グローバルな動きをおさえて一歩先へ:世界の先進企業の環境CSR動向レポート(2014年7月号)
近年、欧州はもちろん、米国や他の国々でもさまざまな先進的な環境CSRへの取り組みが行われ、日本企業の相対的な強みや優位性が減少しつつあります。同時に、日本企業があまり関わっていないところでさまざまなグローバルな枠組みづくりや連携が進んでいます。
環境やCSRへの取り組みは次の時代の競争力をめぐる動きでもありますから、このまま取り残されていると、国内市場が縮小する中、海外展開を求めようとする日本の企業の足をも引っ張りかねないと心配しています。
「グローバルな視野とレベルでの取り組みを進めるために、まずは、世界の企業の環境CSR先進動向を知ってもらいたい」との思いから、ここ2ヶ月ほどの間に出てきた世界の先進事例や動向を8本ピックアップし、日本向けの簡単な解説をつけました。
世界の最新動向を知っておくために、ぜひお読みください!
【2014年5・6月号 環境CSRの海外企業先進動向】
1.PwCの調査「大規模な機関投資家は、投資先のサステナビリティ関連の取り組みをどう見ているか」でわかった4つの重要なポイントとは?
2.ニューズウィーク誌「2014年のグリーン・ランキング」を発表。ランクインした日本企業は? そして世界で最もグリーンなIT企業は?
3.日本企業の取り組みは「環境」に偏っている! 人権問題への方針を持っていますか?
4.日本の企業も要チェック! ILO、「強制労働条約」を強化
5.スマホ出荷が10億台を突破。世界に広がるe-wasteへの取り組み
6.アメフト「サンフランシスコ・フォーティナイナーズ」の新拠点、「リーバイス・スタジアム」で使う水の85%は……?
7.「マイクロビーズ」禁止令、出される。マイクロビーズって何だ?
8.未来の「エコカー」は、トマトから生まれる?
1.PwCの調査「大規模な機関投資家は、投資先のサステナビリティ関連の取り組みをどう見ているか」でわかった4つの重要なポイントとは?
ここ数年の大きな動向の1つは、「環境問題が、関心ある市民やNGOだけのものではなく、投資家もそれによってお金を動かすようになってきた」ということです。
PwC投資家リソース研究所が5月22日に発表した新しい調査によると、機関投資家は、気候変動、資源枯渇、社会的責任、良きシティズンシップといったサステナビリティに関する問題を、ガバナンス・ポリシー、ポートフォリオの意思決定過程、投資配分において、より一層考慮するようになってきています。
この調査は、サステナビリティが大規模機関投資会社に与える影響を評価する目的で行われ、約765兆円以上の資金を運用する投資顧問、年金基金、投資信託など幅広い分野の機関投資家が回答しています。
この調査によって、サステナビリティを考慮している機関投資家のタイプや規模、手法が明らかになりました。PwCのリリースで紹介されている重要ポイントは以下の4点です。
1)投資家の80%が、サステナビリティは現代の重要な問題だと考えている
2)投資家の85%が、今後3年間も、投資の意思決定に際してサステナビリティを考慮するだろうと予測している
3)サステナビリティを重要課題だと認識する投資家のほとんどが、投資先企業との直接的なコミュニケーションが重要だと認識している
4)投資家の73%が、サステナビリティを考慮する最大の理由は「リスクの軽減」と回答している
機関投資家にとって、企業のサステナビリティ関連の課題への取り組みがリスク評価や価値の源泉になりつつあるということですね。
なお、機関投資家たちは、企業が出すサステナビリティ・レポートや関連情報には「透明性のレベルなど質・量ともに満足していない」と回答しています。適切で十分な情報開示も企業にとって重要な鍵を握っているようです。
▼PwC
2.ニューズウィーク誌「2014年のグリーン・ランキング」を発表。ランクインした日本企業は? そして世界で最もグリーンなIT企業は?
日本にも「環境やCSRの企業ランキング」がありますが、世界ではどうでしょうか? 6月はじめに、ニューズウィーク誌が2014年の「グリーン・ランキング」を発表しました。
これは世界の大手500社の業績を、「温室効果ガス・水・廃棄物の“生産性”」「第三者による環境審議委員会の有無」「環境目標の達成と上級役員の報酬の関連付け」などの項目で評価するものです。取りまとめには、独立系調査・メディア会社であるコーポレートナイツ社、複数のNGOや学術・会計団体の持続可能性の専門家などが関わっています。
「世界トップ10」企業は以下の通りです。
1.Vivendi
2.Allergan
3.Adobe Systems
4.Kering
5.NTT Docomo
6.Ecolab
7.Atlas Copco
8.Biogen Idec
9.Compass Group
10.Schneider Electric
日本の企業では、NTTドコモが5位に入ったほか、三菱地所が24位、三井不動産が25位にランクイン。日本人にも馴染みのある海外企業では、Adobe社が全世界で3位、米国では第2位となり、IT業界では世界トップに輝きました。
Adobe社の取り組みを見ると、作業空間の70%がLEED(エネルギーと環境デザイン・米国グリーン建築基準)認証を取得し、2000年以降、作業空間での水消費量を62%削減。2013年には、サンノゼ本社のエネルギー消費の27%は、施設内で作られた再生可能エネルギーによる電力で賄っており、廃棄物はすべて再利用しています。2002年以降、会社全体で電力消費量を半減しています。Adobe社の企業責任担当の取締役は「このランキングは、環境に与える影響の制御と事業の透明性に、Adobe社が真剣に取り組んでいることがはっきりと認められたものだ」と述べています。
3.日本企業の取り組みは「環境」に偏っている! 人権問題への方針を持っていますか?
海外の専門家に、「日本企業はCSR=環境だと思っているところが多いようだね」と言われることがあります。
日本では、環境への取り組みに重点を置く企業がほとんどである一方、世界では、人権問題への取り組みにも力を入れ、評価の対象となってきています(そういう背景があれば、都議会でのあのようなヤジが放っておかれるわけはありません……)。
「人権侵害」と言われても、自分や自社にはあまり関係がないと感じる人が多いかもしれませんが、ビジネスにも深く関わっていることをぜひ理解してほしいと思います。
アメリカ法曹協会(ABA)は6月2日、フォーチュン100企業が人権侵害に関わっている可能性を調査した報告書を発表しました。
この調査はアリゾナ州立大学の研究機関と共同で行ったもので、「人身売買」「強制労働」「紛争鉱物」といった、グローバル経済に関連する重要な3つの人権問題に対して、大手企業が公的に入手可能な方針を持っているどうかを分析したものです。具体的には、特にグローバルなサプライチェーンとの関連で大手企業がどう対処しているかを、企業のウェブサイトやインターネット上の調査から情報を集めて考察しています。
その結果、フォーチュン100企業のうち人身売買に関して公的な方針を持っている企業は54%、強制労働に関しては66%でした。100企業のうち、保険業や銀行業、金融サービス業のようにグローバルサプライチェーンとの関わりが限られている企業を除く79社を見ると、この割合はそれぞれ66%と76%に上ります。
「紛争鉱物」とは、紛争地域で産出される鉱物で、その購入が現地の武装勢力の資金調達につながり、結果として当該地域の紛争に加担することが懸念される鉱物のこと。特に、コンゴや周辺国で採掘されるスズ、タンタル、タングステン、金の4種の鉱物を指します。紛争鉱物に関する公的な方針を持っている企業の割合は、上記79社中43%でした。
ビジネスにおける強制労働や人身売買は、世界中で何百万人もの人々に深刻な被害を与えている一方、それを行う企業には莫大な利益をもたらしています。グローバル経済が拡大し、世界規模のサプライチェーンが複雑で多層になると、大手企業がこうした人権侵害に加担する可能性が高まります。
日本でも一部の企業では「紛争鉱物」などへの取り組みを始めているところもありますが、社会的責任を果たす上で人権問題への取り組みが欠かせないという、いまやグローバルスタンダートである認識に対して、日本企業の認識や取り組みはかなり遅れているといわざるをえません。
2010年に国際標準化機構(ISO)が発行した「ISO26000(社会的責任に関する手引)」でも、すべての組織で基本とすべき重要な視点である「社会的責任」に関する7つの原則の1つに、「人権の尊重」が挙げられています。グローバル化する経済の中で、人権問題にどのように取り組み、自社のリスクを低減しておくべきか、各社が考えていく必要があります。
4.日本の企業も要チェック! ILO、「強制労働条約」を強化
こちらも、人権問題に関わる動向です。
2014年6月11日、国際労働機関(ILO)は「1930年の強制労働条約(第29号)の2014年議定書」を圧倒的多数で採択しました。この議定書の目的は、日本を含む177カ国が強制労働条約を批准しているものの、内容が時代に合わなくなっていたため、移住労働者に対する人権侵害と民間部門における強制労働を含め、現状に即した対策を強化することです。
世界で2,100万人もの人たちが強制労働の被害にあっていると推計されますが、その中には、農業・家事労働・製造業・性産業などで、人身売買されたり奴隷同然の状態に置かれたりしている人もいます。被害者の多くは、危険な状況下で低賃金または無給の長時間労働を強いられ、心理的、肉体的、性的な暴力にあっていても、監禁されたり、借金のカタに拘束されたり、報復への恐怖などから逃げ出すことができないのです。
日本では「強制労働」といっても、あまりピンとこない人も多いかもしれませんが、最近メディアを賑わしている、いわゆる「ブラック企業」はどうでしょうか。監禁とまではいかないとしても、若者を大量に採用しながら、非常に過重かつ違法すれすれの労働条件を課して使いつぶし、次々と離職に追い込んでは、また新たな人材を採用することで営利を追求する企業が少なくないようです。つまり、ILOが目的とする労働条件と生活水準の改善は、日本企業にとっても他人事ではないのです。
強制労働の90%は民間部門で起こっていると見られ、賃金不払いなどを通じて企業が違法に得ている利益は年間1,500億ドル(約15兆円)に上るとILOでは推定しています。
今回の新たな議定書では、各国が行動計画を策定し、強制労働の恐れがある部門への労働法の適用拡大や労働基準監督の強化、移住労働者を搾取的な労働から保護することなどの防止策をとることが盛り込まれています。
さらに、この条約の実効性を高めるために同時に採択された勧告には、信頼できる情報の収集、児童労働対策、基本的な社会保障の保証、労働者からの斡旋費用徴収の禁止、強制労働対策に向けた外交官の国際的連携などが盛り込まれました。
なお、ILO常任理事国でもある日本は、この強制労働条約には批准していますが、1号条約(一日8時間・週48時間制)、47号(週40時間制)、132号(年次有給休暇)、140号(有給教育休暇)など、労働者保護に関わる重要な条約には批准していません。「グローバル人材」の育成が盛んに言われていますが、労働条件の面でもグローバルな視点が抜け落ちていないか見直す必要がありそうです。
▼ILO
5.スマホ出荷が10億台を突破。世界に広がるe-wasteへの取り組み
「e-waste」ってお聞きになったこと、ありますか?
デジタル社会の到来は、私たちの生活を便利にし、世界中の国々に大きな利益をもたらしていますが、それと同時に、新たな社会問題や環境問題も数多く生み出してきました。情報格差や重要な情報の安全性に対する脅威、さらに急速に増える電気・電子機器廃棄物(e-waste)も文字通り「山積み」になっています。
たとえば、いまや私たちの生活に欠かせないケータイやスマホ。みなさんはどれぐらいのサイクルで買い替えていますか。内閣府の消費動向調査によれば、平均的な買い替え年数は3年半。身近な電気・電子機器の中でも、ずいぶん頻度が高いのではないでしょうか。そして、買い換えたあとのケータイやスマホは、どうなっているのでしょうか?
世界全体で見ると、スマホの出荷台数が2013年に初めて10億台を突破しました。大人気のタブレット型端末の出荷台数は、前年から68%増加して1億9,560万台に達しています。これに伴い、電子廃棄物も急増し、廃棄物問題の中でも最も拡大している領域です。
世界的に「中産階級」による消費が増えるつれ、こうした廃棄物も増加の一途をたどっています。中産階級の増加というと、中国とインドという2つの人口大国について語られることも多いのですが、電子廃棄物の増加は、文字通り世界中の問題です。
世界銀行によると、中南米地域では中産階級とされる人口の割合が、過去10年間で1.5倍に増えました。今や人口の32%を占める中南米の中産階級は、貧困層よりも多いのです。発展途上地域で中産階級の消費者が台頭しているため、経済だけでなく社会・環境面での持続可能性が損なわれるリスクが表面化しています。
捨てられた電気・電子機器には、有毒な金属やプラスチックが詰まっていることがあるため、私たち人間の健康や安全面だけでなく、環境に対しても大きな脅威となっています。逆に、こうした機器が廃棄されるときは、貴重な金属やプラスチックなどの資源を回収するチャンスでもあります。
そのため国連大学サステイナビリティ高等研究所が、電子廃棄物問題を解決するイニシアチブ(StEP: Solving the E-waste Problem)を立ち上げました。これは世界規模の共同イニシアチブで、問題に対する認識を高め、政府や企業、地域社会、消費者が制度的な枠組みを作り、電子廃棄物に含まれる価値ある膨大な資源を回収・再利用できるように支援することが目的です。
StEPには、国連環境計画(UNEP)、国連貿易開発会議(UNCTAD)、米国環境保護庁、デル、エリクソン、ノキア、マサチューセッツ工科大学(MIT)など、世界各国の企業、国際機関、政府、NGO、学術機関をはじめとする65の組織が参画しています。
StEPとマサチューセッツ工科大学の研究者が2013年12月に行った研究では、世界中の冷蔵庫やテレビ、携帯電話、コンピュータなどの電子廃棄物の量は、向こう5年間で3倍に増えると予想されています。その重さは、なんとエンパイアステートビル200棟分にも相当するとのこと。
e-waste への取り組みは、日本ではまだあまり聞かないのです、このほかにも世界のあちこちで始まりつつあります。ITの恩恵を享受しつつ、e-waste の問題をスマートに解決していくこと。IT企業はもちろんですが、他の企業や私たち一人一人にとっても、しっかり考えなければならない問題です。
▼Triple Pundit StEP Initiative is Turning e-Waste Into an e-Resource
6.アメフト「サンフランシスコ・フォーティナイナーズ」の新拠点、「リーバイス・スタジアム」で使う水の85%は・・・?
21世紀の持続可能性にとっての大きな課題は、温暖化と並んで「水問題」です。近年、水問題への取り組みがあちこちで進められています。
アメリカンフットボールのチーム「サンフランシスコ・フォーティナイナーズ(San Francisco 49ers)」の新たな拠点となる、「リーバイス・スタジアム」がサンタクララ市に建設されています。
同スタジアムは、市の再利用水システムとつながり、スタジアムで使用される水のうち、85%は再利用水で賄われる予定。カリフォルニア州で初めて「干ばつに強い水源」を利用するスタジアムとなります。「天然資源を保全することが環境配慮型スタジアムの新たな基準となるだろう」と述べています。
再利用水は主に、グラウンドの灌漑、約2,500平方メートル(オリンピックの競泳用プール2つ分)のグリーンルーフ(緑化された屋上)、水洗トイレ、冷却塔への補給で使われます。水洗トイレは、再利用水を使うために二重配管となっています。米国には再利用水のために二重配管となっているスタジアムはほかにもありますが、リーバイス・スタジアムのように何通りにも水を活用する例はないそうです。
環境に配慮した建物に与えられる認証制度である、米国グリーンビルディング協会のLEED(エネルギーと環境デザイン・米国グリーン建築基準)の「ゴールド認証」に申請するためにも、リーバイス・スタジアムにとっては、この再利用水システムが重要な要素となります。ほかにも環境配慮のため、エネルギー効率の良いシステムや太陽光発電を導入し、リサイクル建材も利用されています。
サンフランシスコ・フォーティナイナーズ副社長でありスタジアム運営担当のジム・マーキュリオ氏は、「カリフォルニア州がこれまでにない干ばつに見舞われている今こそ、いつでもどこでも可能な限り再利用水を使うことのメリットを示す好機です。スタジアムを訪れるファンは、ベイエリア(サンフランシスコ湾岸地域)の水供給を持続可能にするために、再利用水の仕組みを取り入れることが重要かつ実効性があると、これまで以上に認識するようになるでしょう」と語っています。
ベイエリアには、リーバイス・スタジアムのほかにも、持続可能性を目指すスポーツ施設があります。サンフランシスコ・ジャイアンツは2013年、AT & Tパークに約280平方メートルのエディブルガーデン(食べられる庭)をつくる計画を発表しました。現在は交換用の芝生を育てているバックスクリーン裏のスペースが、イチゴやハーブ、トマト、レモンなどを栽培する本物の農場となる予定です。
7.「マイクロビーズ」禁止令、出される。マイクロビーズって何だ?
2014年6月上旬、米国初のマイクロビーズに対する禁止令がイリノイ州で制定されました。
「マイクロビーズ」とは何でしょう? ほとんどの人は聞いたことがないのではないかと思いますが、いま世界では、「マイクロビーズ」への関心や禁止の動きも広がりつつあります。ぜひ知っておいていただきたい新たな環境問題です。
マイクロビーズとは、美容製品や化粧品に含まれるプラスチックの小さな粒子で、古い皮膚や汚れを落とすピーリング効果のため、スクラブ洗顔料などに入っていることが多い物質です。
美容に効果ありとされるマイクロビーズですが、実は環境には悪影響があると懸念されています。マイクロビーズは、洗顔などのあと、家庭からの排水に含まれて河川や湖沼に流出した後、何百年もそこに留まり、環境を汚染する危険性があるのです。水の表面に有毒な化学物質が蓄積するため、生息する野性生物を脅かし、何らかの形で人間がその水を利用すれば、人間の健康にも被害をもたらすことも考えられます。
イリノイ州では、マイクロビーズを含む製品の製造と販売を禁止したことにより、メーカーは2018年末までに合成マイクロビーズを製造過程から取り除かなければなりません。2019年にはマイクロビーズを使った製品の販売も違法となります。
まだ制定には至っていないものの、カリフォルニア州でも州議会で禁止令が可決されており、ニューヨークでも、マイクロビーズの禁止を求める法案が出されているそうです。
企業側では、ロレアル、ザ・ボディショップ、コルゲート・パルモリーブ、ユニリーバ・ジョンソン・エンド・ジョンソン、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)など、マイクロビーズの使用を段階的に廃止することに賛成する企業も出てきています。
このように、米国では行政・産業界ともに、マイクロビーズへの対策を講じ始めていますが、日本では、まだほとんど問題の認識も取り組みもない状況ではないでしょうか。メーカーも消費者も、きれいになるための化粧品が地球環境を傷つけることがないよう、意識と取り組みを始める必要があります。
▼Illinois Environmental Council
8.未来の「エコカー」は、トマトから生まれる?
最後に、「へぇ!」といいたくなるような面白い、わくわくする動きをお伝えしましょう。
米国のフォード・モーター社は以前から、自動車部品の素材として石油系プラスチックに代わるバイオプラスチックを追求してきました。
2年ほど前には、100%バイオマス原料のプラスチック開発を目指し、ハインツ、ナイキ、コカ・コーラ、P&Gなどの企業や世界自然保護基金(WWF)と手を組んで「バイオプラスチック原料連合(Bioplastic Feedstock Alliance)」を結成しています。燃費向上のために車体の軽量化が進む中、フォードは軽量かつ強度も十分な素材を開発すると同時に、全体的な環境負荷を減らすことを目指しているのです。
現在、フォードが自動車部品用のバイオプラスチックを共同で開発中の相手はどこだと思いますか?
加工食品メーカー大手のハインツです。自動車部品用のバイオプラスチックの減量として使われるのは、なんとトマトの繊維なのです! フォードでは、この素材を配線用のブラケットや小物用の収納箱に利用できるのではないかと、耐久性を試験しているそう。
ハインツにとっては、ケチャップの製造に際して出る年間200万トンにもなるトマトの皮・茎・種の革新的な再利用方法を探し求めていたため、フォードとのコラボレーションは理想的と言えます。研究はまだ初期段階で、解決すべき問題が数多く残っているそうですが、実用化が楽しみですね!
もちろん、バイオプラスチックも万能ではなく、石油系プラスチックと同じような問題を抱えています。生分解性ではなく、ゴミが出ることには変わりありませんし、化学物質が土壌や水中に浸みだす危険性もあります。それでもバイオプラスチックに切り替えれば、CO2排出量を削減でき、化石燃料に対する需要そのものが減るなど、環境に対する影響を大幅に軽減できます。
フォードでは、これまでもバイオマス材料の活用を進めています。現在はココナッツを原料とする複合材、リサイクルコットンを使用したカーペットやシート用の布地、大豆を原料とする発泡材を使ったシートクッションやヘッドレストなど、8種類のバイオマス材料を使用しているそうです。
未来のエコカーは、ベジタブル&フルーツ製になるかも???
5・6月号の【環境CSRの海外企業先進動向】はいかがでしたか? 企業の競争力にとって重要な土俵の1つでの先進的な動向やグローバルな枠組みなど、これからもお届けできたらと思います。どうぞお楽しみに!