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嗚呼、不毛!川口氏の解任劇にしらける

江川紹子ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

参院環境委員会の川口順子委員長(自民)が国会の承認が無いまま海外出張を延期したとして、野党7党が提出した川口氏の解任決議案が参院本会議で可決された、というニュースを、しらけた気分で読んだ。

今年3月、国際連帯税創設を求める議員連盟で挨拶する川口順子氏(同氏のHPより)
今年3月、国際連帯税創設を求める議員連盟で挨拶する川口順子氏(同氏のHPより)

委員長解任で得られるものは何か

川口氏は、4月23、24の両日としていた中国訪問を、国会の承認を得ないまま1日延長。その理由を川口氏は、24日午後に「外交関係シンクタンク幹部」らとの会議が入り、25日午前中に前外相の楊潔チ国務委員と会談できることになったため、としている。出張の延長を願い出たが、参院議院運営委員会の了解を得られないまま、北京滞在を延長。同日に予定されていた環境委員会での法案の趣旨説明が中止となった。

無断で出張を延長し、委員会をすっぽかしたなら解任は当然だろうが、そういうわけでもない。野党は当初は強い姿勢で臨んでいても、それなりの落としどころに落ち着くのかと思っていたら、最後までクビを要求して突っ走った。与党の役職者を引きずり降ろすことを、野党の成果のようにとらえる永田町の風習は、政権交代を重ねても変わらないらしい。

この間、国会運営は与党ペースに進んでいて、野党は足並みをそろえて対抗することもできないでいた。今回の川口氏の問題は、久々に野党が反撃したということになるのかもしれないが、それで得られたものは、いったい何なのだろう。

虚しく響く「国益」連呼

川口氏は、了解なしの出張延長を強行したのは、「現在対話がほぼ途絶えている状態の中国側に対し、我が国の考え方を伝えるとともに理解を慫慂することも国益上必須と考えました」と説明した(川口氏の事情説明はこちら)。その川口氏を、自民党は「国益」を掲げて全面的に擁護。石破茂幹事長は「観光旅行に行ったわけではない。国益を考えた判断だ」と述べ、高村正彦副総裁は「日本の国益を守った川口さん」と持ち上げた。野党側に反発して、参院予算委員会に与党側が審議を拒否し、野党議員と閣僚のみが出席する異例の事態にもなった。

また高村氏は、環境委員会は委員長代理を立てれば開くことができたなどと説明し、川口氏が出席できなかったことで失われた国益は「ゼロに近い」と野党を批判した。(高村氏の発言はこちら

高村氏の説明には一理あると思いつつ、自民党が党を挙げて「国益」を強調すればするほど、興ざめしてくる。10年前、小泉内閣時代に外務大臣を務めた川口氏に、日本の立場を中国政府に伝えるという役割、すなわち「国益」を託さざるをえないほど、今の自民党には中国側とのパイプがないことを自白しているに等しいからだ。

もっとも、そのきっかけを作ったのは、都知事時代の石原慎太郎・日本維新の会共同代表であり、中国の対応を見誤った民主党政権でもあるので、今の冷ややかな日中関係は自民党だけの責任ではない。

公明党の山口那津男代表や福田康夫元首相が訪中して習近平総書記と会談した時には、民主党政権とは違う層の厚さを見たように思い、一瞬の期待もしたが、今回の状況を見ると、そうでもないらしい。

真の「国益」とは

そういう経緯もあり、この問題については、足を引っ張り合うことはやめて、与野党を問わず知恵を出し合い、それぞれの人脈を生かして、少なくとも領土問題が両国間の他の課題に影響を及ぼさないよう、努力して欲しい。それこそが、真に「国益」に叶うことではないのか。今回の問題も、自民党側が丁重に謝罪し、野党側は厳重抗議して矛を収める、という対応ができなかったのだろうか、と思う。

中国は、日本にとっては最大の輸出先であり輸入国だ。中国にとっても日本はアメリカ、香港に次ぐ輸出先であり、最大の輸入元だ。領土問題を抱えているからといって、関係を断てるような相手ではない。また、両国間には環境問題を始め様々な懸案事項を抱えている。中国の強気の対応ぶりには問題を感じるが、日本はそれを前提に日本の主張を少しでも実現していくように努めていかなければならない。なのに最近は、事態が改善するどころか、さらに悪化しているようだ。

日本政府として認めてきた過去の「侵略」を否定するかのような安倍首相の発言、さらには麻生副総理らの靖国神社参拝、中韓の反発に対して「わが閣僚はどんな脅かしにも屈しない」とした安倍発言…。「アベノミクス」への期待と高い支持率に気をよくしてか、安倍首相の言動はこのところますます強気だ。そんな安倍首相に対し、トム・シーファー前米大使が日米関係に関するシンポジウムで懸念を示し、いわゆる「河野談話」を見直すようなことになれば、米国とアジアにおける日本の国益を大きく損なう、と語った。欧米の有力紙も、「国粋主義的な傾向」(英フィナンシャルタイムズ)、「歴史を直視していない」(米ワシントンポスト)などと、安倍首相に批判的な論調が相次いで掲載されている。韓国や中国から反発されるだけでなく、欧米からも懸念を抱かれている状況は、果たして「国益」にかなうものだろうか。

今回の川口氏を巡る与野党の対決は、勝者は誰もいない。依然として大きな課題より目先の政局に目が向ける日本の政治と、日中の関係改善が遠のいている現実ばかりを見せつけられた、本当に不毛な戦いだった。

せめて、これをきっかけに、今の内外の状況を見つつ、真の「国益」とは何なのかを、冷静に考えたい。

ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。2020年4月から神奈川大学国際日本学部の特任教授を務め、カルト問題やメディア論を教えています。

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