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「だれもが働きやすい社会」に今!必要なこととは

枝廣淳子幸せ経済社会研究所所長、大学院大学至善館教授
(写真:アフロ)

厚生労働省が、来年度から全国5カ所の病院に癌患者らのために無線LANや、FAX、プリンターなどを設置したサテライトオフィスを新設するとの方針を固めたという報道がありました。

同省によると、働きながら通院する癌患者も約32万5千人いるそうです。

日本では2人に1人が癌になると言われる一方、生存率も高くなってきていて、「折り合いをつけながら共存していく病気」になりつつあります。通院や検査があっても働き続けられることは、本人がそう希望するのであれば本人にとっても、また家族にとっても、社会にとっても、望ましいことですよね。

もっとも、厚生労働省のこの動きは「癌患者のQoLや幸福度を高める」という目的というよりも、「労働力確保!」のための一連の取り組みのひとつだと思われます。労働力が足りない!といわれるようになるまでは、このように政府が旗振りをすることはなかったことですから。

女性の活躍推進にしても、高齢者が働き続けられるようにするための施策にしても、介護退職を防ぐための施策にしても、もし「労働力を減らさないために」という目的で進められているとしたら、「労働力不足が解消したらどうなるのだろう?」と思いませんか?

政府や産業界は現在と同じ熱心さで、「だれもが働きやすい環境づくり」に力を入れ続けてくれるのでしょうか?

歴史的な時間軸で言えば、現在の「労働力不足」は短期的な状況ではないかと思います。人手や人の頭脳に代わって仕事をするロボット、AI(人工知能)の活用はどんどん広がっており、外国人労働者を増やす動きも推進されています。

だとしたら、現在の「労働力不足」の状況とそれへの対応を最大限に活用し、労働力不足が解消されたあとも「だれもが働きやすい社会」が退歩していかないように、施策には後戻りできないよう歯止めを設けておくこと。

そして、「労働力が足りないから」ではなく、「働き続けたいだれもが働き続けることができる社会は、めざすべき幸せな社会」なのですから、働きにくさをただす政策や施策が必要なのです。

そのためにも、私たちは常に「その政策の目的はなんだろう?」と考え、問い、議論していくことが必要です。

チャンスの花が閉じてしまうまえに。

幸せ経済社会研究所所長、大学院大学至善館教授

東京大学大学院教育心理学専攻修士課程修了。「つながり」と「対話」でしなやかに強く、幸せな未来の共創をめざす。『不都合な真実』(アル・ゴア著)の翻訳をはじめ、環境・エネルギーなどの講演や執筆、企業コンサルティング、異業種勉強会、社会的な合意形成のファシリテーション、地方創生と地元経済を創りなおすプロジェクト等に携わる。日本企業の環境・CSRに対する認識や取り組みがグローバル・スタンダードから取り残されつつあることに危機感を覚え、世界の先進企業の動向や国際的な枠組みの展開を国内に伝える活動にも注力している。掲載情報の社内共有を希望する方は、イーズ(info@es-inc.jp)までご連絡下さい。

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