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「世界水の日」に考える「日本で発生する水難民のリスク」

枝廣淳子幸せ経済社会研究所所長、大学院大学至善館教授

「世界水の日」とは?

今日3月22日は「世界水の日」。世界各地で、水をテーマとしたセミナーやイベントなどが開催されています。

この「世界水の日」が設けられたきっかけは、今から20年以上前の1992年6月にブラジルで開催された「地球サミット」でした。このサミットで、21世紀へ向けての行動計画「アジェンダ21」が採択されたとき、「世界水の日を制定するように」という勧告が出されました。それを受け、その年の12月に開催された国連総会本会議で、1993年から毎年3月22日を「世界水の日」とすることが決議されたのです。

日本では、毎年8月1日を「水の日」、この日からの1週間を「水の週間」としているので、年に2回水について考えるきっかけがあるとも言えます。

今日の「世界水の日」に考えたいこと

つい先日、3月17日に、地球温暖化が日本にどのような影響を与えるのかを環境省の研究プロジェクトがまとめた「地球温暖化 日本への影響」という報告書が出されました。

(報告書はこちら→http://www.nies.go.jp/whatsnew/2014/20140317/20140317-3.pdf

この研究プロジェクトは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の最新シナリオをもとにさまざまな影響を試算したもので、都道府県ごとに分野別の影響を初めて示した報告書となっています。

このまま温室効果ガスが増え続けると、2090年代には、1990年代に比べ、

  • 年平均気温は3.5~6.4度上昇(23道府県で5度以上上昇する可能性が高い)
  • 洪水被害額、最大で3倍以上の約6800億円に
  • 降雨量が9~16%増える
  • 海面は最大63センチ上昇
  • 砂浜は全国の85%が消失

など、ショッキングな「温暖化した日本」の姿を伝えています。

今回私が注目したのは、「温暖化→降水量の増加→河川水中の懸濁物(浮遊物)の増加→水道事業での対応力を上回る→水道供給の停止→高齢者を中心に水難民の発生?」という、水をめぐるリスクでした。

今回の研究によると、紀伊半島から四国において河川水中の懸濁物の量が大きく増加し,全国平均では現状比で約8%~24%増加するとのこと。報告書には、全国の水道事業体が豪雨による濁度上昇にどのくらい対応できるかという適応力も表示されています。東京,名古屋,大阪などの大都市圏では適応力が比較的高い一方、北海道,東北,中部,中国地方の内陸部には,適応力が低いと思われる水道事業体が散在していることがわかります。

報告書では「2010 年の高齢単身世帯比率」も図示しています。高齢単身世帯比率は、北海道,本州の内陸部,紀伊半島から,四国,九州の南部で高く、今後の日本の高齢化の進行に伴い、全国的にますます高齢単身世帯が増えていくと予想されます。報告書にはこのように述べられています。

温暖化は,降雨量の増大により河川流量を増加させる一方で,河川水の濁度の上昇やダム湖水の藻類濃度の上昇などの水質悪化もたらす。温暖化の影響を受けやすい地域では,浄水場の処理機能の強化や,配水池などの貯留施設を増設する必要がある。日本の水道施設は老朽化ととともに処理能力が低下しており,今後は,資金制約のなかで,水道施設の機能強化を図る必要がある。 一方,将来の人口減少と同時に進行する高齢化は,水害や濁度上昇などの利水障害により水道が停止した場合,給水地点まで自力で水を受け取りに行くことが困難な人口を増大させる。このため,給水困難な人口に対する支援策が必要である。

水資源は,自然生態系や,産業,都市生活を支えており,温暖化による水資源量や質の変化は,これらの分野に大きな影響を及ぼすことが懸念されている。温暖化による降水量の変化に対しては,これらの水利用分野が相互に協力して合理的な水利用を心がけるとともに,水源林の保護など,温暖化による水資源の変動を緩和するための能力の確保に努めることが重要である。

「世界水の日」。温暖化と水資源、そして高齢化社会、水道のような自治体の基礎サービスを提供する力、そもそも水を作り出す森林など自然の力を弱めずに保つこと--考えるべきことはさまざまにつながっていることがわかります。そして、対策もまた、さまざまな要素や要因が複雑につながり影響を与えあう構造をきちんと見据えて、時間軸を延ばして考えなくてはならないことがわかります。

幸せ経済社会研究所所長、大学院大学至善館教授

東京大学大学院教育心理学専攻修士課程修了。「つながり」と「対話」でしなやかに強く、幸せな未来の共創をめざす。『不都合な真実』(アル・ゴア著)の翻訳をはじめ、環境・エネルギーなどの講演や執筆、企業コンサルティング、異業種勉強会、社会的な合意形成のファシリテーション、地方創生と地元経済を創りなおすプロジェクト等に携わる。日本企業の環境・CSRに対する認識や取り組みがグローバル・スタンダードから取り残されつつあることに危機感を覚え、世界の先進企業の動向や国際的な枠組みの展開を国内に伝える活動にも注力している。掲載情報の社内共有を希望する方は、イーズ(info@es-inc.jp)までご連絡下さい。

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