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携帯「実質0円」の是非--企業倫理は“誰のため”にあるのか

安藤光展サステナビリティ・コンサルタント
(写真:アフロ)

■携帯料金、高いってよ

9月に安倍首相が「携帯料金って高いんじゃない?」という発言し、事実上の「携帯電話料金の引き下げ」を求めました。その後、各ニュースメディアでも良く取り上げられていたので、この件をご存知の方も多いかと思います。

そして昨日、本件に関する有識者会合があったそうで、まだ一悶着ありそうな気配です。

総務省は26日、携帯電話料金の引き下げ策を検討する2回目の有識者会合を開き、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクといった携帯電話大手などから意見を聴いた。携帯大手側は、契約先を変更する際の端末代値引き策などについて「必ずしも健全ではなかった」(阿佐美弘恭ドコモ常務)と述べ、改善に向け検討していく考えを示した。

携帯大手は「不公平感や分かりにくさがあるのは承知している」(藤田元KDDI理事)と見直しに前向きな姿勢を示した。ただ、端末代値引きの取りやめについて、徳永順二ソフトバンク常務執行役員は「困難だが、議論していきたい」と述べるにとどめた。

出典:大手3社、改善検討表明=携帯料金下げで―総務省有識者会合

私は通信業界に詳しいわけではありませんが、1人のユーザーとして、1人のCSR評価をするコンサルタントとして感じるのは、「まだグダグダ言ってるの?」ということです。

約2年前に『未だに続くauのオプション強制加入問題から考えるコンプライアンス』という記事をYahoo!ニュースでも書いたのですが、随分前からスマートフォンの契約には問題があり、未だその根本的な契約に関する課題は解決できていないように思います。

企業は、法律に違反しなければどんなことをしてもいいというわけではありません。それがいわゆるCSR(企業の社会的責任)という考え方の基本になります。そのCSRの中で考慮されるべきとされているのが、CSRの国際ガイドライン「ISO26000」で規定されている「消費者課題」の問題です。詳しく解説します。

今後のタスクフォース(有識者会議)の展開は、総務省の『ICTサービス安心・安全研究会 会議資料・開催案内』で確認してください。

■消費者課題と権利

CSRという概念は、コンプライアンス(法令遵守)やコーポレートガバナンス(企業統治)という中核的課題の他に「消費者課題」という考え方があります。以下に ISO26000 で規定される課題を挙げます。

1、公正なマーケティング、事実に即した偏りのない情報および公正な契約慣行

2、消費者の安全衛生の保護

3、持続可能な消費

4、消費者に対するサービス、支援、並びに苦情および紛争の解決

5、消費者データ保護およびプライバシー保護

6、必要不可欠なサービスへのアクセス

7、教育および意識向上

この記事を読んでいる方は企業のCSR担当者ではないと思いますので詳細は省きますが、今回の問題は1番と4番が大きく関わります。

つまり、問われるのは「消費者が望む適切な契約をしているか」、「消費者の苦情・クレームがあった場合に適切な吸い上げと対応をしているか」ということだと思います。

店頭で新規購入・機種変更をなどをしたことがある人はわかると思いますが、前者の課題は「オプション問題」として依然として存在しているようですし、後者の課題は「企業倫理」として顧客の不満が一定数あるのに、それに対応しないのは組織として適切なのか、というものにつながってきます。

さてさて、あなたから見て、大手3社には「オプション問題」も「企業倫理の課題」もないように見えますでしょうか?

■オプション契約の是非

利用料金は通話料だけではなく、いわゆる「オプション・プラン」の有無でも変わってきます。もちろん、企業としてクロスセル(関連サービスの販売)をすることは、事業を営む組織として当然のことと言えます。しかし、これが“必要もないサービス”だった場合は話が違います。

コンプライアンスとは日本では「法令遵守」と訳されます。しかし本来は、「社会からの要請に応える」のがコンプライアンスの意義のはずです。法律に触れなければ、ユーザーの苦情に対応しなくてよいとはなりません。むしろ、多くのユーザーは請求書明細を見ずに、どんなサービスにお金を払っているかすら認識していない可能性も高いです。

私は昨年の2014年12月に機種変更をしたのですが、オプション加入は必要ないため断りました。その前(2013年10月)の時ほど、「すぐ解約していいから登録してください!」感は少なかったですが、それでもかなりプッシュされました。未だに、即解約を前提にオプションに登録するユーザー側のメリットがわかりません。

大手キャリアがすべてこのような対応をユーザーにしているとなると、第三者として適切な「消費者の権利」が守られているように見えません。今回ニュースになっているのはオプション加入の話ではないものの、こういった企業姿勢が続くのであれば、どんなに良いCSR活動をしていても消費者は企業を評価しないでしょう。

各社の広報やCSR担当の方には、見栄えの良い所だけではなく、消費者というステークホルダーに正面から向き合った結果を、情報開示していただきたいと思います。『消費者意識調査とISO26000/消費者課題からみるCSRの現状』という記事でも書いたのですが、商品・サービスに対する消費者意識は高まっており、このままでは企業評価は上がりませんよ?

■CSRの経済性と社会性

ではCSRという概念に従い経済性を捨てろというものかというと、決してそうではありません。

今回の課題を解決し、同業他社より契約情報や利用料金透明性を高めれば、それに反応する消費者もいるでしょう。またCSRは「リスク&オポチュニティ」(危機管理と事業機会)と言われており、クレームや今回のように大きな問題になる前に対応することで経済的損失(ブランド価値毀損なども含む)を防ぐという意味で、社会性も経済性も成立しうると考えられています。

Yahoo!ニュースのコメントでも批判的なコメントが多かったですが、冒頭で引用した報道では、各社の役員レベルで「不適切に近いサービスだったかもしれない」といった主旨の発言がされており“知っててやってたの?”とイメージするのは私だけではないでしょう。

今までの慣習は過ぎたことなのでしょうがないとして、今後は「消費者権利」を配慮したサービス展開を期待しています。1人のユーザーとしても、1人のCSR評価をするコンサルタントとしても、この「消費者課題」に関する意見を引き続き発信していきたいと思います。

で、消費者側は何ができるのかという点ですが、まず、あなたや家族の携帯利用料金の明細確認からしてみてはいかがでしょうか。

サステナビリティ・コンサルタント

サステナビリティ経営の専門家。一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会・代表理事。著書は『未来ビジネス図解 SX&SDGs』(エムディエヌ)、『創発型責任経営』(日本経済新聞出版)ほか多数。「日本のサステナビリティをアップデートする」をミッションとし、上場企業を中心にサステナビリティ経営支援を行う。2009年よりブログ『サステナビリティのその先へ』運営。1981年長野県中野市生まれ。

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