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岐阜県 関市・美濃加茂市と、高島屋が事業提携。ふるさと納税「負け組」がイッキに「勝ち組」を目指す戦略

秋元祥治やろまい代表取締役/武蔵野大学EMC教授/オカビズ

2008年にスタートした「ふるさと納税」が始まり7年目、地方から都市部に出た人々が地元に納税できる、ってコンセプトで、都市と地方の税収の格差を埋めるために始まったわけですよね。

そんな中、岐阜県 関市・美濃加茂市の両市が、岐阜高島屋と提携した「ふるさと納税」の活性化策を21日に発表し、ワールドビジネスサテライトはじめ、複数のメディアで取り上げられ注目を集めています。

年収700万円の人で、約5万円分の返礼品。ふるさと納税が、イッキに注目を集める状況に。

ふるさと納税とは、自己負担2000円で、年収や扶養家族の構成に応じて金額は変わりますが、一定額を住んでいる所以外の自治体に所得税・住民税を納められるって、仕組みですよね。そして、その金額に応じて、お礼がもらえるって制度ですね。もらえるお礼の程度が一番に気になるところだと思いますが(還元率といわれていますね)、30-50%程度が大半のようです。

今年から、自治体へのふるさと納税に当てられる金額(控除額)が2倍になり、会社勤めの方が控除を受けるためにこれまで必要だった確定申告も、基本的には不要になり、情報サイトや雑誌等でも特集されてかなり注目を集めています。

自分はどれくらいの金額がふるさと納税できるのか、気になった方は「さとふる」サイトのシュミレーターから。

さとふる・シュミレーター画面
さとふる・シュミレーター画面

例えば、年収700万円で扶養家族が配偶者のみの世帯だと、108,000円もふるさと納税に充てられるんですね。1万円分のふるさと納税のお礼で「豚肉2キロ」とか「お米15キロ」「ワイン2本」とか探してみるといっぱい出てくるのです。還元率50%程度だとすれば、5万円分くらいの返礼品をうけとれる、というとても納税者にとってお得な制度。

返礼品競争になっていることの是非も議論になるなか、とはいえ現行制度の中で勝ち組・負け組が生まれているのは事実。

全国初となる複数自治体と百貨店の事業連携

そんな中、岐阜県 関市・美濃加茂市の両市が、岐阜高島屋と提携した「ふるさと納税」の活性化策を発表しました。

関市長、美濃加茂市長、岐阜高島屋社長(左から)
関市長、美濃加茂市長、岐阜高島屋社長(左から)

実は、関市が昨年度受けた寄付は約660万円、美濃加茂市は約200万円とのことで、いわばふるさと納税の『負け組自治体』が、この連携を通じて各年間1億円のふるさと納税を目指すとのこと。

岐阜県関市と美濃加茂市は21日、ふるさと納税の寄付者に贈る返礼品に、10月から岐阜高島屋が選んだ互いの特産品を加える、と発表した。見返りの選択肢を広げて寄付の魅力を高めるほか、大都市圏を中心に全国に17ある高島屋の顧客に情報を発信し、寄付額の大幅増を狙う。複数の自治体が百貨店と提携してふるさと納税をPRするのは国内初

出典:岐阜新聞・9月22日朝刊

高島屋が独自の基準で特産品を選定し、2市共通で紹介パンフレットを制作。約30コースあり、絶品で最高級の干し柿と言われる美濃加茂市「堂上蜂屋柿」や、世界的な刃物産地・関の「包丁と飛騨牛のセット」といったこだわりの一品から、「小瀬鵜飼の観覧券」や「がん検診コース」などユニークな体験型ギフトまで取り揃えられています。

関市・美濃加茂市の返礼品が合わせて紹介されているパンフレット
関市・美濃加茂市の返礼品が合わせて紹介されているパンフレット

関市美濃加茂市のホームページでこれから応募を受け付けるとのこと。

これまでは「ふるさとチョイス」や「さとふる」といったサービスがふるさと納税の中心的なチャネルだった中で、デパートとしては全国2例目(全国一例目は、米子市と米子高島屋の連携)となります。米子市は、高島屋と連携を開始した4月1日以降、4 月~7 月までの寄附金額は約 3.2 億円・前年同期の約 1.8 倍に伸長。また、これまで3 万円以上の高額寄附が少ない課題を持っていたなか、米子高島屋との連携を経て、4月~7月の3 万円以上の高額寄附金額は前年同期の約 6.7 倍に。

こうした取組みのポイントは、ずばり以下の2点だと考えられます。

(1)返礼品が「百貨店セレクト」だ、という上質なイメージを発信できる

ふるさと納税サイトの最大手「ふるさとチョイス」に掲載されている自治体数は1,000を越え、掲載返礼品数は20,000件を超えているとのこと。こうした中で、どこの自治体のどんな返礼品を選んだら良いのか、わからない・・・選べないというユーザーが増えてきていることが容易に想像できます。実際に、WEBや書籍でも「オススメのふるさと納税先」といったものが幾つも出ているわけです。

返礼品の選定は、各自治体によってまちまちで、公募をしているケースもあれば担当部局の判断などで選ばれるなど、関係者によると不透明なケースもあるというんですね。

そんな中で、上質な品揃えで高いブランドイメージを持つ百貨店のバイヤーが、厳選した返礼品という打ち出しが安心感・信頼感を生む、というのが、他の自治体とのふるさと納税競争で差別化するポイントになっていると考えられます。

(2)高島屋19万人の会員(主に、外商先ですね)に対して訴求できる

百貨店の上得意先、すなわち外商先の顧客である富裕層への訴求が期待できるのがなによりもこの連携の最大のポイントだと思います。厚生労働省「平成22年国民生活基礎調査の概況」によると、世帯所得が1,000万円越えるのは、12%。例えば、年収1000万の方で約20万円、3000万円の方だと約100万ものふるさと納税が可能になります。(もちろん家族構成などで変わります)

そういった言わば富裕層にたいして、高額なふるさと納税に対して、上質な返礼品をパンフレットという形で、高島屋外商スタッフが実際に客先訪問の際に、提案していくことが可能になるわけです。

ふるさと納税を行う人々の大半は、首都圏・近畿圏・名古屋圏など大都市圏が中心で、そうしたエリアに店舗を多く展開し顧客を抱える百貨店との連携は、大きな強みとなるはずです。

一方で、テレビ報道によれば高島屋の既存店の売上(15年3-8月)は、大都市の7店舗は外国人訪問客などインバウンド効果を享受し前期比約+1%となる一方、そうしたメリットを受けづらいその他10店舗(岐阜高島屋など地方店)では約-4%となっているとのこと。そうした中で、地方百貨店にとっては、新たなビジネスチャンスをふるさと納税に見出した、といえるのでしょう。

尾関健治・関市長「これまでの方針から大きく舵を切り、守りから攻めの姿勢に」、藤井浩人・美濃加茂市長「国内屈指の百貨店である高島屋さんのお墨付きは大変な強みになる」

こうした中で強い危機感を抱いた岐阜県関市の尾関市長と、美濃加茂市の藤井市長に今回の連携への考えを伺いました。

▼ふるさと納税に対して市の考えは?

【尾関健治・関市長】

これまでは最低限の宣伝だけで、特別に力を入れてきませんでしたが、ふるさと納税が人気を集め自治体間の納税額の差が大きく拡大してきた中、関市としてもふるさと納税を関市自体の情報発信、地元特産品の販売拡大、税収確保の貴重な手段と捉え、今回、これまでの方針から大きく舵を切り、守りから攻めの姿勢に転じました。

【藤井浩人・美濃加茂市長】

昨年度までは、本来の趣旨の一つである、あくまで地域を応援してもらうための制度であると捉えており、競争には出遅れていました。しかしながら、まずは地域を知ってもらわなければならない、(1)その知ってもらうための入り口の一つとして、また、国内の盛り上がりから、(2)市内販売店の売り上げアップにも寄与できると考え、取り組みを本格化させました。今後は海外姉妹都市の物産も考えています。

▼百貨店と事業連携を行った意図は?

【尾関健治・関市長】

期待するのは高島屋さんが持つ「ブランド力」です。高島屋さんと連携することで、納税される方に質の高さや安心感を持っていただけます。

また、19万人の優良なカード会員の方に向けて、直接にふるさと納税を宣伝していただけることも、大きな魅力です。

【藤井浩人・美濃加茂市長】

堂上蜂屋柿をはじめ、地元には本物の良さを持った物がある。それを多くの方に信用を得た上で知っていただき手に取ってもらいたい。その信用のために、国内屈指の百貨店である高島屋さんのお墨付きは大変な強みになると考えました。

▼二市で連携した取り組みは珍しい、その意図は?

【尾関健治・関市長】

複数市が連携してコラボしたことで、「全国初」という冠がついたわけですが、美濃加茂市と連携したということ自体で情報発信の力が倍増した、と考えています。

また、隣同士の自治体がふるさと納税を奪い合うのではなく、連携してお互いの地域の特産品を選びあうかたちを取ることで、どちらの市にも相乗効果が生まれてくることを期待しています。

【藤井浩人・美濃加茂市長】

最大のメリットは話題性だと考えます。広域連携の必要性が話題となる中、単独で高島屋さんと連携するのとは一つ違う連携により、知名度アップという目的をさらに強固にする話題性を得られた。また同時に、関市さんとは、今回の件を経て、お互いの特産品の良さや、なにより職員同士の関係も築くことができた。更に今後、広域連携の発展につなげていきたいと思います。

年間10億円以上のふるさと納税が集まる「勝ち組」、年間1.6億円以上の税金が出ていってしまう「負け組」

町の税収を上回るふるさと納税が集まる町もある一方で、多額の税金の流出が起きている自治体もあり、ふるさと納税の「勝ち組」と「負け組」が生まれつつある状況ですね。

十勝平野の北端、北海道上士幌(かみしほろ)町。人口約5千人、牛の飼育数3万4千頭の酪農の町に2014年度、全国から約5万5千件、計約10億円のふるさと納税が寄せられた。前年度の4倍で、町税収入6・4億円を上回った。町企画財政課の関克身主幹は「想定外の勢いに驚いている」と言う。

人気の秘密は返礼品の和牛。町内の牧場で飼育した最高品質の牛肉で、1万円を寄付すると300グラムがもらえる。空港や駅から遠い同町は元々、和牛など特産品のネット通販に力を入れてきた。町は11年8月から通販サイトをふるさと納税に転用。ほかの自治体が返礼の品ぞろえや受発注に四苦八苦する中、ネット通販で培った多彩な品ぞろえと到着の早さで人気を集めた。

出典:朝日新聞・5月11日

一方で、税収の大幅減に頭を悩ます自治体も。

昼間人口90万人のオフィス街と高級住宅地を抱える東京都港区。11年度に286人だった区民の寄付者は13年度に657人にのぼり、都内の区市町村最多の2億9千万円を寄付。区は1億円の税収を失った。14年度の寄付者はさらに増えて1057人、寄付額は5億3千万円で、1億6千万円の減収を見込む。(中略)制度が拡充される中、担当者は「今後、減収は5億~6億円になるだろう。無視できる額ではない」と危機感を抱く。15年度の一般会計は1141億円だが、5億円は小学校の給食に区が支出する額に匹敵する。

出典:朝日新聞・5月11日

企業版・ふるさと納税もニュースで取り上げられるなど、引き続き加熱するふるさと納税。

EC最大手・楽天市場の参入など新たな動きが続くなか、引き続き目が離せないですね。

ではでは。

やろまい代表取締役/武蔵野大学EMC教授/オカビズ

01年より、人材をテーマにした地域活性に取り組むG-netを創業し03年法人化。現在理事。13年オカビズセンター長に就任。開設9年で約3300社・2万2千件超の来訪相談が押し寄せ、相談は1ヶ月待ちに。お金をかけずに売上がアップすると評判で「行列のできる中小企業相談所」と呼ばれている。2022年より武蔵野大学アントレプレナーシップ学部教授に就任。内閣府・女性のチャレンジ支援賞、ものづくり日本大賞優秀賞、ニッポン新事業創出大賞・支援部門特別賞ほか。内閣府「地域活性化伝道師」等、公職も。著作「20代に伝えたい50のこと」、KBS京都「KyobizX」・ZIP-FM「ハイモニ」コーナーレギュラーも。

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