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泣き笑いで戦後を生きた家族の物語で、入隊前のユノを見納め。

渥美志保映画ライター

さてそんなわけで、今回は『国際市場で会いましょう』のご紹介をしたいと思います。

この映画、韓国で大ヒットしていたし、東方神起のユノ(ユンホ)をこよなく愛する友人に「すっごくいい!」と熱弁され、そんならと見に行ったら、ぎゃー、涙腺直撃空前の大決壊。家族のために生きる父親に泣いちゃうなんてさあ、私も年を取ったもんね……と一瞬遠い目になりましたが、いや、違う違う、絶対に年のせいじゃない!誰だって絶対泣くんだよ!と思い直し、その持論を証明すべくみなさんにご紹介(動機が不純)。もちろん入隊前のユノにも興味ありますよね~。正直、あんまり期待してなかったんですけど、これが思わぬ拾い物。そのカッコよさにもがっつり語らせていただきまっせ

物語の始まりは朝鮮戦争の激戦地から。中国軍の進撃で北の興南から米軍が撤収、その最後に残った船に避難民が殺到します。そんな中、幼い主人公のドクスも、さらに幼い末妹の手を引いて船を目指して急ぎます。ところが。荒縄網をよじ登りようやく船に乗り込もうという時、背負っていた末妹が、おっばあああ~~~!(お兄ちゃーん)と海に落下。ドクスを船に引っ張り上げた父親は、末妹を探すために船を下りてしまいます。この時に父親が言い残した「お前が家長だ。家族を守れ」(ここでまず決壊)という言葉を胸に、ドクスは母と幼い弟妹を愚直に守り続ける人生を生きてゆくことになります。

記念写真でいつも目をつぶっちゃうドクス。こういう不器用な人っていますよねー。
記念写真でいつも目をつぶっちゃうドクス。こういう不器用な人っていますよねー。

映画はドクスの人生を通じて、朝鮮戦争から現代までの韓国激動の時代を浮き彫りにしてゆきます。

例えばドクス一家が世話になる叔母の家は、釜山の国際市場の小さな雑貨店。国際市場は戦後の闇市が発展したもので、今現在も現役バリバリの生活市場。老人になったドクスが登場し現在を描く場面では、地上げ屋に「店を売れ」と迫られてたりして、映画祭人気でバブってんのか!釜山!なーんて思ったりなんかもしますー。

ドクスが後に結婚するヨンジャが西ドイツで出会うのもビックリしましたが、この時代ならでは。韓国は1960年代、深刻な就職難と外貨獲得を一石二鳥的に解決するために、西ドイツへの出稼ぎを国家的に推進していたんですね。貧乏一家を支える長男ドクスと長女ヨンジャは、それぞれ炭鉱夫と看護婦として、ドイツ人がやりたがらない3K(もはや日本では死語?キツい、汚い、危険)仕事を引き受けていました。

ドクスはつまり、その時代を家族を養うために懸命に生きた「100万人のお父さん」の典型、象徴でもあるわけですね。

時代設定が同じくらいなので“韓国版『ALWAYS 三丁目の夕日』”と言う人もいますが、私はむしろ“韓国版『フォレスト・ガンプ 一期一会』”じゃないかなと思いました。ドクスはガンプのような「うすのろ」ではないけれど、ガンプのように善良で前向き。時代時代の立役者たちとなぜか遭遇するお楽しみも似ています。でもってその一人として登場する、韓国の人気トロット(演歌)歌手ナム・ジンを、お待たせしました、東方神起のユノが演じているんですねー。

1970年代、これまた家族を養うために、技術者としてベトナム戦争に行ったドクスは、ジャングルでナム・ジンに命を救われます。なんとナム・ジンは、海兵隊員としてベトナム戦争に出征してたんです。てか、人気歌手が戦場にいるって、すげーな、韓国!すげーな、徴兵制!と驚きを禁じ得ません。でもってこれを、この夏の入隊で海兵隊志願しちゃいそうなユノが演じているわけですねー(2度目)。

入隊後のユノ入を妄想するにぴったりの画像でござります。
入隊後のユノ入を妄想するにぴったりの画像でござります。

以前から『地面にヘディング』とか『夜王』とか『ポセイドン』とか『夜警日誌』とか様々なドラマでユノの演技を見てきましたが、ま、言っちゃいますけど、演技はイマイチだよな!ユノ!と思っていました私。それがねー、なんなの、めちゃめちゃカッコいいし、上手いんですよ、この映画では。その理由は間違いなく方言だと、私思います(40代、大好物:方言男子)。ユノの出身は光州で、ナム・ジンの出身地はの木浦、どちらも全羅南道(チョルラナムド)なので、ユノは思う存分チョル弁(って言うのか?)で演じてるんですねー。これ私の勝手なイメージですけど、チョル弁には、荒っぽさはあるけど、まくしたてるようなスピード感はない、広島弁とか九州弁的な男っぽさを感じるんですよねー。これが「最前線の頼れる男」キャラと相まって、相当いい。共通語ネイティブじゃない俳優さんに時々ありますが、たぶんユノは共通語だと感情が乗りにくいんでしょう。今後は方言メインで演じること希望。大切な兵役前に、俳優としてのポテンシャルを見せられたんじゃないでしょうか。

さて話を映画に戻しましょう。

映画の魅力の多くは、ドクス演じるファン・ジョンミンが担っていると思います。悪役やるとすっごい怖い俳優さんなんですが、この映画だけしか見ていなかったら、この人絶対いい人!と、ド素人みたいに言いたくなっちゃう上手さ。ハの字眉毛とつぶらな瞳、言いたいことをこらえて小さくつぐむ口、辛い時に浮かべるどこか恥ずかしそうな笑顔、どれもドクスそのものです。この手の映画は“泣かせ”が見えると鼻白むものですが、ファン・ジョンミンの上手さで、観客は気持ちよく、ドクスと一緒に笑いドクスと一緒に泣くことができます。ラスト近く、映画で大人になったドクスが唯一声をあげて泣く場面では、私はボロボロと完全な大決壊を起こしてしまいました。てか、絶対みんな泣くんだよ!(キッパリ!)もちろん脇も本当に上手。妻役のキム・ユンジンも素晴らしいし、笑福亭笑瓶に似た親友役のオ・ダルスの、出て来るだけで笑っちゃう存在感も抜群です。

韓国映画が好きで韓国の歴史もそれなりに知っているつもりでしたが、この映画では「韓国についてまだまだ知らないことがたくさんあるんだなあ」と実感しました。同時に政治や歴史という観点からは見えない市井の人々の泣き笑いは、どの国も同じ、なんてことも。何が目当てのどんな人でも、見たら必ず映画そのものを楽しめる作品に仕上がっていますので、私のためにも遠慮せず、大号泣してもらいたいと思います。

『国際市場で会いましょう』

http://kokusaiichiba.jp/

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映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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