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従わない人は、圧力かけて追い出しちゃえばいいんじゃね?って、どこの国の話?

渥美志保映画ライター

釜山映画祭ファンの皆さん!映画祭が大変です~。

第5回からここ15年くらい、ほぼ毎年10月には釜山映画祭に通っている私。こちらでも毎回レポートを上げていて、たくさんの方にお読みいただけているようなので、韓流ファンならずとも韓国映画好きな方って結構いるんだなーなんて思っているのですが、今回はなぜか季節外れの「釜山映画祭レポート【番外編】」をお送りします。なぜって映画祭への政府からの圧力がすごくて、どうやら本気でピンチっぽいから!

2014年の釜山映画祭レポでは、司会に渡辺謙さんを迎え、「和合」をテーマに、夏川りみさんが「さとうきび畑」を歌うというオープニングセレモニーの模様をお伝えしました。日本から行った私は夏川さんの歌声に鼻水たれて号泣し、「やっぱり韓国の人たちと仲良くしたい」と思いながら、文化が発信するものってすごいなと改めて実感したものです。

実は夏川さんのこの鎮魂歌には、もうひとつの意味もあったようです。それが同じ年の4月に起きた韓国史上最悪のフェリー事故「セウォル号沈没事故」。皆さんも覚えていますよね。修学旅行で乗船していた多くの高校生が命を落としたあの事故です。この年の映画祭では、その救助現場の混乱をレポートしたドキュメンタリー『Diving Bell』を上映しています。これ実は政府から「上映するな」って言われてたんだけど、映画祭は肚を決めて上映したわけです。

でもってここから政府から映画祭への圧力が始まり、実は去年の映画祭も「これは予算を削られたな」と感じさせることも多々あって、大丈夫かなーと思っていたのですが、大丈夫じゃなかったっぽいんですねえ。どうやらあの手この手で、映画祭の執行部の解任させようとしているようなんです~。ハリウッドの陰謀モノの映画みたいですけど、なんだかこれ最近よく聞く話!

なぜ今こんな記事書いてるかっていうと、現在開催中のベルリン国際映画祭で、国際的な映画人たちが釜山に対する緊急支援集会を開いたので賛同して下さい!というお知らせが、映画業界の末端にいる私にも回ってきたからですー。

黒沢監督や是枝監督も、釜山を応援するコメントを手に持ってますねー。
黒沢監督や是枝監督も、釜山を応援するコメントを手に持ってますねー。

ってことで私も!と勇んで記事にしてはみたものの、まあ関係ない人にとっては「あっそ」って感じですよね、知ってます~。とはいえ「そんなもんだよね……」と引き下がるのも切ないんで、今回はその問題作『Diving Bell』をちょこっと紹介したいと思ます。

この作品、gobalnews.comというネットメディアが追いかけた現場レポですが、政府が「上映するな」って言うってどういうこと?どこが問題?って思いますよね~。ほんとに「マジで?」って思う場面がたくさんある映画ですが、実は日本にとっても他人事じゃないような……ということがこの先に書いてありますから、是非スクロールしてみて下さいまし。

映画は2014年4月16日の事件直後から。船内で追い詰められてゆく子供たち、その残された声から始まります。本当にひどいです。

映画が始まってまず驚くのは、当初韓国政府は「事件発生から2時間で全員救助された」と発表していたこと。さらに家族が海上警察に「韓国より技術のある国に助けを求めたらどうだ!日本とか、アメリカとか、中国とか!」と詰め寄る場面では、「日本に救援を求める予定です」みたいに答えてる人がいるんですね。日本では「救援を申し出たら断られた」と報道されいてたけど……。

でもって大手は警察発表のまま「軍・民間合わせて640人のダイバーがためらいなく潜り…」と報道していますが、現場の民間のダイバーに聞くと「嘘です。天気が悪くてダイバーが危険とか言ってますが、十分潜れる天気です。なのに船上でやりすごすだけ。潜ろうとするのも、ポーズを見せてるだけです」なーんて答えてる。似たような証言は救援活動を注視する家族からも出ています。

そのことについてKBS(日本でいうNHK)の報道局長が答えているんですが、「大統領官邸から電話があって”救助活動は進行中だから、沿岸警備隊に対する批判的報道はしないように”という指導があったため」って言ってるんですね。おいおいおい。それ報道か?

さらに、救助を請け負った民間企業のお偉方が言います。「我々が現場についたとき、船内には300人がいたけど、ダイビングの知識がない彼らを通常のダイビングの装備で海の中から救えたかって言えば、たぶん難しかったと思う」。これ多分事後のインタビューなのですが、それを当時から主張していたのがアルファ・ダイビング・テクノロジー社代表 イ・ジョンインさん。彼によって提案されるのが「ダイビング・ベル」という装備です。ざっくりいうとクレーンで水中につるして上下させるエレベーターのようなものです。

彼は救助への協力を申し出て「自費で」現場にかけつけるのですが――沿岸警備はこれを「役に立たない」と拒み続けます。いたずらに時だけが過ぎ、最終的にはこのおじさんが「救助を混乱させた」とスケープゴートにされてゆきます。

もちろん事故のそもそもの原因はフェリー会社側のずさんな運営にあったのだと思います。でも救助の段階で救える人も死なせてしまったのではないか。政府がやれることをやっていなかったのではないか。その追及を逃れるために情報操作し、大手マスコミがそれに加担したのではないか。映画はそういうことを描いています。

これはとんでもない問題って気がしますけど、昨今では日本でも似たような話を聞かないではないですよね。いやいや、実のところどこの国も大して変わらないのかもしれません。以前こちらで書いた、四川大地震での5000人の子供の死の真実を追求した(でもって中国政府に捕えられた)中国の『アイ・ウェイウェイは謝らない』もそうだし、アメリカがイラク戦争介入を実現させるために広告代理店が世論操作したって話もそうだし、日本の原発事故なんかでも後からポロポロ「聞いてない!」という話が出てきたりしましたよね。人命よりも体制維持を優先する権力の在り方、報道が何の躊躇もなくそこに乗っかってしまうこと。表現の自由って、こういう状況を監視するためにも、すごく重要なんですね。

さて今回はこの映画の全編動画(英語字幕だけども!)を張り付けちゃうという大盤振る舞い!製作したネットメディアがYouTubeで一般公開してるだけだけど!よろしければご覧くださいねー。

『ダイビング・ベル』

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映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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