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メディアが子どもたちの「命綱」にもなるし、「凶器」にもなる--荻上チキ氏が「いじめ報道」に対して要望

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
NPO法人「ストップいじめ!ナビ」代表理事で評論家の荻上チキ氏

いじめ問題に取り組むNPO法人「ストップいじめ!ナビ」は2月5日に報道関係者を対象にした勉強会を東京都内で開催しました。

本記事では、同団体の代表理事で評論家の荻上チキ氏が、現在のいじめ報道に対してメディア側に要望した内容についてお伝えしていきます。

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以下、荻上チキ氏の発言をお伝えします。

いじめの議論では『予防』『発見』『対策』『検証』のサイクルが重要

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いじめを議論する上で『予防』『発見』『対策』『検証』という4つのサイクルが機能しているかが重要なポイントになります。

まず、いじめがそもそも起きにくいような教室を作ることが「予防」です。次いで、いじめは、頻度と深刻度が相関しているという統計が示す通り、早い段階で適切なアプローチをしていくことが必要になります。これが「早期発見」「早期介入」です。同時に、この学校にはどれくらいのいじめが発生しているのかというアンケートを取ったり、児童に対するヒアリングを行ったり、いじめが本当に減ったのか、どの対策が効いたのかという「検証」を行います。こうしたサイクルを繰り返していくことが重要になるわけです。

しかし、いじめ報道のほとんどは、この4つのサイクルのどれでもないフェーズの報道に終始してしまっています。具体的には、加害者がどんなに酷いことを言ったのか、学校の先生がいかにいじめを見過ごしていたのか、保護者がいかに悲しんでいるのかなどなどのポイントばかりが注目されていて、だんだん劇場型化していきます。もともと、学校の現場ですら、発見と対策の議論ばかりに終始していて、どういじめを発見するのかとか、どう叱るのかという話ばかりしています。しかし、本来であれば、どのような教室作りをすることによっていじめが起きにくいようにしていくのかということが必要になってくるはずです。そして、その検証も必要になってきます。

今のいじめ報道や、学校の現場にはこの4つのサイクルが欠けがちなところが残念ながらあります。なので、この4つのサイクルをしっかりと伝えていくことが重要です。

メディアが「命綱」にもなるし、「凶器」にもなる

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いじめ報道に関連して、自殺の話をしておきます。自殺の報道を繰り返せば繰り返すほど、自殺の連鎖が生じてしまいます。「若きウェルテルの悩み」という小説があって、その小説を読んだ人が感化されて自殺したことから命名された『ウェルテル効果』という言葉があります。報道が繰り返し、人の自殺を取り上げることによって、人々の抑うつしている気分に背中を押してしまう、自殺という出口があるんだということを伝達してしまうというのが『ウェルテル効果』です。

これは、「後追い自殺」ではなく、「自殺気分の連鎖」である点が重要です。だからこそ、WHOが自殺について報道する際には、注意しましょうねと言っているわけです。簡単に言えば、メディアというのは「命綱」にもなるし、「凶器」にもなるという発信をしています。

WHOが出しているガイドラインでは「凶器」にならないためにまず自殺をセンセーショナルに取り扱わない。問題解決策として描かない。それから自殺の報道を過剰に繰り返さない。具体的な手段や遺書というのを報じない。BGMを過剰につけたりしない。写真や映像で具体的手段を出すことはせず、慎重に取り扱いましょうといったガイドラインを出しています。これが「凶器」にならないために発信している状況だということになります。

本当に色々な報道をチェックするとこういったガイドラインが守られていない報道というのはたくさん存在しています。特に新聞よりテレビに多い状況です。

しかし、一方で自殺に関する啓発や教育を行うことによってメディアは「命綱」になります。自殺に残された人に対して十分な配慮をすること、あるいはそもそも自殺をせずにその前で留まるために、支援を受ける手段にはどんなものがあるのかということを報じることなどが挙げられます。

これは自殺の話ですが、いじめ自殺に関する報道も、ぜひとも自殺報道に対するガイドラインを守って欲しいです。遺書を大きくクローズアップさせて、こんなかわいい児童がこんなに尊い命を残虐ないじめによって亡くしてしまったと伝えることによって、そうか自殺すれば僕はヒーローになれるんだと。つまりは、自殺というゴールによって、いじめっ子に復讐を果たせるんだよという誤ったメッセージをメディアが発信することを抑制しなくてはならないのです。

このようにメディアがむしろ炎上を加速させる方向にはいっているけど、問題解決の役に立つような方向で力をつけてくれていません。「命綱」になってくれていないという実情があるわけです。

(つづく)

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2016年3月5日(土)にSVP東京ネットワークミーティング

『繋がる力でいじめに向き合う~いじめを止めるオトナの役割』を開催!

日時:3月5日(土)16:00~19:00

会場:日本財団ビル 2階 AB大会議室

ゲスト:

●荻上チキさん(代表理事)須永祐慈さん(事務局長)

特定非営利活動法人 ストップいじめ!ナビ

●明智カイトさん

いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン代表

●朝倉景樹さん(シューレ大学スタッフ)

特定非営利活動法人 東京シューレ理事

●渡辺由美子さん

特定非営利活動法人 キッズドア理事長

●綾屋紗月さん

おとえもじて/東京大学先端科学技術研究センター

イベント詳細と、参加お申し込みはこちらから⇒

http://nwm79.peatix.com/

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NPO法人「ストップいじめ!ナビ」

「ストップいじめ!ナビ」は、一向におさまることのない「いじめ問題」に一石を投じようと、2012年秋に活動を開始したNPO法人です。様々な分野の専門家が集まり、それぞれが持つノウハウや社会資源を結集させて「いじめ問題」への具体策を提示・実現させていこうとしています。

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『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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