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移転延期に揺れる築地市場。その内側のことは、意外と知られていない。

渥美志保映画ライター

今回は10月1日に公開予定の『築地ワンダーランド』をご紹介します。

この作品、これまで映像での長期取材がなかった築地市場に、1年4か月もの長期取材を敢行。市場で働く人々はもちろん、道場六三郎、ESQUISSEのリオネル・ベカ、nomaのレネ・レゼピなどをはじめとする有名料理人たちのインタビューなどを通じて、築地ってこんなところだったんだ、こんな人たちが働いてたんだ、などなどを描き出した作品です。

豊洲移転がここにきて驚きの延期となりちょっとホットな話題ですので、少し早目ではありますがご紹介したいと思います。見終わった後は、「寿司が食べたい食べたい食べたーい!」となる映画です~!

築地を空から撮った映像もたくさんあります。こんなんなってるんだなー。
築地を空から撮った映像もたくさんあります。こんなんなってるんだなー。

映画は、築地市場水産部、つまり魚介類を売る部門の日常を、そこで働く人々や、築地に通う料理人たち、さらに築地を愛してやまない研究家や評論家など、多くの人たちのインタビューとともに追ってゆきます。

築地の水産物の取扱量は1日当たりの水産物の取扱量は2000トンだそうです。これちょっとイメージしにくいですが、映画に登場する築地市場を15年も研究している先生によれば「数階建てのビル一杯分」。結局よくわかりませんが、なんかすっごい量だってことだけはわかります。どうやら世界でナンバーワンのようです。でも料理評論家の山本益弘さん曰く「築地はナンバーワンじゃなく、オンリーワンの市場」。ということで映画は、「築地の何がオンリーワンなのか?」を描いてゆきます。

さて築地移転のニュースで、「仲卸業者の8割が移転延期反対」とか「仲卸業者が移転延期を求める」とか、「仲卸」って言葉をすごく聞きますね。映画の主役は、主にこの「仲卸」の人たち。余計なお世話かもしれませんが、まず「仲卸」ってなに?って話からいきましょう。

マグロの仲卸さん。マグロを切る包丁はまるで日本刀です(^^;)
マグロの仲卸さん。マグロを切る包丁はまるで日本刀です(^^;)

最初に築地に水産物を運び込むのが「卸売会社」。これは産地とつながって、その出荷物を委託または買取で引き受けている会社で、築地の水産物市場には7社あります。ここが開くセリなどに参加して、水産物を購入するのが「仲卸」。この「仲卸」を通じて買うのが「小売業者」。お寿司屋さんなどの料理店などはこれにあたります。

でも産地から運んでくれる「卸売」はまだしも、「仲卸」は、「生産者」と「小売業者(もしくは消費者)」の間にいる「中間業者」、つまり「中間マージンを取って価格を引き上げる存在」ですよね。多くの業界でこんな風にあしざまに言われる中間業者は、時代の流れの中でなくなってしまった業界もあると思います。

この映画にも「一時期は産直だった」と口にする料理人もいるのですが、その人はこう続けます。「けど、また築地に戻ってる気がする」。その理由は当然、築地の「仲卸」にしかできないことがあるから。

映画の中ではそれを「評価と分荷」という言葉で表現しています。

つまり「(様々な顧客の価値観に合うった)いい魚」を選んで、それをニーズに割り振っていくこと。そこに絶対的な目利きの力があります。例えば太っていても全然脂ののってない魚もいるし、食べごろを過ぎた魚もいて、それはどうやって判断するかと言えば「触った感じ」。1年365日何百匹という魚に触れ続けている人にしかできない、まさに職人技。いつが旬なのか、どう食べるのが美味しいのか、そういうアドバイスができることはいわずもがなです。

さらにビックリしちゃうのが、そういう目利きが魚の種類ごとに特化されていること。「自分、アナゴしか知らないんで」とか「年がら年中マグロのこと考えてる」とか、仲卸はそんな人たちなんです。“プロ意識の鬼”たるお寿司屋さんもこの辺には完全に脱帽で、「僕らにはそんなことはできません。買ったものに文句つけるだけ」。当然文句はつけるんですよ、脱帽してても!マジで怖いわ寿司屋!

「生半可な気持ちでセリに参加したら、商売にならない」なにしろ1匹で高級車1台分の値段なんで!
「生半可な気持ちでセリに参加したら、商売にならない」なにしろ1匹で高級車1台分の値段なんで!

そうしたプロvsプロのシビア世界でのやり取りは、完全な戦いです。激しいドツキ合いです。そのうえ、仲卸は自然とも戦わねばなりません。発注受けた後に海が大シケで漁に出ないことが発覚とかもあったりするわけで、怖い寿司屋は絶対に「受けたからには用意してくれるんだろうな。お前の信用がかかってんだぜ」と挑んでくるに違いなく、毎日毎日ヒリヒリした状況の連続です。

でもそんな戦いを経て結ばれた信頼関係は、世代を超えてつながってゆくほど力強いんですね。「この**は間違いない」とか言いながら、寿司職人が仕入れた魚をまるで宝物を扱うように丁寧に仕上げ、煮切り醤油をサッと一刷毛したその握りの、なんておいしそうなこと! 私が職人にしびれてしまうのは、こういう瞬間です。大変な仕事だとは思うけれど、一度やったらやめられないというのもなんかわかるなあ。日本の古き良き商売人たちは、ありがちな「ムラ社会」的なれ合いとは無縁、キップが良くて気持ち良くて、めちゃめちゃカッコいいのです。

この映画を見て強く感じることは、豊洲に移転しても市場は大丈夫だなってこと。報道は「豊洲移転で、市場は変わってしまう」という空気ばかりまき散らしていて、確かに今まで通りいかない、変わらざるを得ない部分もあるのでしょうが、市場を動かしているこういう頑固職人たちの芯の部分が変わるわけがありません。

市場を本当に必要とする料理人は豊洲にも絶対に足を運ぶだろうし、豊洲で新たな場外が形成されてゆくのも、それはそれで面白いこと。もちろん築地へのノスタルジーはありますが、それはそれ。

ただ行政はオリンピックばかりを優先するけれど、ぶっちゃけ1回きり2週間で終わるオリンピックより、日本の魚食文化を支え、ずーっとあり続ける市場のほうがぜんぜん大事。訪日外国人への「おもてなし」ばっかり言ってないで、市場で働く人たちが気持ちよく不便なく使えるよう、仲卸の多くが廃業なんてことにはならないよう、努力を続けてほしいなと思います。

ということで、まずは映画の後の寿司屋を予約して、どうぞ楽しんできてくださいね~。

画像

『築地ワンダーランド』

2016年10月1日(土)築地<東劇>先行公開/10月15日(土)全国ロードショー

(C)2016 松竹

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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