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ユルネバ~キミはひとりじゃない~、監督・植田朝日&アイドリング!!!の橘ゆりかと倉田瑠夏が語る東京愛

浅野祐介OneNews編集長

東京ガス時代の1994年からFC東京をサポートし続け、日本代表サポーター『ウルトラス・ニッポン』の中心的存在としても知られる植田朝日氏が映画を撮った。映画の題材としてフォーカスしたのは、もちろん「FC東京」。植田氏が主宰を務める“劇団コラソン”の看板演目であり、FC東京サポーターのアンセムである「You’ll Never Walk Alone」をベースに書き起こした『ユルネバ』が映画化された。監督の植田朝日氏、出演者の橘ゆりかさんと倉田瑠夏さんに話を聞いた。

FC東京サポーター必見!映画『ユルネバ』3冠達成

――ついに映画を撮りましたね。『以前から映画を撮る撮る!と言っていたから、口だけ番長になってしまうのが嫌だった(笑)』とおっしゃっていましたが、“口だけ番長”ではなくなりました(笑)。改めてこの作品で伝えたかったことをおうかがいできますか?

植田「“作品”って(笑)、もうそこが面白いんだけど、植田監督って言われるのがむちゃくちゃ面白い。『あーどうも“監督”です!』って(笑)。文字面にしちゃうと本気だと思われちゃうかもしれないけど、まず、全部こういうのはタイミングで、今やるべきなのが映画だなと思っていて、これは僕の一番好きなFC東京にとって今一番必要な映画で、その中で、選手だけじゃなくサポーターが『こういう気持ちが必要なんじゃない?』というテーマで、忘れていた気持ちを持って『一緒に世界で闘おうぜ』っていうメッセージにしたかったんだよね。『いい映画だった』なんて評価は一つもいらない、クソくらえ(笑)。でも、この映画を見て、『面白かったね』、『つまらなかったね』、『こうだったよね』とか、見た人同士で語っり合ってもらえるような、そういう材料になってくれたらいいなと思いますね」

「植田監督って言われるのがむちゃくちゃ面白い」と語る植田朝日氏
「植田監督って言われるのがむちゃくちゃ面白い」と語る植田朝日氏

――撮影はすべてiPhone、これは最初から決めていたんですか?

植田「低予算映画って言っても、そもそもいくらからが低予算なのかも分からなくって、『どうやったら安く上がるだろう』、『機材だって大変だよね』、『みんな何か持ってる?』ってなったときに、みんなiPhoneを持っていて。普通だったら一部だけiPhoneにすると思うんだけど、それだけじゃ話題にならないなと。全部iPhoneで撮ったら“売り”になるなって思ったんです。逆転の発想ね(笑)」

――iPhoneで撮られる側としてはいかがでしたか?

倉田「撮るとき、iPhoneが何台もずらっと並んでいて、そんなにたくさんのiPhoneを向けられることってないじゃないですか。不思議な気持ちでした(笑)」

橘「でも、ちゃんとしたカメラよりも身近にあるものだから、そんなに緊張しませんでした。ほんとのカメラのほうがずっと緊張したかも」

――撮影後の編集作業がギリギリのスケジュールだったとうかがいました。

植田「ギリギリっていうと聞こえがいいでしょ(笑)。それが逆で、撮影だって5日か6日くらいで終わったのに、なぜギリギリになったかというと、編集してくれる人の作業の優先順位が低かったからなんだよね(笑)」

――わかりやすいですね(笑)。

植田「わかりやすいでしょ(笑)。かっこよく聞こえるんだけど、ただギリギリにされたの」

橘・倉田「ええっ、そうだったんですか(笑)」

植田「でも、それって悪い意味じゃなくて、そのくらい仕事がたくさんある忙しい人に、11月に映画撮るからって言って。それも、伝えたのは2、3か月前かな。その人のスケジュールもあるのに『寝なきゃいいんだろ?』と言って(笑)。そういう優先順位なのはこっちもわかってたし、ケツだけわかってて、会場で流す何分か前にあればいいからって考えていたし、余裕がなかったとは思ってない。それも全部、想定内です」

倉田「すごいですね…」

植田「そう、逆にすごいってなるでしょ。これが勝ちなんだよね。すごくないのに、計画性がないだけなのに(笑)」

――キャスティングは最初から決めていたんですか?

植田「最初の段階で、まず軸としてFC東京の応援番組をやっている橘ゆりかとゆってぃのツートップは不変だった。仮に、ゆってぃが壊れても、女性は橘しかいなかった。あとは、僕が主宰している劇団コラソンでこの作品を過去にやったことのある、経験のあるやつをぶちこめば、もう骨格はできるじゃない。(イビチャ)オシムがいきなり監督になったときに、ジェフ(市原)の選手がたくさん選ばれたでしょう? ベストな11人を選ぶより、やりやすくてやり方のわかる11人を選んだほうがいいサッカーができるんじゃないかっていうキャスティングだね。瑠夏ちゃんも前に劇団コラソンで一緒にやったことがあるから、僕の雰囲気をわかってくれるし、この二人(橘・倉田)のセットだったらわかりやすいし、全部そういう感じでチーム構成したという感じですね」

――キャスティングでなく「チーム構成」なんですね(笑)。

植田「そう、チーム構成。かっこいいでしょ! でも、そういうことなんですよ。チーム構成としては、軸を決めて、そこにやりやすいやつがきて、『僕のやりたいサッカーを具現化できるメンバーを集めました』って言うとかっこいいでしょ」

倉田「そのメンバーに入れてうれしいです」

――メンバーの一員として、チームのやりやすさはいかがでしたか?

倉田「すごくやりやすかったです! みんな面白いし、撮影も結構ギリギリで……台本も当日だったんですよ。でも、普通だったらできないことができたっていうチームワークがあったなって」

植田「でも、君たちがまだ甘いのは、僕たち顔合わせしたじゃん。舞台では顔合わせしないんだから。BARのシーンだって、台本もなくて当日いる顔触れを見て、『じゃあこういう役ね』、『こうやって』って流れで一発で撮ってる。“香港スタイル”って呼んでるんだけど(笑)」

橘「出たー(笑)」

植田「香港映画って、台本を渡すと盗まれて先に作られちゃう心配があるから台本を渡さないらしいんだよね。一方、僕は台本を渡せない状況なんだよね。理由は作ってないから。だけど、これは“香港スタイル”なんだよって言って、これでみんなが笑顔で対応できているんだから、それでよし。僕たちにとっては、長い時間かけてちゃんとカメラで撮って台本があって、カメラテストですって同じところを何度もやったらもう飽きちゃう。面白くなかったら、つまんないからさ」

――今後、お二人は“香港スタイル”にも対応できますね(笑)。

倉田「そうですね、これを機に(笑)」

――サッカーがテーマの映画にもかかわらず、ボールと呼べそうなのはパチンコ玉だけでしたね。

植田「一応、オープニングでバーンとぶつかるシーンで出てくるのと、あとは『オブジェで映っていましたよ』と誰かが言ってました。サッカー場で人がサッカーを見ていても、プレーしているのはピッチ上の22人でしょう。仮に5万人のお客さんが入っていても、ボールは一つしかない。だったら、サッカーをスポーツじゃなくて文化って考えたときに、実はボールってそんなに重要じゃないんじゃないかって思う。だから、ボールが出てこない映画にしたかったし、ユルネバ、『You'll Never Walk Alone』っていう曲も出てこない映画。『権利の問題でできない!』っていうところを逆に笑いにできちゃうこの感じがいいかなと。みんなウケてたでしょう? ずるいでしょ(笑)」

――“使えない”ことを利用しているところはずるいですね(笑)。ちなみに、お二人は完成品を見たとき、印象はいかがでしたか?

橘「iPhoneで撮ったとは思えないですよね。本当に驚きました」

植田「すごいよね。『iPhoneってすごい』ってみんな思ったんじゃない。わざと画質も悪くしたんだから。広角レンズを付けたりフォーカスが合うようにしていたら、今度は画(え)によってバラツキがあったから、編集するときに一番画質が悪そうなところに下げて合わせちゃった。映像って、たいていはいいものに合わせたり近づけたりすると思うけど、一番焦点があってないものに合わせて、そのために画像を粗くしたりとかしたので」

橘「キレイすぎるから、スクリーンで顔がバーンって出たときに見えすぎたらどうしようって思ってましたけど、画質を下げていただいたことによって、ちょうどいい感じでぼやけてくれました(笑)」

倉田「ぼやけるくらいが一番かわいいんですよ(笑)」

――いいキレイさのところで(笑)。

倉田「そう、いいキレイさのところで、ありがたい!マジックですね。助けられました(笑)」

――ここが大変だった、あるいはここが楽しかったところはありますか?

植田「練習や稽古もしないで撮ったから、大変だったでしょ」

倉田「でも、逆にそのおかげで、いつもの感じの素のまま、ナチュラルな自分でできた気がします」

橘「『ビバパラ(FC東京ビバパラダイス※橘ゆりかさんが番組リポーターを担当)ってなに?』って自分で言うのはちょっとつらかったです(苦笑)。あと、もちろん、『アイドリング!!!、なんて知らないよ』っていうのも……。いやいや、自分メンバーですけど!って。変な気持ちでした」

植田「でも、あれはアイドリング!!!のファンはみんなウケてたよね。『アイドリング!!!は世の中に響いてない』なんて言って(笑)」

橘「悲しいけどウケてました(苦笑)」

――あれは、スッと言えました?

橘「言えちゃいましたね、複雑でしたけど(笑)」

植田「ゆってぃも複雑そうだったよね、自分のネタ、『ちっちゃいことは気にするな!』って散々周りから言われて自分は言わせてもらえないっていう(笑)。ちなみに、これから二人が何本か映画に出ていったときに、この作品は出演作にカウントしないと思うんだよね」

橘「それはないですよ(笑)」

植田「逆に初映画がこれって、かわいそう(笑)」

倉田「なんでかわいそうなんですか! “香港スタイル”の映画に出たって言いますよ(笑)」

――「デビュー作は香港スタイルです」って(笑)。

植田「でも、これだけお客さんが入っているのがすごいよね。(東京フットボール映画祭での)完売は『ユルネバ』だけでしょう? ヨコハマ(・フットボール映画祭)のほうでも完売だし、『クラスオブ92』のマンチェスター・ユナイテッド、バルセロナの『メッシ』に勝っているってことだからね、FC東京が。もしくは、アイドリング!!!の勝利!!!」

倉田・橘「それはちょっと(笑)」

『ユルネバ』に出演したアイドリング!!!の倉田瑠夏さん(左)と橘ゆりかさん(右)
『ユルネバ』に出演したアイドリング!!!の倉田瑠夏さん(左)と橘ゆりかさん(右)

――監督・植田朝日という存在はいかがでした?

橘「そのまま、いつもこんな感じです」

植田「監督とかじゃないから(笑)。『監督です!』って言っちゃうけど、活字にしたら本当に言ってそうだからあんまり言いたくない。『ユルネバ』を見てくれた方から『次回作も楽しみにしてます!』って言われると、『ありがとう!』っていうけど、『別に映画監督じゃないし!次回作じゃないでしょ!』って。でも、楽しかったです。監督っていうのはギャグだよ。でも、世界に行きたいし、FC東京はアジアに行けないからさ。映画で好きになるものっていっぱいあると思う。『メジャーリーグ2』に石橋貴明が出てたからインディアンズの帽子を買っちゃった、とか。そういう感じで、世界が『ユルネバ』を見て、『東京ってアツいよな』って言われたら勝ちじゃん。東南アジアとかでも、日本人がバルセロナのユニフォームを着て歩いているみたいに、彼らが東京のレプリカユニフォームを着ていたらかっこいいじゃん。だから攻めたいよね。ブーイング!!!の主題歌もよかったもんね」

橘「プライベートのiPodでもずっと聴くくらい、本当にいい曲なんです!」

倉田「自分が歌った曲の中でも一番聴いています! 本当に元気づけられる!」

植田「自分の曲に元気もらってるの? どういうことだよ(笑)」

倉田「仕事や練習以外で自分の曲はあまり聴かなかったんですけど、本当に、通勤中もめっちゃ聴いてるんです」

――長友(佑都)選手も出演していますが、イタリアロケには植田さんが行かれたんですよね?

植田「これまたひどい話でね(笑)。11月に映画を撮るって決める前から、12月にイタリアにサッカーを見にいくってことは決めていたんです。海外に行けるのってJリーグのオフ期間しかないから。でも、僕、監督だし、撮影している最中にそこを抜けてイタリア行くって言いづらいでしょ。これはどうにかして監督として行く理由がほしいなと思って、『イタリアなら長友いるじゃん!』って。これは遊びじゃなくてイタリアロケだってことにして、事務所に連絡したら本人も『いいっすよ』って言ってくれて。で、長友の家に行ってパッと撮って、『ありがとねー!』って」

橘「あれ、自宅なんですか? どこかのお店だと思ってました。びっくりです」

――長友選手の演技はいかがでしたか?

倉田「とにかく意外でした!」

植田「『演技はどうやったらいいの?』って聞かれて、演技とかじゃなくて、『ただ独り言だけ言って!』ってお願いしました。だってそうじゃなかったら、一人で『明日試合かあ』なんて言う? 言わないでしょ。なのにあいつは『独り言を言えばいいんだ』って納得してるから、『自分の思いをどう言えばいいの?』って聞いてきて、僕がこんな感じってやったのをコピーしたって感じかな。2テイク撮ったんだよね、iPhone2台で。2キャメで!」

――橘さんは“はらひろみ”、倉田さんは“いしかわなお”、二人とも偉大な役名をいただきましたね(笑)。

橘「原博実さんを知っている方や、スタッフさんからは、『すごいじゃん!』って言われて、あらためて本当にすごい方なんだなって(笑)。ですから、この役を本当に大切にしないとなと思いました」

倉田「私は石川直宏さんに会ったことがないので、ちゃんとお会いして、『役をやらせていただきました』ってあいさつしたいです」

――ものまね芸人の方みたいですね(笑)。

植田「役名だし、別に石川選手を演じてるわけじゃないんだから(笑)。でも、瑠夏ちゃん見てたら『石川直選手って人気あるんだ』って喜んで、『ヒロミさんてぴょんぴょんするんですよね』って言いそうだったから。2人とも、ぴったりの役だったね」

倉田「けっこう、そのままの役でしたね(笑)」

植田「香港スタイルでね。東京なのに香港スタイル(笑)」

東京フットボール映画祭での一コマ。チケットは完売
東京フットボール映画祭での一コマ。チケットは完売

――では最後に改めて、この映画を見てFC東京について感じてほしいこと、この映画の見どころを教えてもらえますか?

橘「この映画は、FC東京を知っている人も知らない人も楽しめると思います。知らない方でもテロップとかで情報を教えてくれるので、その情報をちゃんと読んじゃうし、FC東京に関わる応援番組に出ている三田(三田涼子アナウンサー)さんとか、FC東京をいろいろな角度から知ってもらえる映画だと思います。これを見てスタジアムに行ったらいろんなことがつながってくると思うので、この映画を見た方には、ぜひ味スタに足を運んでいただいて、劇中に出ていたような熱いサポーターになってくれたらいいなと思います!」

倉田「私はずっとコメディだと思っていたんですが、意外と(?)感動もするんです! 私もすごくびっくりして、泣きそうになるくらい感動して、いろいろな感情が味わえる映画だと思います」

植田「撮影中は自分のシーンしか見ないから、全体を見ると『こうなってるんだ』ってわかるんだよね」

倉田「はい、『こんなにすごいんだ!』って。感動もあり、笑いもありの素敵な映画なので、ぜひ見てほしいです。あと、歌もすごく勇気づけられるので、2月26日に『コラソンフェス2015 〜ユルネバ 君は一人じゃないLIVE〜』もあるので、こちらにもぜひ来ていただいて、いっぱい勇気づけてもらえたらなって思います!」

植田「えっ、勇気もらう側なの? 勇気づけるんじゃなくて(笑)」

倉田「はい、勇気づけてもらいます(笑)」

橘「面白いなあ(笑)」

――植田監督はいかがですか?

植田「植田監督はですね、これを通じてFC東京を知ってもらいたいというのが一番。それから、個人的に一番いいシーンはエンディングロールなんです。FC東京とともに歩いた僕たちの歴史が写真で出てくるのと、今回、クラウドファンディングで映画制作を支援してくれた人の名前が全部入っているんです。スタッフの名前もそうだし、本当に感謝しているんです。今回文字の形になってあれだけ長いエンディングロールを見ると、ああ本当に“ユルネバ”だな、一人じゃなくていろいろな人の支えがあるなって、死ぬほど感じるのね。『エンディングが一番好きです』っていうのもわけわからないけどさ(笑)。FC東京を知ってほしいのと、みんな一人じゃないぜってことですね。映画を見てくれる人もそうだけど、支えてくれた人に『ありがとう!』って、一人ずつ会ってお礼を言いたいよね」

OneNews編集長

編集者/KKベストセラーズで『Street JACK』などファッション誌の編集者として活動し、その後、株式会社フロムワンで雑誌『ワールドサッカーキング』、Webメディア『サッカーキング』 編集長を務めた。現在は株式会社KADOKAWAに所属。『ウォーカープラス』編集長を卒業後、動画の領域でウォーカー、レタスクラブ、ザテレビジョン、ダ・ヴィンチを担当。2022年3月に無料のプレスリリース配信サービス「PressWalker」をスタートし、同年9月、「OneNews」創刊編集長に就任。

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