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幕末に散るふたりのイケメンに萌え死に。

渥美志保映画ライター

「**とイケメン」という組み合わせで、みなさんが何が一番好きです?(まず設問が変)筋肉とイケメン、薔薇とイケメン、生魚とイケメン、肉まんとイケメン、学園ものとイケメン……などなどまあいろいろありましょうが、私の好物は「イケメンとイケメン」、そして「幕末とイケメン」です。

若い男の子たちが熱い友情で結ばれてゆき、きったねえ大人の都合の中であたら命を散らしていく、いやーん、可哀想萌え!というお気に入りの妄想回路を完璧に実現しているからです。でも大河ドラマが幕末モノを連発するところをみると、女子はみんな好きにちげえねえ!といつも通り勝手に大決定し、今回はみんな大好き「幕末とイケメンとイケメン」な作品『合葬』を、喜び勇んでご紹介したいと思います!

物語の舞台は幕末から明治初期。薩摩・長州両藩による新政府軍に江戸城をあっさり明け渡したヘタレ将軍・徳川慶喜が上野・寛永寺に謹慎させられ、これに義憤を覚えた旧幕府派の武士たちが結成した武力組織「彰義隊」がやがて新政府軍に壊滅させられるまでを、若い隊士ふたりの青春を通じて描いてゆきます。ひとりは、慶喜のために死ぬ覚悟で家を出た秋津極(あきつきわみ)、もうひとりは、養子だった家から体よく追い出され、行き場を失った吉森柾之助です。朝ドラ『まれ』で世の女子たちに“大輔ロス”を引き起こした柳楽優弥と、大河ドラマ『花燃ゆ』の吉田稔麿役が可愛い瀬戸康史が、このふたりを絶妙なバランスで演じています。

ちょんまげイケメン二人組
ちょんまげイケメン二人組

デビュー作『誰も知らない』でカンヌ映画祭主演男優賞を獲得し、モヤモヤ期はあったものの、ここ数年で完全な再ブレイクと果たした柳楽くん。その魅力のひとつは強烈なオーラです。映画の中では若い隊士が群れながら街を闊歩する様を引きで撮った場面があるのですが、集団の中で発する柳楽くんのオーラはこれまたピカイチ。どちらかといえば小柄ですが骨太なので「着物に着られる」こともなく、薄汚れた蓬髪もワイルドな魅力たっぷりです。

でもってカメラが寄ると、なんなのあの目力!ひやー!何かに憑かれたように「死」に向かっている極の狂気のようなものが、あの大きい目から強い光線みたいビンビン来て撃ち抜かれっぱなし。まあ極はそんな男なんで、武家のお嬢様やら遊女やら町娘やら女にはモテモテなわけです。濡れ場もあって、これが何映ってるわけでもない、汗ばんだ首筋とかアゴの線とかに寄った数カットのシーンなんですけど、信じられんエロさ

…ってのが、スチールじゃ伝わらないんだよなっ!
…ってのが、スチールじゃ伝わらないんだよなっ!

長編1本目の新人監督らしいのですが、このツボの抑え方!(「!」多すぎ!)ただ者じゃありません……恐ろしいわ男のクセして。

まあそんな剛腕モテ男に引きずられ、さらに彼を慕う町娘をそうとは知らず好きになってアホを晒す、てな役まわりを演じるのが吉森柾之助こと瀬戸くんです。クリッとした小動物的な目と無邪気な表情の瀬戸くんは、個人的に「ポコちゃん3D」と呼んでいるんですが、何を演じても健康的で清潔。実は彰義隊はその多くが十代で、劇中でも写真館に行った彼らが撮影用小物のピストルで銃撃戦ごっこする場面があったりする、まだまだほんの子供の集団なんですね。瀬戸くん演じる柾之助はそういう幼さや純粋さを体現する存在です。こんな感じで、はいドン!

ぽかーん。とする、ちょんまげ姿の不二家のポコちゃん」
ぽかーん。とする、ちょんまげ姿の不二家のポコちゃん」

自分の好きな町娘に言おうと「実は秋津極は、昼間から深川の遊郭で遊びふけっている男なんです!」的なセリフを噛みながら何度も予行練習する(そして結局言えない)なんて場面はなんとも可愛く微笑ましく、かと思えば左目の下の「泣きボクロ」が色っぽかったりもして、おばちゃんたまりません

NHKのお料理バラエティ『グレーテルの竈』では“働く姉のためにお菓子を作る弟”というキャラを演じている瀬戸くん、素直なキャラクターがハマるのかもしれません。極みたいなタイプはずっと見てると疲れちゃうけど、柾之助の癒しがあるから映画としてもいいバランスなんですねー。

イケメンはもちろんですが、それ以外にも独特の魅力がある作品です。

私がすごくいいなあと思ったのは、登場人物によって語られる不思議な小話の数々。たとえば、柾之助がいつの間にか踏んで草履の裏にくっついた「腐った血なまぐさい得体の知れないものの話」とか、「鼓動する楠の巨木を愛し、結婚もせずに生涯を過ごした男の話」とか、「湯呑の中で決闘する、幻の小さな武士たちの話」とか。これをどうとるかは見る人次第なのですが、例えば「腐った血なまぐさいもの」は幕末の若者に憑いた何かにも思えるし、「楠の巨木」も現実の喜びを退けて生きた若者たちに、「湯呑の中の決闘」は小さな世界で繰り広げられた当時の戦争そのものにも思え、物語の雰囲気や世界がぐんと深まり、見ている人の中に独特の余韻を残します

美味しい脇役で登場のオダジョーも大人の味でカッコいいんだな
美味しい脇役で登場のオダジョーも大人の味でカッコいいんだな

その他にも、脚本を大ヒット朝ドラ『カーネーション』の渡辺あやさんが手掛けていたり、ナレーションをカヒミ・カリイさんがやっていたり、いわゆる「いかにも時代劇」とは全く違う魅力がたっぷりの作品です。そういや(そういや、って失礼)、最近では渋い脇役でもいいオダギリジョーが、これまた美味しい役で大人の魅力も見せてます。時代に翻弄されるイケメン俳優の散り行く青春に「可哀想萌え」しつつ、そのあたりも楽しんでいただけたらなーと思いますー。

『合葬』

9月26日(土)より全国順次公開

(C)2015 杉浦日向子・MS.HS/「合葬」製作委員会

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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