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日本人選手はタイリーグでクラブをどう決めるのか?タイ3年目の大久保剛志が語る新天地を選んだ理由と過去

浅野祐介OneNews編集長

タイ・プレミアリーグ(1部リーグ)に所属するバンコク・グラスFCで2シーズンを戦った大久保剛志は、タイ3年目のシーズンをディヴィジョン1(2部リーグ)のPTTラヨーンFCで迎える。

開幕戦を2月27日に控える彼に、バンコク・グラスFCを去ることになった経緯とクラブへの想い、そして新天地のクラブにPTTラヨーンFCを選んだ理由を語ってもらった。

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――タイ3年にして新しいクラブ、PTTラヨーンFCへの移籍が決まりました。2シーズンを過ごしたバンコク・グラスFCを離れることになったのは、どういう経緯からだったんですか?

もともと、バンコク・グラスFCには1年契約で加入して、昨シーズンは契約延長をして迎えた2年目でした。その契約期限を迎えることもあって、ある程度前から、「契約延長をするのかしないのか」をクラブ側に問いかけていたのですが、クラブ側はずっと「待ってくれ」と。「時が来るまで」と思いましたが、残り試合が少なくなってきて、試合に出られないときがあって……。次のシーズンに向けて周りは動き出している時期でしたから、はっきり確認したところ、「今季で契約を満了する」ということを伝えられました。

――タイのクラブは人の動きが激しいですね。

特に日本人選手は、離れる人が多いですね。成績によって、とういうこともありますが、ステップアップなど、いい意味で、新しいところへ移った人も何人かいます。

――昨シーズンはケガもありましたが、シーズンを改めて振り返るといかがですか?

シーズン終盤もリズムを変えられず、率直に言えば、「苦しいシーズンだったな」という感じです。出場試合数が少ないですし、出られる時間も少なくて、ゴールも思うように決まらなかった。ただ、それが「自分の結果」なので、仕方ないなと。シーズン後半に監督も変わりましたが、そこでのチャンスを生かせなかったのも自分だったな、と思います。それで、ようやくけじめというか、いろんなことがあったけれど、「自分が悪かった」と切り替えることができて、クラブからの意見も受け入れることができました。

――厳しい表現かもしれませんが、それが「勝負の世界」ということですね。

はい、そうだと思います。シーズン後半の監督は、一昨シーズンに半年間いた監督で、その半年で僕はゴールをたくさん決めることができたんです。最初の監督があまり僕を使ってくれなくて、それが、自分を使ってくれた監督が戻ってきてくれて、出場機会も与えてくれたし、そこで結果を出せれば違ったのかもしれませんが……。順位が決まる重要な時期でしたし、きっかけはあったんですけどね。

――今後は、逆に、その経験をプラスに生かしていければ、ですね。

そうですね。バンコク・グラスFCでの1年目は僕にとっていいシーズンだったんです。ゴールという結果も全部ついてきましたし。同時に「これはずっと長く続くものじゃない」とは思っていましたが、やはり続けなければいけないことで、昨シーズンはその波が途切れてしまって、ずっと続けていたら起こりうることなんですけど、でも今は、「だったらまた昇るしかない」という思いでいます。

――新しいクラブが決まるまでのアクションとしては、具体的にどのような動きをしていたのですか?

今、自分にはエージェントがいないので、「今、フリーの状態だ」ということを知人に伝えていて、シーズンの最終戦が終わったと同時に、自分からFacebookなどを使って、告知をしました。何チームからか連絡をいただいて、事前に情報があったのかもしれませんが、連絡をくれたクラブとやりとりをして、という感じです。

――Facebookにタイ語でメッセージを投稿していたのは僕も見ました。

タイの方に見てもらいたかったので、日本語が堪能な知り合いのタイ人の方に丁寧に翻訳してもらいました。

――クラブ探しはすべて自分で進めたんですね。タイ語と英語で交渉を?

契約にひも付くような詳しい話は、英語で確認してもらって、ときには日本人の通訳の方に入ってもらって進めました。ただ、自分で詳細なやり取りもしましたね。

――PTTラヨーンFCを新天地として選ぶ決め手になった部分はどんなところですか?

僕のなかで、3年前のトライアウトの記憶が鮮明に残っていて、あの時期はタイのチームを探すことが本当にしんどかったんです。いきなり「何時にきて」と呼ばれたりしながら、ぎりぎりのタイミングで「やっぱり契約はなし」というのが3度続いたことがあって、それが本当に怖くて、いくつものクラブに足を運んでも「待ってくれ」が続いたりしました。その経験があったので、本気で考えてくれているチームとできるだけ早く話をしたいと思って、PTTラヨーンFCが本気で僕の獲得を考えてくれたことはとてもありがたいことで、カテゴリーをひとつ落とすことにはなりましたが、僕はPTTラヨーンFCを選びました。「もう少し粘れば違う話もあったんじゃないか」という意見もいただきましたが、僕は自分を必要としてくれるチームに行くことが一番だと思っているので、待つことはしないようにしよう、と自分で動きました。あとは、自分がチームを上のカテゴリーに上げればいいだけですし。

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――PTTラヨーンFCについて教えてもらえますか?

バンコクから3時間くらい、パタヤから1時間くらいに位置するラヨーンという県にあって、海の街ですね。PTTというのはタイの石油公社で、タイの中では業界で一番大きい会社です。ビルも立派で、資金力もあると思います。スタジアムも立派だし、結果が伴って来れば、もっと強くなっていくクラブだと思います。

――クラブとの交渉の際に窓口になっていたのは?

最初に連絡を取り合っていたのはマネージャーのような役割の方で、「ボスに聞いてみるから」と条件を確認してくれました。

――交渉前の印象は?

僕自身、あまり情報を持っていたわけではありませんが、「安定したチーム」という印象でした。正直なところ、タイでは選手への給与未払いというのもなくはないので、安定しているという印象はプラスですし、2年目のシーズンで選手としての評価も落ちてしまったから、巻き返したいというという気概は強いですね。

――スタジアムのピッチは天然芝?

はい、メインスタジアムのピッチは天然芝です。ラヨーンにPTTの工場があって、練習場や寮はそこにそろっています。

――バンコク・グラスFCから契約満了の通達があったとき、気持ちはすぐ切り替えられましたか?

そうですね。バンコク・グラスFCは僕をサッカー選手として復活させてくれたクラブだと思っています。あのクラブでやっていたからこそ、次の話も来たと思っていますし、「大久保剛志をまた獲得したい」と思わせるように活躍したいですね。

――新しいクラブを探して自分でアプローチを取る、とまどいはなかったですか?

自分から発信して、新しいクラブ、行き先を求めるというのは日本ではあまりないですよね。でも、タイでは、自分からアプローチする、発信するというのは珍しくないんです。そういったことから話が決まることも少なくないですから。

――自身でアプローチをかけて交渉していくというのはなかなかできない経験ですね。

得られるものも多かったと感じています。代理人、エージェントに頼むというのも一つの選択肢でしたが、最初のタイのトライアウトのときに比べたら、という想いがあって、まあ、今回は選べる状況じゃなかったですけどね(苦笑)。

――PTTラヨーンFC側に要求したことはありますか?

最低限必要なのものとして、住居や車、日本との往復については交渉をしました。あとは、「ビザ関係はしっかりと」という確認もしましたね。新シーズンは通訳がいないので、すべて英語です。

――契約年数は?

今回は1年契約です。「2年」という話もいただきましたが、いくつかの条件を聞いていく中で、「まずは1年」というふうに決めました。

――タイで迎える3年目のシーズン、意気込みはいかがですか?

今になって、吹っ切れた部分があります。一昨年の成績があって「やれるな」と思って臨んだ昨シーズンに打ちのめされて、このままではいけないと考えさせられました。あえてカテゴリーを考えずに、リセットして、あらためてやろう、と吹っ切れました。自分の、サッカー選手としての価値が試されるシーズンになると感じています。変なプライドは捨てて、自分が本当にいい選手なら必ず活躍できるはずだし、プレミアリーグにチームを上げられるはずですから。正解はわからないですけど、「これでいい」と思っています。

――タイでのトライアウトは本当に過酷だったんですね。

Jリーグのトライアウトは受けたことがなかったので、トライアウト自体の経験もなくて、ギリギリのところで白紙になっての繰り返しでした。当時は「だったらもっと早く言ってくれ、そうしたらチャレンジできたよ」という気持ちでした。それで、最後の3日間でバンコク・グラスFCに決まって、タイでの挑戦がスタートしました。

――タイでのトライアウトはどういう仕組みなんですか?

そのチームに3日間とか1週間、参加するという形です。トライアウトの選手を見るために、練習試合が連日組まれていて、こちらは「決めてやろう」と思って全力でやりますから、メンタルにも体にも負荷が掛かりますし、「タイのトライアウトは厳しいよ」という話は聞いたことがあったのですが、「このことか」って(苦笑)。J1クラスの選手だったらすぐ決まるかもしれませんが、タイでは本当にサインをするまでわからないので、「タイで挑戦したい」という相談を受けることも多いですが、簡単に勧めることはできないですね。その人の人生を変えてしまうかもしれないので、無責任なことは言えないと感じています。

――ただ一方で、その経験が大久保選手を強くしてくれた面もあるんでしょうね。

そうかもしれないですね。とにかく今は、「新シーズンはどう活躍してやろうか」ということだけを考えています。

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――タイでの3年目、期待しています。

ありがとうございます。タイに来て、たくさんのつながりを持てて、バンコクを離れることにはなりますが、ここで結果を出せば、「剛志はがんばっている」って思ってもらえるでしょうし、みんなにまた笑顔で会えると思いますし、そこは結果を残すために全力でシーズンに臨みたいですね。とにかく、今の僕のできることをやっていきたい。そうすれば、1年後には「また、いい今」ができていくのかなと感じています。「剛志、大丈夫だったんだ」、「剛志、よくがんばったね」って思ってもらえるように、ゼロからの気持ちでめいっぱいがんばりたいです。

迎えるタイでの3年目のシーズン。「ゼロからの気持ち」で再出発を図る大久保剛志の活躍に期待したい。

OneNews編集長

編集者/KKベストセラーズで『Street JACK』などファッション誌の編集者として活動し、その後、株式会社フロムワンで雑誌『ワールドサッカーキング』、Webメディア『サッカーキング』 編集長を務めた。現在は株式会社KADOKAWAに所属。『ウォーカープラス』編集長を卒業後、動画の領域でウォーカー、レタスクラブ、ザテレビジョン、ダ・ヴィンチを担当。2022年3月に無料のプレスリリース配信サービス「PressWalker」をスタートし、同年9月、「OneNews」創刊編集長に就任。

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