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貧富格差の持つ意味:中国を見つめ直す(1)

麻生晴一郎ノンフィクション作家

中国で地方政府相手の暴動やテロが起きるたびに貧富格差が指摘される。貧富格差は日本でも問題だが、日本で貧困者による暴動は多くない。なぜ中国では貧富格差を背景に連日のように暴動が発生しているのか?

中国には沿海部-内陸部といった格差もあるが、貧しい内陸部の住民が豊かな沿海部を襲う暴動はまずなく、暴動を引き起こす貧富格差は次のようなケースに限られる。

河北省のある村。ここでは作物の種や肥料は村政府を通じて購入する以外にない。村長は親しい業者と利益を分かち合うべく生産物や販路を決め、それを農民に強制する。

ある村民は村政府の言いなりになるのが嫌になり、畑を売って車を購入し闇タクシーを始めた。怒った村長は無免許営業だと言いがかりを付け、車を没収した。現在、彼は屋根の雨漏りも補修できぬ貧しさにある。警察、地元新聞社、村を管轄する上級政府はみな村政府と親しいので、いったん村政府との関係をこじらせた村民は、村を出ても活路がない。

他方、賄賂を贈るなど村長お気に入りの村民の中には、肥料販売業に転じて成功を収めた者や、堂々と闇タクシーで儲けている者もいる。要はこの村で最も潤うのは村長であり、村長との親しさに比例して収入も多い。貧しい村民の不満が村長や村政府に向かうのは言うまでもない。

「頭上に青い空、人民の望むもの」環境の話ではなく、公平な政治を求める庶民の声だ。
「頭上に青い空、人民の望むもの」環境の話ではなく、公平な政治を求める庶民の声だ。

やや極端な例だったが、大都市においても豊かさと政府との近さはある程度、比例するはずだ。党幹部や政府職員になることは高収入を意味し、給与・手当だけでなく、公費でビジネスを行なうことが常習化し、有力な民間企業に政府関連企業は少なくない。個人経営者が政府との関係を抜きに成功を収めるのは至難の業だ。政府が販路を押さえ、その気になれば難癖を付けて会社を潰すこともできる。

「国富民○(穴かんむりに力)」(国家は富み、民は貧しい)と言われる。中国における貧富格差は、貧困層を切り捨てる政策が問題と言うよりも、貧富格差の「富」の側が当の政府である現状に対しての不満である。だからこそ不満が政府への攻撃に直結するのだ。

90年代以前は違っていた。権力は政府にあったが、華僑や外国企業と関係を持つ方が金銭面では恵まれていた。だが、今は富も政府に一極集中している。

政府関係者と庶民の正確な収入格差はわからない。昨年から中国では市民活動家らが高級官僚の資産公開を要求しているが、実現しそうになく、彼らは最近次々に拘束されている。こうしたことも格差をいっそう印象付け、不満を募らせていく。

ノンフィクション作家

1966年福岡県生まれ。東京大学国文科在学中に中国・ハルビンで出稼ぎ労働者と交流。以来、中国に通い、草の根の最前線を伝える。2013年に『中国の草の根を探して』で「第1回潮アジア・太平洋ノンフィクション賞」を受賞。また、東アジアの市民交流のためのNPO「AsiaCommons亜洲市民之道」を運営している。主な著書に『北京芸術村:抵抗と自由の日々』(社会評論社)、『旅の指さし会話帳:中国』(情報センター出版局)、『こころ熱く武骨でうざったい中国』(情報センター出版局)、『反日、暴動、バブル:新聞・テレビが報じない中国』(光文社新書)、『中国人は日本人を本当はどう見ているのか?』(宝島社新書)。

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