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【今月の激オシ!】『マジカルガール』監督インタビュー

渥美志保映画ライター

【今月の激押し!】はスペインで映画賞を受賞した『マジカルガール』。

まだ見てない方はこちらをどうぞ”!

今回は監督カルロス・ベルムト監督のインタビューをお届けします。見る前に読めば「映画の見方のツボ」がわかり、見終わった後に読めば「なるほど」が満載です!見てほしいわー!

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フィルムノワールと日本のカルチャーの取り合わせは、どんなふうに着想したんですか?

古典的なフィルムノワールとは違う、もう少し人間的なドラマを含む作品を作るつもりで、「脅迫の連鎖」をテーマにプロットを練っていた時、何か物語を転がすためにアイテムはないかと考えて思いつきました。最初にアニメキャラのコスチュームを、次に「魔法の杖」を思いつきました。娘が欲しがっているアニメ『魔法少女ゆきこ』のコスチュームを買うために、父親ルイスが謎めいた女バルバラを脅迫するんですが、望みはそれだけでは完璧に果たされない。「魔法の杖」が必要で、彼はもう一度女を脅迫しなければならなくなります。

セーラームーン的な!
セーラームーン的な!

『魔法少女ゆきこ』のテーマ曲に使った長山洋子さんの「春はSA-RA-SA-RA」は、日本のアイドルのきらめきを体現しています。「魔法少女」シリーズの主題歌として耳に残る歌を探している時に見つけました。僕にとってアイドルの世界はある種の不幸です。おそらく西洋人からすると、アイドルの少女たちはただ笑って、自分の感情を押し殺している人形に見えるからでしょう。笑顔の裏にはきっとたくさんの悲しみがあると思ったから、たとえ歌を通してだけでも、このテーマに近づいてみようと思ったんです。

バルバラ役の女性について教えてください。

バルバラ役のバルバラ・レニーさんをキャスティングした一番の理由は目力です、雪女みたいに冷酷な感じの。バルバラはそうでなくてはならないと思っていました。彼女はスペインで育ちですが、ご両親はアルゼンチンの方で、生粋のスペイン人ではありません。スペインの女優さんは目に感情が出やすいんですが、彼女はそれを抑え込むことができる女優でした。

悪魔的なバルバラを演じるバルバラ・レニー
悪魔的なバルバラを演じるバルバラ・レニー

映画の中で「目」はすごく重要な要素です。私自身シャイで、人と目を合わせるのが得意じゃないんです。相手にもよると思いますが、あまりに見つめられると怖くなりますよね。この映画の中でも、たとえば鏡の中をのぞき込むバルバラの目、クライマックスでダミアンを恐怖させるアリシアの目、そこにある目力は、いろんなことを感じさせると思います。

SMの館の車椅子の紳士には「闘牛は理性と感情でバランスをとっている」というセリフがあり、作品全編にも闘牛を感じさせる要素が盛り込まれていましたが、それはどんな意味がありますか?

闘牛は「理性と感情」の対立の象徴です。スペインの歴史において何度も起こった内戦は、宗教対立でも南北対立でもなく、すべての理由がこの「理性と感情」の対立です。選挙などを見ても分かりますが、スペインは今の時代にもこの問題を抱えているんですが、平和を保つにはこの二つのバランスがすごく重要だと私は思うんです。

闘牛は私の中ではそうした葛藤の象徴です。理性では「なんて残酷なんだろう」と考える反面、闘牛に関連すること、音楽のパソ・ドブレが流れたり華やかな衣装を見たりすると、どうにもならずドキドキしてしまうんです。

物語の中ではバルバラと過去に因縁を持つ数学教師のダミアンが「理性」を、病気の娘の父親で文学教師のルイスが「感情」を代表していて、最終局面では彼らが対峙する、その際のダミアンの身支度の様子には闘牛士を思わせる要素を盛り込んだのは、そうしたことを表現したかったからです。

ですがルイスと対峙した時、結局は誰が「殺される牛」だったかと言えば「闘牛士」のはずだったダミアンかもしれません。闘牛士はスペイン人にとっての「男性性」の象徴ですが、彼はそれに囚われてしまうことで、「理性の象徴」であるはずが「感情の爆発」に負けてしまうのです。

映画には明らかにされないたくさんの謎が残されていますね。

僕はリュミエールの大ファンなんですが、彼は僕らの親世代の映画のメインストリームで、その時代は彼のような「作家」の映画――謎が謎のままで残る映画が普通だったし、観客もそれを楽しむことができました。私自身は理性的な人間でありたいと思いますが、芸術においては理性的であり過ぎることは――すべてを理屈で理解することに、どうなんだろうと思うところもあります。

全身傷だらけのバルバラ……理由が明かされないからこそ、恐ろしい想像が膨らみます
全身傷だらけのバルバラ……理由が明かされないからこそ、恐ろしい想像が膨らみます

今は誰もが映画の中の「謎」に「どういう意味?」と聞きたがるし、たくさんの人に見てもらうには説明すべきかなと思ったりもするのですが、謎を謎のまま楽しんでほしいとも思いもあります。そういう理性と感情の葛藤の結論として、謎は謎のまま残しつつ、誰が見ても分かる映画、というのを作りたかったんです。

日本の文化が好きな理由はどこにありますか?年の3分の1を日本で過ごすと聞きましたが、どんなことをしているんですか?

よく「日本文化が好き」と言われますが、日本だから好き、というわけではなく、好きになったもに日本のものが多かったというだけ。日本文化でも一部のアニメやマンガ、ミステリー小説、サブカルチャーとか、そのへんだけです。

今回の来日で10回目ですが、滞在期間をすべて合わせれば1年半くらいになると思います。当初は普通の観光客らしいことをしていましたが、観光客でなくなった頃からは、マドリッドにいる時と同じ。脚本を書いたり、友人と会ってご飯を食べたり、本を読んだり、散歩したり。必ず行くのは上野の自然科学博物館です。頭を空っぽにすることができるから。『マジカルガール』は東京にいる時に脚本を書いていたんですが、「魔法少女ゆきこ」のリアルさを追究するために、秋葉原に通って雑誌やコミックをチェックしたり、コスプレの衣装を研究したりもしましたよ。

「マジック」はこの映画のキーワードかと思いますが、監督にとってマジックってどんなものですか?

自分は理性的なタイプなので、何事にも説明を求めてしまい、「人生の魔法」をどんどん取り除いている気がします(笑)。魔法のない世界って退屈だなと思いますよ。でも同時に魔法のない世界の方が平和だとも思います。魔法に宗教は付き物だし。私は無宗教なので、そういうものを一切信じていないんです。でもこうやって、すべてが嘘だと知りながら、その世界に入っていく映画は、それこそ魔法、芸術こそが魔法かもしれません。まあでも、ホントに魔法が使えたら、いつでも東京に来られるような魔法を使いますけどね(笑)。

マジカルガール

公開中

公式サイト

Una produccion de Aqui y Alli Films, Espana. Todos los derechos reservados (C)

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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