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夢は「Jリーグ52クラブの52地域で映画祭」、“日本初のサッカー映画祭”仕掛け人が語る全国展開の意味

浅野祐介OneNews編集長

国内外の「サッカーを題材とした映画」のみを上映するヨコハマ・フットボール映画祭が5年目の今年はついに全国展開へ。主催者である映画祭プロデューサーの福島成人さんと全国展開の窓口となっている“ツンさん”ことツノダヒロカズさんに話を聞いた。

――ヨコハマ・フットボール映画祭も5年目を迎え、今回は初のジャパンツアー。全国8都市での開催となっていますが、今回、横浜以外でも開催することになった経緯を教えてもらえますか?

福島「一般的な映画祭は、地場、地域と紐づき、積み重なって大きくなっていくものです。『カンヌ国際映画祭』もそうですし、国内なら『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭』とか、地元の人に愛されながら伸ばしていくのが王道のパターンだと思いますが、自分たちもそういう風にできたらなと思っていました。とはいえ、ずっとやっていかれるかというと、なかなか……。僕たちもこれを専業でやっているわけではないので、当然、できることに限りが出てくる。その一方で『各地域でやってほしい』という声もあって、ツンさんからも『全国でやろうよ』とずっと言われていました。僕が迷っていたのは、王道的に横浜で開催する方向へと深掘りして、フジロックフェスティバルのように各地域からみんなが横浜に来るというパターンなのか、あるいは『in東京』だったり『in仙台』だったり、自分たちが出ていくパターンもあるかなと。実際に『地元でやりたい』という声もたくさんあって、悩んで考えた結果、それなら地元の人にやってもらったほうがいいのかなという結論に至りました」

ツン「そこが重要ですよね。ヨコハマ・フットボール映画祭も5年目、普通ならそのブランドにしがみついてしまうから、『ヨコハマ・フットボール映画祭in仙台』みたいにしてしまうと思うんです。ただ、福島成人がすごいのは、『やるんだったら、そこの冠にしましょう』という大英断をしたんです。100年とか長いスパンで見たら、それが大事ですよね。“人の名前”より“ご当地の名前”がつく、そうすると、みんな他人事じゃなくなる。やっぱり、当事者意識を持たせることが重要ですから。結果として、みなさんが当事者意識を持つと、ロゴ一つとってもいろいろ作ってくださるんですよ。会場だったりゲストだったりも、地元の方だったらその地元のクラブとの関係も僕らよりずっと密接だったりしますし、地元の応援番組のキャスターに来ていただくとか、僕たちには難しいことでも話が通りやすかったりするので、各地域のお客さんに喜んでもらえるイベント作り、キャスティングができて良かったなと思っています。あと、横浜はチームがたくさんありますよね。だから、どこかと個別に組むのが難しい。でも、福岡ならアビスパ福岡、札幌ならコンサドーレ札幌、となる。首都圏だと媒体もたくさんありますが、逆に選択肢が多すぎてといったこともあるので、首都圏では見えない可能性がたくさん見えたなという感じがします」

――地元のJクラブとのつながりという点で、センダイ・フットボール映画祭は象徴的でしたね。

福島「仙台では、PR大使の千葉直樹さんや平瀬智行さん、同日開催の松本では、松本山雅FCの大月(弘士)社長がその日(1月31日)が退任の日にもかかわらず来てくださって、J1昇格に尽力された飯尾和也選手もその日が契約終了日だったのですが、そういう話をしてくれたりしました。もともと松本は、商店街映画祭とのコラボの中でプログラムしましょうとなっていて、僕らだけだったら場所を探したり誰かに連絡をしたりというところで壁にぶつかってしまうところがあるでしょうし、また、形として僕たちの下働きのような仕事になってしまうと、あまりうまくいかないでしょうから、主体的に動いていただくことで本当にうまくいったと思います」

ツン「Jリーグに似てますよね。Jリーグも日本サッカー協会がドーンとあるけど、それぞれのクラブは自主独立していますから。協会がある程度のレギュレーションは管理して、あとはそれぞれのクラブの工夫があるから、儲かるクラブもあれば赤字のクラブもあって、ビッグネームの選手を呼ぶクラブもある。理想を言えば、Jリーグ52クラブの52地域で映画祭ができると素敵だなって思います」

――ツンさんは2012年からヨコハマ・フットボール映画祭に関わっていますよね。

ツン「はい。2011年のときは直接は関わっていなかったのですが、そのとき福島くんのところから映画をお借りして、『チャリティー映画をやりませんか』というのがスタートです。付き合いとしては2011年からですね。こんな映画祭をやっていたんだ、すごいなって。NPOだから“もうけ度外視”なんです。ベルリン映画祭など他の映画祭を見て、映画を借りて、買い付けをして、さらには自分たちで字幕をつけて、それだけやったものを横浜でたった二日間しかやっていない。どう考えても効率が悪い(笑)。二日間では動員できても1000人くらいですから」

――すごく贅沢なことをしていますよね(笑)。

ツン「大の大人が一年かけて準備して、会場費や経費を引いたら、利益はほぼほぼないですよね。これだけ清貧にやっているのを見て、この人たちはすごいなって思い、そこに心打たれて『全国でやろうよ』という話を僕からもしました」

――いまやドイツ、ブラジルでの同様の映画祭と並んで世界三大「サッカー映画祭」の一つとなりましたが、海外のサッカー映画祭との違いを教えていただけますか?

福島「まず、ファイナンシャルが大きく違いますね。ドイツのベルリンでは、サッカー協会がメインのスポンサーになっていて、映画祭の冊子にも協会会長のメッセージがあって、という感じです。ブラジルは、昨年のワールドカップのときにも話を聞いてきたのですが、基本的にはNPOがやっている中でも、一般企業がスポンサードしていたりと、特定の芸術プログラムに対するサポートについては税制面でも控除される仕組みがあるようです。それぞれ、かなり大きい会場で映画祭を開催していますが、無料なんですよね。映画祭に対するサポート面は大きく違うと思います」

――既に来年度の構想、動きも進めているんですか?

福島「来年度っていうところまでは具体的ではないですが、今、ツンさんのほうで、海外展開を企画してくれています」

ツン「実は、インドネシアで『ジャパンフェス』としてやってきたんですよ。『アイ・コンタクト』という作品にインドネシア語があったので、それをお借りしていったんですけど、現地の人が涙して見ていたのがとても印象に残っています。スポーツって言語やカルチャーを超えることがあるじゃないですか。もっとこういうことができないかなと、アジアは仲間だしライバルだし、そこにもっと出せないかなって考えています。年内には同様のことを台湾やカンボジアでやろうと考えていますし、あとは、バンコクから帰ってきたばかりなんですが、現地の日本人の方に打診したら『場所を貸せますよ』って話もいただいてます。アジア全域のアライアンスが組めたら、間違いなくもっとおもしろいと思います」

福島「インドネシアの映画は今回で3本目の作品を上映しますが、韓国の映画もあるし、絶対にみんな映画を作っているはずなんです。タイやマレーシア、フィリピンも盛んですし。ただ、アルファベット文化じゃないこともあって情報がどうしても入手しづらい。継続していれば、向こうから連絡が来るようになるんじゃないかなと思ってもいます。ベルリンもブラジルも、彼らは同じような作品を取り扱ってますけど、アジアの作品は少ない。日本の作品を含め、アジアのサッカー映画を持っていくことができればいいなと思いますね」

ツン「広がりという意味では、映画を撮る行為もそうですよね。今、iPhoneを持っている人はたくさんいると思いますが、今回の上映作品である『ユルネバ〜キミはひとりじゃない〜』(以下、ユルネバ)もすべてiPhoneで撮っていて、すごく高いクオリティで撮れている。撮る、という点では、ショートムービーくらいなら誰しも映画監督になれるし、『ぴあフィルムフェスティバル』みたいに、例えばKADOKAWAさんにスポンサードしてもらったりして(笑)、映画の作り手をもっとサポートして、日本にはこんなに文化があってというのを伝えていければいいなと思いますね」

――『ユルネバ』の視点もおもしろいですよね。

ツン「サポーターが作った映画ですし、自分の好きなチームだったらもっとかっこよく撮れるぜ、っていうのはきっと、もっとあると思うんです。それが例えば韓国のサポーターであったりしてもおもしろいですよね。日本のサポーターが見れば、『韓国のサッカーイズムってこうなんだ』っていう交流になりますし。カルチャーは国境を超えると僕らは思っているので、本当にそういう形になればいいなと考えています。それから、交流という話で言えば、福島くんが仲良くしている方でカンボジアに映画館を作ろうとしている学生さんがいて、『映画館を作る』といっても実際に映画館というインフラを作るわけではなく、向こうに映画を上映しに行くということで、そういうときに僕らのフランチャイズのノウハウがあって、僕はバンコク、君はチェンマイで、といった感じに、作る側と出る側があれば、需給のバランスは成り立ちますよね。すぐにはできないけど、夢を語るのはタダじゃないですか!」

福島「今回、植田朝日さんが『ユルネバ』を作りましたが、世界的に見てもクラブの映画は増えつつあるんですよ。最初はフリーペーパーとかのファンマガジンがあって、最近ならホームページやSNSがあって、その次が今、映画なんです。南米でもヨーロッパでも“うちのクラブの歴史”だったりの映画があって、制作者がプロではないサポーターか映画のプロかという違いはありますが、たとえば昨年上映したサントスのヒストリー映画だったり、ペニャロールの映画だったり、面白いものがたくさんあります。今回、ヨコハマ・フットボール映画祭では『フラメンゴ×フルミネンセ』という作品を上映しますが、フラミンゴとフルミネンセというのは、ブラジルで対立する2大クラブでして、映画の内容としてはそれぞれのサポーターに話を聞くというもので、それぞれのサポーターがそれぞれの輝かしい思い出や自慢をするんですけど、ある瞬間、インタビュアーのところに相手クラブのユニフォームを着た人が入ってきて、すると、話していた人の表情が急に変わって「俺に何を言わせたいの?」って顔になる、と(笑)。そういうクラブ文化みたいなものをキーにした映画をみんなが作り始めています。『クラスオブ92』もそうですが、これまで国やスーパースターにフォーカスした映画はありましたけど、今はフォーカスの対象がクラブのほうに移ってきて、それがうけて、という感じです。『ユルネバ』だったり、浦和レッズの映画だったりができていますし、松本山雅とかも出てくるでしょうし、そういうきっかけになればいいなと思いますね」

ツン「今、NHKのデジスタという番組でも、一人でショートムービーを作る人がいるわけじゃないですか。そういうのがさらに進化していって、iPhone一つにパソコンが一台あれば、ディレクターをやって吹き替えも映像も全部、自分でやって、音の素材もクラウドにあってという環境だから、映画を撮ることも夢物語じゃない。そうなってくると、フィルムフェスティバルもできるし、日程が合えば、今は横浜2Daysですが、平日はアマチュア作品の日があってもいい。けっきょく、作っても人に見せる場がなかったりすることは多いと思うので、そうした機会があるのは素敵なことだし、ちゃんとアワードを作って、アライアンスを組んでちゃんとやって、そうなればいいなって、まだ妄想ですけどね(笑)」

――サポーターが作る映画についてもう少し詳しくおうかがいできますか?

福島「たぶん、映画ファンの方からすると、これって映画じゃないよねって思うかもしれないですけど、自分が見たときも途中から気にならなくなって、すごく面白くなってきて、という感じでしたね」

ツン「iPhone8台を使っての撮影するって発想が植田朝日くんのすごいとこで、それなら学生とかにもできますよね。配給やメジャーを通らなくてもできるってことですし、YouTubeやUSTREAMもあるわけだし」

福島「『ユルネバ』は映画化しようという話があったんです。ある事務所から、その事務所の俳優さんを主演にする形での話だったそうでが、2秒で断ったそうです。事務所から『チームをFC東京から日本代表に変えてくれないか』と言われたそうで(笑)」

――それは断りますね(笑)。

ツン「リメイク権を売って、やってもらったらいいんじゃないですかね(笑)」

福島「ネタバレですけど、権利の問題もあって作中で『ユルネバ』の曲自体は一度も使ってないんですよね。サポーターがチャントを歌っている風景ももともと抑えている素材があるけど、場所がJリーグのスタジアムだから、なかなか難しい。写真だけ置いて、あとは『みんな脳内再生してね』って(笑)。権利の問題はいろいろ難しいかもしれませんが、すべてを同列にしなくてもいいのにな、とは思いますね」

ツン「Jリーグが抱えている問題は、若い人がなかなか試合を観に来ないこと。観客動員数が減っているところもありますよね。間接的かもしれないけど、こうした試みは観客の動員にもつながることだと思いますし、例えばこういった映画での使用のときはライセンス料を少し下げるとか、難しいですけど、一括した相談窓口ができるとすごく楽ですよね。一人でやるのはとても大変。そこを補助してあげたりすることで、きらりと光る人を見つけることができれば、とても夢のある話だと思います」

確かに、それは夢がありますね。ちなみに、“観に来る”という視点で言うと、この映画祭は「サッカーを好きな人が来る」のか「映画を好きな人が来る」のか、どちらの比率が高いですか?

福島「前者ですね。僕は映画の仕事をしていますが、日本では、洋画と邦画を含めて年間約800本の映画が公開されていて、映画祭もたくさんあります。日本は映画祭大国で、毎週のようにあちこちでやっていますし、映画関係の人はあまり来てくれていないかな、と思います。あと、サッカー映画だと、どちらかというと映画の中でもエンターテインメント性の高い作品が多いわけです。ハッピーエンドとか、わりと王道のような。もしくは、サッカーの背景が分かっている人に向けてのドキュメントだったり、一般の映画ファンの人には少し遠いのかなと感じますね。ただ、例えば今回上映している『ガンバレとかうるせぇ』は、ぴあフィルムフェスティバルで賞を受賞したり、釜山国際映画祭のニューカレンツ・コンペティション部門に選出されている作品で、普通に映画ファンの方に見せてもクオリティが高いなと思います。僕はああいうサッカー映画って見たことがなかったです。ヨコハマ・フットボール映画祭に向けては、その都度、候補作を何十作品も見ていますが、『ガンバレとかうるせぇ』はシチュエーションも少し変わっていますし、若い2人の主人公が不器用でなかなか何事もうまくいかなくて、というストーリーも面白い。それを日本人の、佐藤快磨監督のような若手が作ってくれたことがうれしいし、海外の人に知ってもらえるのもうれしいし、もっと映画ファンの人に見てもらいたいなと思っています」

ツン「ヨコハマ・フットボール映画祭がすごいなと思うのは、この映画祭で学ぶことが多い、ということですね。僕もたくさん海外に行っているけど、『リトル・ライオン〜明日へのゴール〜』を観ると、アフリカの貧しい子がスカウトされて、でも騙されちゃってうまくいかなくてというストーリーで、みんながみんなうまくいくわけじゃないよなって。あと、例えば、この映画祭で2013年に上映された『フットボール・アンダーカバー-女子サッカーイスラム遠征記』や今年の『オフサイド・ガールズ』を見れば、女子選手ってどこでも普通に試合ができるわけじゃなくて、女性が普通に試合を見られない世界もあるんだ、とか、サッカーファンでなくても、そういう文化の違いを、横浜で一日座っているだけで分かるのはとてもお得だなって思います。映画ファンからサッカーファンへ、サッカーファンから映画ファンへ、というのはよく分からないけど、サッカーファンじゃなくてもそこで見ることで文化の違いを学ぶことできるのはとても大きいなと。学校の授業だったら寝ちゃうけど(笑)、こういう入口ならちゃんと学べるなって思いますね」

福島「文化で言うと、同じところも見つかるんだよね。余計に、その違いが見えるというか。例えば『オフサイド・ガールズ』では、イランの女の子が成人するとスタジアムで試合を見られなくなって、テレビ中継で海外のサッカーを見ると、そこにスター選手や海外組がいて、イラン国内にいると髪を伸ばせないから海外に行くとみんなロンゲにする(笑)。チケット入手するためにはどうしようかとか、中継していない試合を見るにはどうしようとか、障害や表現の仕方は違うけど、似通ったところと違うところがある。こうやって趣味のものに特化した映画祭で知ることは意外と多いですよね。ブラジル人のサッカーの楽しみ方半端ないな、とか(笑)。2014年に上映した『ラブ・セレソン お姫様と11人の選手たち』では、ペラダオというブラジルの世界最大のアマチュアサッカートーナメントにフォーカスしているんですけど、この大会が面白いのはサッカーとミスコンがセットになっていて、チームの中に女性を必ず所属させることがルールで、その女性がミスコンに出て優勝すると決勝トーナメントのベスト16に進めるという敗者復活のシステムがあるんです(笑)。それをドイツ人たちが面白がって取材に来るというドキュメンタリーで、ブラジル人って面白いし、それを取材に来るドイツ人ってすごいなって(笑)。『ユルネバ』とかもそうですが、サッカーという競技を、もっともっと文化面というか、そういう角度からの楽しみ方をみんなもっとやっていったらいいなとも思いますね」

ツン「ブラインドサッカーだって普通の人は知らないですよね。でも、『アイ・コンタクト』の中村(和彦)監督がすごいのは、普通だったら聞こえるから気配が分かるけど、それがない中でプレーすることを表現するために“無音の時間”があるんだよね。それがぐっとくるんです。こんな状況の中でこの女の子たちはちゃんと頑張っているんだって心揺さぶられて。今までのように“ヨコハマ”だけだったら、前と同じものは上映できないけど、今回は全国でやるから、以前に上映したものも上映できる。僕らからは何の働きかけもしていないのに、『オフサイド・ガールズ』と『アイ・コンタクト』をピックアップしてくれたことがとてもうれしくて、特に『プライドinブルー』とか。そういう点も全国展開のメリットですね」

――『アイ・コンタクト』は会場に体験ブースを設けるなど、映画以外を楽しめる工夫もこの映画祭の魅力ですね。

ツン「そうですね。映画の上映だけではもったいないので、会場にブラインドサッカーの体験ブースを作ったり、写真と粘土でフィギュアを創る方の作品を展示したり、おはじきサッカー、サブティオみたいなものの体験会をやったりとか、サブ会場でJ2党にトークショーをやってもらったり、サッカー日本代表専属シェフの西(芳照)さんに来ていただいたりとか、サッカーを楽しんでもらう角度を少しでも増やしていければなと思っています。来年、再来年は「サッカー本大賞2015」とかと一緒にやりたいなと思っていますし、本の即売会を行ったり、サッカーがテーマの演劇や音楽をやっている人を呼んだりとか、広がりをどんどん増やしていきたいなと。映画の内容をいじることはできないですけど、トークショーだったりはいろいろできますから。スタッフの中でも、映画に特化しようという意見と、他の展開も広げていこうという意見はありますが、そうやって方向性を考えていくことが大切ですよね。サラエボの映画祭では、期間中、街中が映画祭一色なんですよ。普通の喫茶店でもプロジェクタで映画を上映していたり、映画に関するトークショーを行ったりしています。ヨコハマ・フットボール映画祭はフラッグシップなので、いろいろな“実験場”になってもらって、それがうまくいけば他の会場がまねするとか、リスクはあるけど、無難に映画だけをじゃなくて、やっぱりいろんなチャンネル、メディアと組んでもらって、常に実験する、チャレンジする義務があると思っています。いろいろと言う人もいますが、福島くんは頭が柔らかいから、一緒にやっていきたいと思うんです。まあ、予算もかかるかもしれないけど、実験していかないといいか悪いかも分からないですからね」

――ヨコハマ・フットボール映画祭には『ネクスト・ゴール! 世界最弱のサッカー代表チーム 0対31からの挑戦』(以下、ネクスト・ゴール!)に出演しているアメリカ領サモア代表チームのジャイヤ・サエルア選手も来場しましたね。

福島「ジャイヤ選手にはFacebookでアプローチしたら来てくれることになって、舞台挨拶に登場してもらいました」

ツン「『ネクスト・ゴール!』がとてもいい映画なんですよ。事実に基づいて役者が演じている映画はよくありますが、登場人物がみんな本人なんです。0-31という歴史的大敗からアメリカ領サモア代表チームが頑張っていく姿を追いかけた映画なんですが、よく考えると、何があるか分からないけどカメラを回していたわけでしょう? 監督がすごいなと思って(笑)」

福島「いろんな賞も受賞している作品ですが、あれはサッカーの王道なんですよ。南の島の、めちゃくちゃ弱いチームにオランダ人監督がやってきて、と」

――横浜会場で拝見しました。王道でしたね(笑)。

福島「そうですね。オランダ人監督とアメリカ領サモアのサッカー協会の人の間でも、まず文化的衝突みたいなことが起きたりしますし」

ツン「それを全部撮影してるってすごいですよね。ある程度、作られたものかと思っていたのに、ずーっとドキュメンタリーで追っていたわけでしょう? 監督が怒ってるところとかも」

福島「監督帰っちゃうかもしれないしね(笑)。最後に勝てないかもしれないのに、本当にすごいと思う。だからもっともっとたくさんの人に見てほしい。日本と同じように津波の被害から復活するところもあって、センダイ・フットボール映画祭でも一番人気だったんですよ。映画祭の代表を務める大坂ともおさん、彼はベガルタ仙台スタジアムDJでもあるんですけど、『ネクスト・ゴール!』を3回見て、3回とも泣いて、センダイ・フットボール映画祭PR大使の千葉直樹さんも泣いていました」

――全国展開を実施してみて、改めてどのように感じていますか?

ツン「今年が初めてですから『サッカー映画って何?』ってクエスチョンマークの方もいると思いますが、食わず嫌いにならないで足を運んでくれたらうれしいですね。サッカーとしても楽しめるし、いろんな国の文化の違いを肌で感じられて、横浜以外の、あなたの街でも見られますよ、と。サッカー映画がやってくる、ヤァ!ヤァ!ヤァ!って感じです(笑)」

福島「『サッカー映画なんてそんなに数があるの?』ってよく言われるんですけど、これがあるんですよ」

ツン「サッカー映画ってニッチなタイトルがついていることが多いので、好きな人にはリーチしやすいけど、それ以外の人に煙たがられてしまうのを払しょくしたいですよね。サッカーだけでなく、素朴に文化が体感できるから、そこを見に来てほしいです。そして、サッカーを好きになってくれたらうれしいし、映画も楽しいねってなったら他の映画祭に行ってみようとか、そういう入り口になったらいいなと思っています」

――来年以降も開催場所を増やしていく予定ですか?

ツン「やりたいと手を挙げてくれて、その人に熱意と本気があれば、いくらでも手を貸します! でも、毎年増やしていったら僕が生きているうちに終わらないかもしれないですね(笑)」

福島「47都道府県を目指すと、毎週開催になるからね(笑)」

OneNews編集長

編集者/KKベストセラーズで『Street JACK』などファッション誌の編集者として活動し、その後、株式会社フロムワンで雑誌『ワールドサッカーキング』、Webメディア『サッカーキング』 編集長を務めた。現在は株式会社KADOKAWAに所属。『ウォーカープラス』編集長を卒業後、動画の領域でウォーカー、レタスクラブ、ザテレビジョン、ダ・ヴィンチを担当。2022年3月に無料のプレスリリース配信サービス「PressWalker」をスタートし、同年9月、「OneNews」創刊編集長に就任。

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