される理由

パネル展示の様子
パネル展示の様子

「かも?」Cafeでは支える人口の少ない地方で活動の二つの柱である交流会の開催と啓発活動を安定して続けていくためには、「受け入れる間口を広げる」ことが大切だと考えています。特に、人口の9割以上を占める異性愛者の支援者とのネットワークを広げていくことが重要です。パネル展は、支援の輪を広げていく手段として取り組みやすい企画です。

行政に対しては、

・内容がソフトでわかりやすく、受け入れられやすい

・すでに他の自治体などで実績があるため、企画が通りやすい

・金銭的な負担が少ないため実行されやすい

また、パネル展示以外の展開も可能です。

・「他団体主催の講演会の会場でパネル展」など他団体とも協働しやすい

・パネル展示を断られても縮小版を啓発資料として配布という形であれば実現できるなど、啓発の機会が多い

「かも?」Cafe側にとってもパネル展は開催が簡単で効果の高い啓発手段です。

・企画が採用されやすく作業も搬入搬出のみなので、担当者の負担が心身ともに少なく誰でも担当できる

・当事者による講演会などと違い、ヘイトにさらされるリスクが低い

・政治色のない「啓発パネル展」というイベントなので、記事にしてもらいやすい

・当事者が顔を出さなくても写真入りの記事にすることができ、新聞等の紙面の扱いが大きくなりやすい

・紙媒体に掲載されることで、自治体やインターネットに馴染みの無い年配層に対して会の信頼性が増す

・購読者数の多い地方紙などに掲載されることで会の知名度や信頼性が上がり、活動への協力が求めやすい

・企画が実現でき新聞等で掲載されることで、会のメンバーのモチベーションが上がる

「当事者だという人に会うのは初めてです。全くふつうの人なんですね」と言われ続けるところからのスタートですが、パネル展の実施をきっかけにして少しずつ交流を深めています。「同じ地域に暮らす普通の人たちなんだ」と親しみを感じてもらうことで、少しずつ前進していっている手ごたえがあります。

福山市でのパネル展示は2016年の1月で終わるので、今後は県内の他市でも実施できるように活動を県内に広げていく予定です。

活動の鍵は「支援者の活躍」

支援者の野元氏
支援者の野元氏

会の運営を支えて下さる支援者の方々とのネットワークですが、輪を広げていく中で心強い味方がたくさんでき、進展していきました。その中でも代表的な方が、行政書士の野元氏(Holly行政書士事務所)です。困っている当事者との出会いをきっかけに関心を持ち、広島県で初めてLGBT支援の専門窓口を開設しました。「かも?」Cafeの運営にも携わっています。

支援者が関わることについて、慎重な意見もあるでしょうが「かも?」Cafeの中での支援者は「優れた通訳者」のようなものです。それぞれの「文化」の違いを理解した上で、間に立ってお互いに通じるようコミュニケーションの橋渡しをしてくれます。

一つ、象徴的なエピソードがあります。当事者メンバーの感覚では、中高年の異性愛者の男性への啓発活動は後回しにしがちです。しかし、野元氏はLGBTという言葉を初めて耳にした広島市内の経済紙の編集長に啓発活動を行った結果、4ページもの特集に繋がりました。

編集長は今、県内のセクシュアルマイノリティの動きを積極的に追い、定期的に記事にしています。彼の雑誌は広島市内の経営者層(中高年の男性)が見る雑誌ですから、その層に「地元にもそういった人たちがいる」ということをまずは知って貰えることは、今後の活動にとても大きな助けになります。

野元氏によると「自分もそうだったので『セクマイのことが全くわからない』という感覚がわかる。当事者が怒りを感じるのは当然だが、無知からくる偏見があるのは仕方のないことでもある。それを責める口調にならないように注意して説明している」とのことでした。

当事者の気持ちやセクシュアルマイノリティが置かれている状況を伝わるように翻訳して話せるのは、非当事者でこその強みです。当事者が異性愛者と同じように安心して地域で暮らしていけるようになるための活動は、ゴールの見えない長い長いマラソンです。

当事者である自分たちだけで通じる世界に閉じこもらず「通訳ボランティア」の助けを借りながら、「異文化コミュニケーション」に今後も取り組んでいきます。

(おわり)

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一般社団法人広島県セクシュアルマイノリティ協会(通称「かも?」Cafe)

広島県福山市を発信源とした一般社団法人。県内のセクマイがほっとできる「居場所つくり」と「居場所を広げる」活動を支援者とともに展開中。交流会を毎月各一回福山と広島で開催。

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『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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