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「日本サッカーはアジアも興行もなめている」、“日本初のサッカー映画祭”仕掛け人が現状への警鐘を鳴らす

浅野祐介OneNews編集長

2011年にスタートした「ヨコハマ・フットボール映画祭」。国内外の「サッカーを題材とした映画」のみを上映するこのユニークな映画祭は回を重ねるごとにその規模を拡大し、5年目の今年は全国展開へ。1月に新潟、仙台、松本で、2月はここまで愛媛、横浜、大阪で開催し、28日に福岡、3月14日に札幌での開催が予定されている。

前回、主催者である映画祭プロデューサーの福島成人さんと、全国展開の窓口となっている‘ツンさん’ことツノダヒロカズさんの、映画祭への思いを紹介したが、今回は「対アジア」、「興行面」という切り口でサッカーと映画への考えを聞いた。

――ツンさんはオーストラリアで開催されたサッカーのアジアカップに行かれていましたね。現地で観戦されていかがでした?

ツン「楽しかったですよ。日本代表が途中で負けた(ベスト8で敗退)ので、つまらなくなるかなと思っていたけど、サッカー以外でもテニスの全豪オープンを観戦したり、アジアカップも決勝(開催国のオーストラリアが韓国に勝利)を見に行ったら、とても盛り上がっていて、本当にいいものを見させてもらったなと。すごくいい試合でした」

――王者を決めるに相応しい試合でしたね。

ツン「やっぱり開催国が決勝に出るときの雰囲気は特別ですね。4年前のカタール大会は決勝進出がどちらも開催国じゃなかったから(決勝は日本とオーストラリアが対戦し、日本が1-0で勝利)、みんな“観に来ている”という感じだったけど、開催国のオーストラリアが決勝に進出したことで“当事者”で約7万人が埋まったわけですから。ワールドカップだって開催国が決勝に進出するケースはなかなかないし、それを目撃できたのは財産ですね。両チームの応援団もとても良かった。僕は、舞台でも映画でも、その場の雰囲気はオーディエンス、観客が作ると思っています。サッカーもそう、選手だけではなくて、観客が作るもの。アジアカップ決勝は観客の作る雰囲気がとても良くて、もうあとちょっとで終わるってところで韓国が同点にしてサポーターが『ウワーッ』って盛り上がって、6千人が7万人を超えた瞬間を見られた。次の瞬間、(オーストラリアの)黄色いユニフォームを着た子どもたちがうなだれてしまって、でもその後もう一回、オーストラリアが勝ち越して子どもたちが手を上げて喜ぶ、と。延長を含めて120分の中にドラマがあって、本当にいい決勝でした。みんな観客として見に来てるんじゃなくて、当事者として、勝つか負けるかの人が7万6千人いる決勝は雰囲気がすごくて、僕もそれなりに試合を見ているほうですけど、全然違っていました」

――オーストラリアでのサッカーの根づき方はどう感じましたか?

ツン「サッカー文化自体はまだ浅いはずですけど、印象としてはヨーロッパ的でした。応援も特にコールリーダーがいるわけじゃなく、どこかで歌い始めてそのグルーブが良かったらスタジアム全員で歌って、ゴール裏だけじゃなく横も前もみんなで合唱しますから。とてもいい雰囲気でした。シドニーFCの試合を見に行ったときも、太鼓は一つだし、コールリーダーも一人だし、日本みたいに大きい旗や横断幕があるわけじゃなくて、質素な感じで、みんなが楽しみながらやってという形で、それはそれでいい感じがしましたね」

福島「オーストラリアはスポーツ大国ですもんね」

――日本代表にはあの決勝を体験してほしかったですね。

福島「(日本では、日本が負けたことでアジアカップが)終わったことになっていましたよね。なんか、サァーッと(笑)。映画祭のスタッフもみんな、ツンさん早く帰ってくればいいのにってイライラしていました(笑)」

ツン「そういうときにも出会いがあるんです(笑)。伊藤壇さんといって、プロサッカー選手としてアジアを何カ国も回っている方なんですけど、Jのクラブを首になったりしてプレーする機会を求めている選手が彼のところに集まって、頑張れって励まし合いながら練習して、『明日は僕、カンボジアのトライアウトに行ってきます』といった感じでやっていて、あれだけでドキュメントを撮れるんじゃないかって思いました。元J1の選手だっているんですよ。本当に、すごく過酷。でも、そういう中で頑張っていて、そういうのをみんなは知らないんだろうな、と。壇さんも言ってましたが、みんなに伝えたいのは『アジアをなめるな』ってことです。アジアをなめているから、アンダー世代もベスト8でずっと負けていて、ACLだってなかなか勝てない。それはたぶん僕らのおごりで、日本はアジアのトップだとか、アジアではFIFAランキングでリードしているとか、でも勝ててない。代表戦以外で6万人が埋まることが日本にありますか?って。本気で勝ちにいくんだったら、ACLだって選手の待遇を考えたり、もっと日程を調整したりする必要があると思うけど、そうでもなくて、どこかで『アジアは二の次』と思っているからなのかなって感じます」

――アジアカップは「そこを見つめなおしましょう」という結果になりましたね。

ツン「先ほどの壇さんも言ってましたが、元J1の選手でもトライアウトで落とされてしまうことがある。本当になめてはいけなくて、そういうレベルの選手もアジアでプレーしているってことだと思います。ビッグネームで最近、日本に来たのは(ディエゴ)フォルランくらい。みんな他のところに行ってしまいますよね」

福島「(ティム)ケーヒルも中国に行ってしまいましたね」

ツン「ラウール(ゴンサレス)が来てくれたりとか、仮に晩年だったとしても、そういう選手が来てくれたらとても素敵じゃないですか。グッズの販売とかを含めてもメリットが大きいと思いますし。シドニーFCの試合に見に行って思ったのは、アウェー戦で3000人くらいのサポーターがいて、そのうちの四分の一くらいが(アレッサンドロ)デル・ピエロのユニフォームを着ていたんですよ。デル・ピエロはもういないのに。彼がチームに来たタイミングで買ったんだろうなって。それだけの経済効果があるんだなって感じました。赤字が続くとライセンスがはく奪されてしまうから、身の丈に合った補強になってしまうのも仕方がないかもしれないけど、ちょっと冒険してほしいな、とは思いますね。日本には、いい企業もたくさんあるわけですし。例えば、大きい企業から2億円出してもらって、クラブは1億円を出すって形にしたら、それなりの選手が獲得できる。『ロートルはいらない』っていうかもしれないけど、スポーツには興行という側面もあるわけです。アマチュアではなく、プロスポーツであれば興行への努力を怠ってはいけないですよね」

――興行という点では映画もそうですし、日本はライバルが多いですからね。

ツン「Jリーグの入場料で、例えば2000円は安いと思われるかもしれないけど、2000円で2時間しか遊べないわけです。ディズニーランドなんか6000円ちょっとで一日遊べて、めっちゃ楽しいんですよ。Jリーグはもっともっと頑張らないといけないです。興行という点でもなめているだろうし、アジアもなめているし、それだと足をすくわれますよって思います」

福島「真剣にやらないとね」

OneNews編集長

編集者/KKベストセラーズで『Street JACK』などファッション誌の編集者として活動し、その後、株式会社フロムワンで雑誌『ワールドサッカーキング』、Webメディア『サッカーキング』 編集長を務めた。現在は株式会社KADOKAWAに所属。『ウォーカープラス』編集長を卒業後、動画の領域でウォーカー、レタスクラブ、ザテレビジョン、ダ・ヴィンチを担当。2022年3月に無料のプレスリリース配信サービス「PressWalker」をスタートし、同年9月、「OneNews」創刊編集長に就任。

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