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不幸な女と幸せな女、それぞれの戦略的「おとぎ話偽装」

渥美志保映画ライター

「私の人生が“おとぎ話”だと思っているなんて、それこそ“おとぎ話”よ」

カンヌ映画祭でプリンスに見初められ、ハリウッド女優からモナコ公妃になったグレース・ケリー。まさにおとぎ話を地で行った彼女ですが、『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』では、こんなセリフをこぼしています――っていうか、実際にグレース・ケリーが残している言葉です。ちょっと分かりにくいですが、要するに「王子様と結婚してハッピーエンド!なおとぎ話が、現実にあると思うなんて無邪気すぎる」ってことですね。

映画はその内情を描いていきますが、「どこに行ってもアメリカ流」なグレースもよくはないんだけれど、フランス人のセレブ小姑たちのネチっこい嫌がらせといい、「アメリカじゃないんだから女がしゃしゃり出るな」って感じの旦那様といい、確かにその生活はおとぎ話とは程遠いもの。

ところがあるきっかけで目覚めた彼女はそのイメージを逆手にとり、“おとぎ話のお妃さま”を完璧に演じようと決意します。もちろんその過程――難しいフランス語や宮殿のお作法をスパルタ式に叩き込むこと――もまた、おとぎ話とは程遠いのですが、そもそも彼女は野心家の女優。久々の“役作り”にここぞとばかりに燃え上がり、政治的な大ホームランをかっとばすのです。

現実世界にある“おとぎ話”は、そのほとんどが作られたイメージだと思います。羨まし~って言われたいとか、苦労を見せたくないとか、とにかく「おとぎ話のように幸せと思わせたい人」の戦略のようなものです。でも、それでも人は「おとぎ話のような幸せはある」と信じたい。それこそが「おとぎ話」の無敵さです。多くの人を魅了する曇りない純粋さと完璧な美しさは、それが現実にあってほしいと願う人の「この世界を汚してはいけない」という思いによって、守られているのです。

女子たるもの、この心理を利用しない手はありません。グレースのような完璧な「おとぎ話偽装」で、この人を粗末に扱えない、この人を悲しませてはいけない、この人を辱める人間は許せない、と周囲の無意識に刷り込むことに成功すれば、得られる利益は絶大。「偽装」するために強いられる努力が「おとぎ話」とは言いがたい、というのが、演者にとっては切ないところではありますが。

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10月18日公開

『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』

モナコのプリンスと結婚し、人気絶頂で引退した女優グレース・ケリー。その6年後、宮殿の生活になじめず女優復帰を考え始めた彼女は、フランスとの関係悪化にあったモナコが存亡の危機にさらされていることを知り……。ゴージャスな衣装とアクセサリーの数々、そして二コール・キッドマンの美しさにうっとり。

10月18日(土)より TOHOシネマズ有楽座ほか全国ロードショー

(C)2014 STONE ANGELS SAS

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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