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青森山田VS前橋育英、高校サッカー選手権決勝詳細プレビュー。勝負を分ける5つのポイント

安藤隆人サッカージャーナリスト、作家
J2ジェフ千葉入団が内定している青森山田MF高橋壱晟(写真:田村翔/アフロスポーツ)

青森山田と前橋育英の決勝となった、第95回全国高校サッカー選手権大会。多くのJリーガーを世に輩出する、高校サッカー界きっての名門校同士の対決は、否が応でも注目が集まる。

今回はこの決勝戦をより深く見るために、勝負のポイントとなる部分をピックアップし、プレビューして行こうと思う。

予想布陣は青森山田が【4-1-4-1】、前橋育英が【4-4-2】

両チームの主なOB

青森山田

橋本和(神戸)、柴崎岳(鹿島)、櫛引政敏(岡山)、差波優人、常田克人(共に仙台)、室屋成(FC東京)、神谷優太(湘南)など

全国大会の戦績

インターハイ優勝1回(2005年度、千葉インターハイ)

選手権準優勝1回(2009年度)

高円宮杯プレミアリーグイースト1回(2016年度)

高円宮杯チャンピオンシップ1回(2016年度)

前橋育英

松下裕樹(群馬)、細貝萌(シュツットガルト)、青山直晃(ムアントン・ユナイテッド)、田中亜土夢(HJKヘルシンキ)、青木剛(鳥栖)、青木拓矢(浦和)、小島秀仁(愛媛)、六平光成(清水)など。元日本代表では故・松田直樹、山口素弘がいる。

全国での戦績

インターハイ優勝1回(2009年度、奈良インターハイ)

選手権準優勝1回(2014年度)

◎ポイント1

青森山田の郷家友太と高橋壱晟の2シャドーと、前橋育英の長澤昴輝と大塚諒のダブルボランチのマッチアップ!

解説:

このマッチアップはこの試合で大きな意味を持つ。両コンビともこれまでのチームの勝敗を左右して来た心臓部分。郷家と高橋は高円宮杯プレミアリーグイーストを通じて、守備力が飛躍的に増した。常に同等またはそれ以上の相手と1年間90分ゲームで対等に渡り合うためには、前線からのハードな守備が必要不可欠。彼らはそれを献身的にこなし、時には「守備の意識が強過ぎて、上手く攻撃の持ち味を出せない」と2人とも悩む時期があったが、それも試合をこなすごとに、どこで前線に力を入れるか、どのタイミングで仕掛けるかが精査されて来た。結果、自分達より格上がほぼいない選手権では、これまで守備に使っていたパワーを前に使えるようになり、このコンビの破壊力は目を見張るほどの効力を発揮。これまで高橋は4戦連発の4ゴール。郷家も2ゴールを挙げている。

この得点源を迎え撃つのが、長澤と大塚のダブルボランチ。この2枚も今大会に入って絶好調だ。これまで山口素弘、細貝萌ら多くの優秀なボランチを世に送り出して来た山田耕介監督の手腕がここでも発揮され、春先は心許なかったダブルボランチの連携は確実に良くなっている。共に運動量があり、献身性が高く、攻撃に転ずるパスも出せる。このマッチアップでどちらが優位に立てるか。ここで試合の流れは大きく変わって来る。

◎ポイント2

セカンドボールの攻防!

解説:

青森山田の1トップ・鳴海彰人と前橋育英FW人見大地は共に前線で重要な起点となる。鳴海はずば抜けた身体能力を持ち、空中戦と強靭なフィジカルを活かしてボールを収め、2列目の攻撃を引き出すだけでなく、DFとの駆け引きの精度も高く、一瞬のスピードで裏に抜け出したり、ドリブルでこじ開けることも出来る。万能型の鳴海に対し、人見のポストプレーの質は明らかに鳴海より上。ヘッド、足下でしっかりとボールを収め、前向きに走り込んだ仲間へ正確なボールを供給する、まさに『ポスト職人』だ。タイプは違えど、彼らが作った前線の起点を有効活用出来るかがポイントだ。

つまりセカンドボールの攻防戦でどちらが上回れるか。まず対前橋育英の場合は、青森山田のDFラインの特徴は両サイドバック(左の三国スティビアエブス、右の小山新)が186cmの長身で、両CB(橋本恭輔と小山内慎一郎)は178cmと176cm。制空権は両サイドバックが握っており、ボールサイドとは逆のサイドバックが中に絞ってクロスを弾く。三国と小山新の2人がしっかりと人見にプレッシャーをかけ、落とされても小山内と橋本の両CBとアンカーの住永翔が、セカンドを狙って来る前橋育英FW飯島陸、ダブルボランチの長澤と大塚の飛び込みを抑えられるか。

青森山田の守備の強さの秘訣として、『中央の堅さ』がある。どれだけ中盤やサイドで揺さぶられても、小山内、橋本、住永の3枚は必ず中央を固めて抑える。この意識統一が出来ているからこそ、青森山田は簡単に崩れない。この統一意識を前橋育英がどこまで崩せるか。ここがポイントになる。

一方で対青森山田の場合は、青森山田の鳴海は個でも打開出来るし、後方には郷家と高橋のアタッキング能力と展開力を併せ持ったコンビがいる。前橋育英は準決勝を体調不良で離脱した右サイドバックの後藤田亘輝が決勝も引き続き離脱することになると、小山翔と角田涼太朗の2CBになることが予想される。このCBコンビはアジリティーがあり、出足の鋭さが武器。かつ右サイドバックに回る松田陸もカバーリング能力に優れており、このチャレンジ&カバーがスムーズに行くかがポイントとなる。

◎ポイント3

前橋育英のアンカー脇の攻略法!

解説:

青森山田は住永をアンカーに置く、【4-1-4-1】。それだけに前橋育英はいかにアンカーの脇を攻略出来るかがポイントになる。松田陸が右サイドバックに入った場合、左サイドバックのレフティー・渡邊泰基の両サイドバック2人は縦パスを入れるのが非常に上手い。特に松田はボールキープからのノールックパスや絶妙なタイミングでの縦パスを入れるのが非常に上手く、準決勝の佐野日大戦でも彼の縦パスは攻撃のスイッチとなっていた。

「前線の選手が相手をずらしてくれるので、そこの間を突きたい」と松田が意欲を見せたように、キックの精度が高い両サイドバックの攻撃の起点を上手く機能させれば、攻撃は活性化するだろう。

これはポイント2も共通するが、前橋育英の人見のポストプレーの精度は高いだけに、彼がアンカー脇のスペースに顔を出して、サイドバックからのボールを上手く引き出して、飯島やダブルボランチ、そして両サイドハーフに展開をして行ければ、前橋育英は青森山田ディフェンダー陣に大きな圧力をかけることが出来る。

それだけに青森山田は住永が左右に振られないように、両サイドバックと嵯峨理久と住川鳳章の両サイドハーフがいかにチャレンジ&カバーをしながら、相手のサイドバックに起点を作らせないか。入れられても、CBと住永のトライアングルがプレスを掛けて奪いきれるか。

前橋育英がアンカー脇を攻略出来るのか、それとも青森山田が攻略をさせないか。この駆け引きは面白いだろう。

◎ポイント4

両GKの安定感と守備範囲の広さ!

解説:

両チームの共通点として、今大会に入ってGKが非常に安定していることが挙げられる。

青森山田のGK廣末陸は今大会ナンバーワンGKであり、来季のFC東京入団が内定し、昨年10月のAFCU−19選手権の優勝メンバーでもある。彼の活躍は戦前から十分に予想出来た。安定したセービングとハイボールの対応、そしてスピードと足下の技術があり、後ろでのポゼッション、高いディフェンスラインのカバーと何でも器用にこなす。さらに高性能のキックは相手にとって非常に脅威で、彼のキックがそのままゴールまでの流れに直結することもある。彼の『レーザービーム』は前橋育英にとって大きな脅威だ。

一方の前橋育英GK月田啓は、昨年の夏過ぎに、それまで正GKだった2年生GK松本瞬の負傷によってチャンスを得て、それを見事にモノにしたGKだった。

180cmと高さは無いが、「前に出る積極性とジャンプのタイミング、キャッチングを意識して磨いて来た」と語ったように、今大会では抜群のハイボール処理を披露している。準決勝の佐野日大戦でも相手のクロスを尽くキャッチし、チャンスを与えなかった。さらにセービングも上手く、1対1のシュートブロックやミドルシュートのセーブも軽快さを発揮。「凄く楽しんでプレー出来ている」と、大舞台をプレッシャーではなく、自らのモチベーションに変えられる性格が奏功しており、松田も「後ろに月田さんがいてくれて安心感がある。ハイボールも安心して任せられる」と語るように、今大会無失点を続ける守備陣の原動力となっている。

「GKの安定がチームの安定をもたらす」と黒田剛監督が語ったように、両チームにはその存在がいるだけに、どちらの安定感が上回るかに注目だ。

◎ポイント5

青森山田の『飛び道具』!

解説:

青森山田には2つの高性能な飛び道具がある。一つはポイント4で挙げたように、GK廣末の『レーザービーム』。もう一つが郷家のロングスローだ。これまで合計3得点が彼のロングスローから生まれている。ゴール前まで届き、かつ山なりだけでなくライナーでも飛ばせる彼のロングスローに対する中の動きは非常に洗練されている。廣末のキックに関しても、「陸がボールを持ったら、自分がすぐに動き出すようにしている。必ず見るようにしている」と鳴海が語ったように、意思統一が出来ており、前橋育英はいかに青森山田の素早い動き出しを敏感にキャッチし、守備連動を図れるかがポイントになる。

まとめ

ここで挙げた5つのポイントの他にも、多くの見所はある。それだけ両チームの実力は伯仲しており、持っている力そのままを発揮して、ファイナリストまで勝ち上がって来た。実績で言うと、高円宮杯プレミアリーグイーストとチャンピオンシップを制している青森山田が上だが、前橋育英も強豪ぞろいのプリンスリーグ関東でしのぎを削り、今大会に入ってから選手個々が飛躍的に伸びた。実力差は大会前よりも狭まり、拮抗して来たと見て良い。だからこそ、高校年代の最後の大会のファイナルに相応しい戦いが期待されるだろう。

注目の決勝戦は1月9日の14時5分に、新たな聖地・埼玉スタジアムで熱戦の火蓋が切って落とされる。

サッカージャーナリスト、作家

1978年2月9日生。岐阜県出身。大学卒業後5年半務めた銀行を辞め、単身上京しフリーサッカージャーナリストに。ユース年代を中心に日本全国、世界40カ国を取材。2013年5月〜1年間週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!SHOOT JUMP!』連載。Number Webで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。全国で月1回ペースで講演会を行う。著作は10作。19年に白血病から復活したJリーガー早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』を出版。2021年3月にはサッカー日本代表のストライカー鈴木武蔵の差別とアイデンディティの葛藤を描いた『ムサシと武蔵』を出版。

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