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数字から東京都議選の結果を考える

江川紹子ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

選挙は、獲得議席数がすべて。その結果を見れば、今回の東京都議選は自公圧勝、民主大敗、共産復活、みんな健闘、維新沈没ということになる。ただ、数字をあれこれ比べていると、必ずしもそれだけでくくれない傾向も見えてくる。

公明党は「圧勝」なのか

ここ20年の都議選の投票率や主な政党の得票数、得票率、獲得議席を一覧にしてみた。(以下、今回の都議選の結果の数字は、すべて6月24日付東京新聞による)

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自民党の得票率は、小泉人気で湧いた2001年をわずかながら上回っている。少なくとも東京では、安倍政権強し、を印象づけた。だが、公明党はどうだろうか。前回よりは得票率は上がっているものの、14.10%という数字は、今回と同じように低投票率だった2005年(18.00%)、1997年(18.74%)に比べてかなり見劣りがする。得票数も、70万票を大きく割り込んだ。国政選挙でも公明党の獲得票は減少傾向にある。人口減の日本にあっても今なお人口が増えているはずの東京でも、支持基盤の創価学会が退潮傾向にある、ということなのかもしれない。参院選挙でもこの傾向が続くと、自民党が圧勝した場合、憲法改正などで安倍政権のタカ派色を和らげる役割をこの党がどれほど果たせるのだろうか、という疑問も湧いてくる。

民主党の負けっぷりは目を覆わんばかり。獲得議席15とは、共産党より少なく、2001年に獲得した22議席より少ない。それでも、得票率は共産党よりは高く、01年の時よりも得票数は多い…というのは、何のなぐさめにもなりそうにない。おまけに、海江田代表は「安愚楽牧場事件」でも、同牧場の資産運用法「和牛オーナー制度」を評価していたなどと批判されている。同氏の地元では、新宿区と港区で現職都議が落選し、千代田区では候補者も立てられなかった。菅元首相の地元でも、武蔵野、小金井両市で現職が落選。こうした「顔」で参院選を戦っても、苦戦は必至だろう。

「反自民」受け皿としての共産とみんなの存在感は

共産党は、オール与党化した都議会の中で、唯一の野党を標榜し、今回は「自民vs共産」の構図を打ち出して、反自民の受け皿となった、と評価されている。確かに前回の都議会選挙に比べて議席は倍増。市田書記局長は「これまでのどの選挙と比べても、街頭演説で耳を傾けてくれる人が多かった」と手応えを語った。しかし、獲得票数や得票率をみると、同じく低投票率だった2005年や1997年に比べて、明らかに減っている。議席増=支持者増とは限らない。これでは党勢の回復とは言えないのではないか。憲法や原発を巡る重要な課題で民主党の態度が今ひとつはっきりしないのに比べ、鮮明な主張で存在感を高めている共産党。その存在感が、参院選では票の獲得につながるのか、注目したい。

また、7議席を獲得し、「ぶれない姿勢が評価された」と渡辺代表が胸をはったみんなの党。維新の会が2議席と惨敗したのと対照的な結果となった。獲得した票の総数は、凋落傾向の維新の方が6万票余り多いが、これは維新が34人もの候補者数を乱立させたためだろう。ただ、立候補を全選挙区の半分以下に絞ったみんなが、「反自民」のもう一つの受け皿となった、とまで言い切れるのだろうか。ちなみに、みんなと維新を合わせた得票数は685,387票で、民主党に5000票ほどの差で迫っている。橋下氏の慰安婦を巡る発言や石原氏の「謝れ」発言などのゴタゴタがなく、両党が選挙協力をしていれば、今回の選挙結果はかなり違ったものになったに違いない。少なくとも当面、みんなが維新と復縁することはないだろう。参院選挙で、地方での組織力に欠けるみんなが単独で、「反自民」の受け皿としてどれほどの存在感を示すことができるのか、注意深く見ていきたい。

そして参院選は…

ネット上では熱心な支持者たちの発言が目立つ生活の党だが、今回の都議選に3人の候補を立てたものの、得票数はわずか9,563票。初日の出陣式に党首の小沢氏が駆けつけた板橋区でも、得票数4,977票で、得票率はわずか2.6%。驚くべき、と言いたくなるほどの存在感のなさである。社民党は1人を立てて12,948票、みどりの風はやはり候補者1人で6,463票。いずれも存在感は希薄だ。民主党は選挙区によっては生活などとの選挙協力を行うとしている。もちろん地域によって事情は大きく異なるのだろうが、今回の都議選の結果を見ていると、そういう戦術がどれほどの効果を生むのか疑問に思えてくる。

今回の都議選は、私には選挙らしい熱気がまるで感じられなかった。投票率43.50%は、1997年の40.80%に次ぐ低投票率。しかも1997年は現行の期日前投票制度がなく、利用しにくい不在者投票制度しかなかった。今回は、有権者の8.33%が期日前投票をしている。この制度がなければ投票率が史上最低となった可能性も否定できない。

低投票率の原因は、「民主党に失望したが、自民党には投票したくない。かといって他の政党や候補者にもそれほど魅力を感じない」という人たちが投票所に足を運ばなかったからだろう。共産党やみんなの党が「反自民」の受け皿として名乗りを上げているとはいえ、そこに乗れる有権者ばかりではない。今の民主党がなすべきは、自民党との対立軸を明確にし、それを明快に語れる人(いれば、の話だが)を「顔」にすえて、「反自民」や「非自民」の受け皿としての役割を果たすことだろう。そうでなければ、「反自民」「非自民」の有権者は、今後も投票行動へのモチベーションが持てないまま、参院選の投票日を迎えてしまうのかしれない。

今回の結果に、安倍首相は「半年間の政権の実績に一定の評価を頂いた」と自信を深めている。確かに自民党は、「小泉旋風」の時より高い得票率は得た。だが、得票数を見れば、2001年より88,300票減らしている。「小泉旋風」は、人々に熱気を吹き込み、投票所へと足を運ばせ、投票率を高める効果もあった。安倍首相には、未だ小泉氏のような動員力はない。

そんなこんなで、参院選も低調な選挙になってしまう…ことのないよう、各党の奮起とマスメディアの工夫や努力が必要だ。

注:最初の原稿で、みんなの党と生活の党について、候補者数が少ないのに総得票数や得票率を比較をするなどの記述をした点は適切ではなく、その部分を書き改めました。

ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。2020年4月から神奈川大学国際日本学部の特任教授を務め、カルト問題やメディア論を教えています。

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