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阪神タイガースのドラフト1位ルーキー・横山雄哉投手のプロ初登板は、甲子園球場でのジャイアンツ戦

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター

■待ちに待ったプロ初登板は、甲子園球場での「伝統の一戦」

「疲れたぁ〜」。ベンチ裏の出口に現れた横山雄哉投手は、笑顔を見せて大きく息を吐いた。

プロ初登板初先発で7回を6被安打5奪三振、1失点という結果だったが、残念ながら援護がなく初白星を手にすることはできなかった。

けれどその内容は素晴らしく、和田監督も「初登板とは思えないほど初回から思いっきり腕を振って、まっすぐも走っていたし、変化球もカウント取れたし申し分ないですね。良ければこれぐらい出来ると思っていたけど、初登板の初回から出せたのはマウンド度胸もある。1点目は仕方ないにしても2点目を取られなかったのが大きかった」と賛辞を贈った。まさに勝ちに等しいピッチングだった。

左胸鎖関節の炎症で出遅れ、開幕はファームで迎えたが、「焦りがないってことはないけど、だから何かを変えるわけじゃないし…上がれる準備はいつでもやっておきたいので、やっぱり焦りはないですね」と、しっかり自分を持って調整を進めてきた。だから、やっとデビューの時が到来しても「そんな長くは感じなかった。あっという間でした」と、淡々と話した。

期待の左腕に用意された初登板の舞台は、甲子園球場での「伝統の一戦」だった。4月25日のファーム交流戦では、ジャイアンツ相手に3回と1/3を投げて7安打9失点(自責は8)、本塁打を3本許し、負け投手になっていた。初勝利を挙げたいのはもちろん、リベンジしたい相手でもあった。

プレイボール直後から最速149キロのまっすぐでグイグイ押し込み、時折交えるカーブで緩急をつけた。ファームで特大弾を浴びた大田泰示選手にはヒット1本を許したが、3打席は完璧に抑え込んだ。圧巻は五回の二死二、三塁の場面だった。インサイド膝元の146キロで空振り三振を奪った。この二人の対決、「平成の名勝負」として今後、野球ファンを楽しませてくれるに違いない。

試合後に何度も口にしたのが、「しっかり腕を振ること」という言葉。「かわすことはしたくなかった。どんどん腕を振って勝負したかった。気持ちの乗ったボールが投げられた」と言い、受けた鶴岡一成捕手も「(自分がしたのは)思いきり腕を振らせることだけ。1球も抜くなとは言った。なんでプロに入ってきたかと言えば、まっすぐだから」と話した。大舞台で臆することなく腕を振れる強心臓もまた、横山投手の魅力である。

■地元からの応援団。そして地元の公民館での“パブリック・ビューイング”

地元の山形からはご両親やおじいちゃん、おばあちゃんらの“御一行様”が約10人、そして小・中学校の同級生でありチームメイトでもあった友だちが5人、応援に駆け付けた。「初登板は必ず見に行く」と約束をしていたそうだ。

また、実家の近くの公民館にはご近所さんが30人ほど集まり、“パブリックビューイング”とばかりに大型テレビに向かって声援を送ってくれていたという。

ご自身も野球をされていたお父さんは「ずっとまっすぐにこだわってきた。スピンのかかったまっすぐをね」と、息子の一番の武器をプロの試合で見られたことが、本当に嬉しそうだった。「ドキドキします」と終始ニコニコされていた。

「小さい時から手足が大きかったので、ピッチャーにしたいなと思って」と、利き手を右に矯正することをしなかったそうだ。お父さんの願いどおり、素晴らしいサウスポーに成長した。

「子供の頃から『大観衆の中で投げたい』と言ってたんです」とおっしゃるお母さんの瞳は、うっすらと潤んでいた。

同級生の皆さんも「まっすぐに自信を持っているし、こだわりがある。大田さんへのまっすぐは、すごかった〜」と興奮気味で、中でもバッテリーを組んでいた女房役の友人は「もう少しバタバタするかと思ったけど、落ち着いていた」と感心しきりだった。自身がずっと受けてきたボールが、ジャイアンツ打線をきりきり舞いさせている。それを眩しそうに見つめていた。

そういえば同級生五人衆、試合前のファーストピッチセレモニーにタレントの小島瑠璃子さんが登場すると、一斉にスマートフォンを取り出し、動画撮影を始めていた。「こっちがメイン(笑)」と冗談を言いながら。どうやら“はじめての甲子園”を存分に楽しめたようだ。

そんな地元からの応援団に対して横山投手は「欲を言えば0で抑えられればよかったけど、はるばる来てくれて、結果どうこうより投げる姿を見せられてよかった」と感謝の気持ちを表した。

■順応性の高さと、オンオフの切り替え

山形出身だが、最近ではたまに「なんやったかなぁ〜」など会話に関西弁が混じる。「すぐ馴染んじゃうんですよね〜」と順応性の高さは自覚している。

体が硬いため、日に3度のストレッチは欠かさない。朝、練習後、夜のお風呂上がり。それぞれ30分ほどかけて体をほぐす。

部屋では、最近購入したソファーでくつろぐのが日課だ。「電動でリクライニングになるし、足の部分も出るんです」。お気に入りのソファーでDVD鑑賞をしたり、ゲームをしたり。「『ウィニングイレブン』は強いんですよ、寮の中でも」と胸を張る。

■真正面からぶち当たっていく!

初登板を終え、「自信もつきましたけど、課題も出た」と振り返る横山投手。自分のまっすぐが通用する手応えを得た。その一方で「左バッターに当てられるヒットが目立った」ということにも気づいた。「もっとインコースを使って踏み込まれないようにしないと」という鶴岡捕手のアドバイスも、次へのステップとして受け止めている。

「これから分析もされるだろうけど、勝負していきたい」。決して逃げない。これからも、どんな強打者にも真正面からぶち当たっていく。

フリーアナウンサー、フリーライター

CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

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