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福島の野生鳥獣問題に見る日本の縮図

dragonerWebライター(石動竜仁)
捕獲されたイノシシ(岐阜県にて撮影)

8月の盆、福島県田村市にある母方の実家に帰った。2011年3月の東京電力福島第一原発事故の際、田村市の東端にある旧都路村地区に避難指示が出たが、幸いな事に母方の実家周囲に原発事故による放射性降下物はほとんど無く、公表されている放射線量及び自家用放射線測定器による計測値共に、自分が居住している千葉県北部の値より低いものだった。

このため、原発事故による放射線についてはほとんど心配していないが、最近になって放射線とは別の問題が生じている。野生鳥獣による農作物の食害だ。

捕獲されたイノシシ(岐阜県にて撮影)
捕獲されたイノシシ(岐阜県にて撮影)

2年で倍以上に増えるイノシシ

昨年の秋、ツイッターで福島原発周辺のイノシシが大増殖して問題化するんじゃないか、という予想を呟いた。ツイートの内容や経緯については、ツイッターのまとめサービスであるtogetterの”福島のイノシシが(いろんな意味で)ヤバいかも - Togetter”を参照して欲しいが、ここでツイートのポイントをまとめると以下のようになる。

  1. 雑食性でなんでも食べるイノシシは、地表の放射性セシウムを蓄積しやすい。
  2. 放射性セシウムが蓄積したイノシシは食用出来ず、食肉目的の狩猟が行われない。
  3. 繁殖力が高いイノシシは狩猟しなければ、1年で生息数が倍になるため、イノシシによる農作物への害が増える。
  4. 更に、原発事故で無人となった区域で飼われていたブタとイノシシ交雑し、イノブタが生まれる事で、繁殖力はより高まる。

おおよそ以上の通りだが、最近になって、ほぼこの予想通りの状況が報道がされるようになった。

6月28日の朝日新聞「イノシシ激増 田畑を守れ」では、田村市での鳥獣被害が増加し、2011年度のイノシシ捕獲数が41頭であったのに対し、2012年度のイノシシ捕獲数197頭と前年の約5倍に増加していることが報じられ、9月8日の福島民友「農作物放射線量、塩害“消えぬ課題” 有害鳥獣、農地荒廃に拍車」でも、イノシシなどの有害鳥獣が人間の居住地近くにまで出没するようになり、農業生産への障害となる事が懸念されている。

原発事故によって無人となった地区は、野生鳥獣達のサンクチュアリと化してしまった。手入れがされなくなった田畑には草が生い茂り、イノシシにとって良質な食料となる。また、放置された家畜のブタがイノシシと交雑することで繁殖力の高いイノブタが生まれる。イノシシは通常、年に1回4〜5頭を産み、そのうちの半数が成獣となるが、ブタの血を引くイノブタは年に複数回の繁殖が可能で、一度に産む頭数も増える。増加したイノシシ達は、避難指示区域外へと出て農作物に被害を与える……。イノシシの生育に適した環境が出来た事、イノシシの繁殖力そのものが上がっている事、さらにはイノシシを食肉目的で狩るハンター達もいなくなった事で、事故からわずかの年月でイノシシ問題が顕在化することになった。

筆者が田村市の農林課に取材したところ、野生鳥獣の食害を防ぐために市内の田畑に総延長341kmの電柵を設置することを計画しており、今年度だけで130km設置する予定とのことだった。西日本ではイノシシの食害から田畑を守る電柵はよく見られるが、原発事故以前の田村市で電柵の設置は無かったという。また、従来は有害鳥獣による農作物被害は小さかったため、市から有害鳥獣の駆除報奨金を出す事はしていなかったが、原発事故以降は食害が増大したことにより、イノシシ1頭あたり2万円の報奨金を出すようになったという。ここで駆除されたイノシシは食用にできない為、全数が焼却処分されている。今年度は既に100頭以上のイノシシが処分されている。

田村市東端の旧都路村地区では、急ピッチで電柵の設置が進められていた
田村市東端の旧都路村地区では、急ピッチで電柵の設置が進められていた

田村市で起きている事は全国どこでも起こっている

ここで挙げた田村市の事例は、原発事故という特殊要因によって生まれた極端な例だが、同様の問題は全国で起きている。耕作放棄地には草が生え放題、飼育下から逃げだしたブタとイノシシの交雑など、規模こそ小さいものの、田村市と同じ現象は日本中どこでも起こりうるし、現に起きている。既に、西日本ではイノシシやシカ、カモシカ等の鳥獣による食害を防ぐべく、田畑の周囲に電柵を設置している自治体が多いが、電柵が有効に機能するためには周囲の草刈りなどの継続的な手入れが欠かせず、設置費用と相まって、農家の大きな負担となっている。

野生鳥獣問題の抜本的な解決策として、野生鳥獣の頭数を適性頭数まで減らし、人間の生活圏との軋轢を軽くする事が必要とされる。しかし、頭数調整の担い手であるハンターを示す狩猟免許所持者数は、昭和50年代初期の50万人以上をピークに減少を続け、平成22年には19万人とピーク時の3分の1近くにまで減少している。その上、ハンターの半数以上は60歳以上と高齢化が深刻で、このまま行くと近い将来にハンターのさらなる減少が見込まれる。

年齢別狩猟免許所持者の推移(環境省資料より)
年齢別狩猟免許所持者の推移(環境省資料より)

野生鳥獣の保護管理と狩猟を管轄する環境省では、若年ハンターを増やそうとあの手この手の努力をしているが、その成果は捗々しくない。今年、筆者も居住する千葉県で狩猟免許を取得したが、試験会場は控えめに見ても50代以上の受験生ばかりで、20代は数えるほどしかいなかった。中には80歳は超えているだろう受験生もおり、おぼつかない操作で模造銃を扱っているのを見た時は、今にも倒れないかと内心ヒヤヒヤしていた。試験に先立つ勉強会では、質疑応答で「私達は生活かかっているんですよ!」と思いをぶちまける参加者もおり、ハンターの高齢化は農業の高齢化問題と表裏一体であるとひしひしと感じた。

福島第一原発周囲で起きている事は、極端な形とは言え日本の縮図となっている。人が去り、荒廃した田畑に住み着く鳥獣によって、残った人の生活が脅かされるという構図は、福島と規模こそ違うが日本の至る所で起きている事だ。農業従事者の高齢化、地方の過疎などの問題も、野生鳥獣の問題と緊密にリンクしている。我々が自然、そして地方と、これからどう向き合っていくのか、その姿勢が問われている。

Webライター(石動竜仁)

dragoner、あるいは石動竜仁と名乗る。新旧の防衛・軍事ネタを中心に、ネットやサブカルチャーといった分野でも記事を執筆中。最近は自然問題にも興味を持ち、見習い猟師中。

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