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【PC遠隔操作事件】ドコモとのトラブルは本人が書き込みしていた

江川紹子ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

片山祐輔氏が起訴された一連のPC遠隔操作事件の中に、docomoショップへの襲撃予告をネットの掲示板に書き込んだ、として威力業務妨害に問われている事件がある。

犯人は、昨年9月10日、遠隔操作ウィルスに感染させて三重県津市の男性のパソコンから、次のようなメールを送った。

〈今週末、ドコモショップ○○○○○○○店にトラックで突っ込む。

店員と客を轢きまくってあと爆殺する。

無差別に刺殺撲殺惨殺毒殺してやる全部実行してやる

絶対実行するから逃げるなよ

ドコモショップ○○○○○○○店のクソどもめが!! 〉

(原文は店名実名)

犯人性を示す事件と位置づける検察

これについて検察は

1)片山氏が同店と携帯電話の修理を巡ってトラブルがあった、

2)「真犯人」が落合洋司弁護士らに送った犯行声明メールにはこの件が書かれていない、

ことから、店の顧客情報から自分が特定されるのを避けるために、犯行声明に入れず隠していたと見て、片山氏の犯人性を示す事件と位置づけている。その見立てに基づいた報道もされてきた。

検察側は、この件に関しては、片山氏に犯行動機がある、とも主張している。過去のトラブルの意趣返しで、このような書き込みを行ったということだろう。

弁護側は「検察側は重要な証拠を隠して情報操作している」と憤慨

一方、弁護側は、

記者会見する佐藤博史弁護士
記者会見する佐藤博史弁護士

a)片山氏はこのトラブルがあった当日、2ちゃんねるに顛末を書き込んでおり、自らがトラブルを公表していた

b)本件は伊勢神宮爆破予告などと一体不可分のものであって、伊勢神宮事件を告白することは、ドコモ事件を告白するに等しい

などとして、この事件に格別の意味があるような見方は間違いだと主張。

「警察・検察もこの書き込みを当然見ているはず。なのに、この重要な情報を隠したまま、片山さんがトラブルがバレることを怖れて犯行声明に書かなかったかのような情報を流すのはフェアではない」と憤っている。

この書き込みから何を読み取るか

さらに弁護側は、「この書き込みと『真犯人』からのラストメッセージを読み比べて欲しい」と訴える。

「ちょっと長文になるが」と断って書き始めているドコモショップについての書き込みは、原文で48行、総文字数1400字。

「片山さんにとっては、これが『長文』。4回の逮捕・勾留の際に行われた意見陳述も、(10分の持ち時間があるのに)常に2、3分で終わった。671行、総文字数10,550字に及ぶラストメッセージは、片山さんには書けない。両方を比べて読めば、別人が書いたことは一目瞭然だ」(佐藤博史弁護士)

また、弁護側によれば、片山氏はこの書き込みをしたことを完全に忘れており、弁護人にその存在を告げていなかった。ところが、ネット情報から弁護人がこの書き込みの存在を知り、内容が片山氏から聞いていたことと完全に一致することから、彼に見せたところ、書き込みをしたのを思い出した、という。

昨年1月15日に起きたトラブルで恨みを持ち続け、その報復として襲撃予告をしたという、検察が描く執念深い犯人像と比べ、片山氏の淡泊な反応を聞いて、私はやや拍子抜けした。

しかも、その書き込み内容は、一方的、感情的に店側を非難するものではなく、相手の主張もきちんと挙げている。筆致はむしろ淡々としていて、交渉で主張を通した勝利感もない。ひたすら「疲れ」「徒労感」がにじみ出ている文章からは、9か月間も続くような怒りとか憤りとかいった強い感情が伝わってこない。

このトラブルがあった時点で、検察の主張でも未だウィルス作成も始まっていない。そういう時期に何気なく書いたグチ。そこから、彼のどんな人間性を読み取ったらいいだろうか。

(ドコモとのトラブルについての書き込みは本稿文末に全文を掲載。ラストメッセージ全文はこちら〈前半〉とこちら〈後半〉に掲載)

派遣先の同僚のPCからもウィルスが…

また弁護側は、派遣先で押収された19台のパソコンのうち、片山氏が使っていたもの以外からも問題のiesys.exeが発見されていたことを明らかにした。見つかったのは少なくとも1台でかつての同僚が使っていたもの。その同僚は「雲取山にも江ノ島にも行ってないので、私は犯人ではない」と供述している、という。他にもiesys.exeが検出されているパソコンがあるかどうかは、未だ不明、とのこと。

本人の書き込み全文

ドコモショップとのトラブルに関する2ちゃんねる掲示板への書き込みは以下の通り。

905 SIM無しさん 2012/01/15(日) 23:06:12.67 ID:○○○○○○○○

ちょっと長文になるが愚痴らせてくれ。

ドコモショップで揉めた。

修理完了品を取りに行っただけでものすごく疲れた。。 

年末にArrows買った。ネットや通話は問題なかったけれど、

ワンセグ、Youtube、ローカル動画再生といった、動画再生系が全くできない不具合あり。

年開けてからドコモショップに持っていった。

不具合内容を店員といっしょに確認。

交換品在庫が無いので代替機貸出の修理対応しかできないと言われて仕方なく承諾。

代替機はMedias WP。 (Xiプランのまま、XiカードからFomaカードに無料交換)

「Arrowsと同様にワンセグ対応で防水モデルなので、Xi対応してない以外は同じように使えますよ」と言われて受け取る。

で、修理上がったとの連絡を受けて今日取りに行った。

そしたら、代替機のMediasが水没しているという。水没シールが赤くなってるから負担金5000円払えとか言い出した。

で、払う払わないで長時間平行線の議論。

こっちの主張

・これも防水という説明を受けて代替機を受け取った。IPX等級は理解し、防水機として常識的な使い方しかしていない

・確かに風呂で使ったが、水没させるようなことはしていない。濡れた手で触った程度。

・本来、IPX5/7等級を謳うなら30分以内の水没までなら大丈夫のはず

・ドコモショップで受け取ったときにmicroSDを入れて以来、電池蓋は1回も開けていない。

・代替機は別にどこも故障してない 今の今まで普通に通話もメールもできていた。

・防水で無い携帯を防水と謳って売っているのは詐欺ではないか?もしくは個体の不良で浸水してる可能性だってあるぞ?

・そもそもArrowsの初期不良品を掴まされたのも、交換できなくて代替機を使わせられていたのも、ドコモ側の落ち度。

にもかかわらず、こんな客を疑うようなことしてイヤな思いさせるのか、ふざけるな。

・いい加減にしろ、早く修理品返却処理して帰らせろ

・絶対払わない。払わせたければ少額訴訟でもしろ。「ドコモショップに架空請求されている」と消費者センターに電話するよ??

あっちの主張

・現に水没シールが赤く変色している

・濡れた場所で使う際に、あなたの電池蓋の締め方が不十分だったのかもしれない

・あなたの主張する使用状況はこちらでは確認できない (→ 本当は水没させたのにウソついてるんだろう?と言いたげに)

・代替機を渡すときに水没が無いことを確認した。

・代替機貸出にあたり、紛失破損時の負担金についての承諾書にサインしてもらった

・他のお客様にも、水没シールが変色していたら負担していただいている。(本体が故障しているいないにかかわらず)

・5000円払ってもらうか来月の請求に上乗せすることを承諾してもらわないと、修理手続きを完了できない、修理品をお渡しできない

そんなこんなで、副店長まで出てきて睨み合いのような状態のまま閉店後1時間ぐらい平行線で粘ったところ、あっちが折れた。

ちゃんと修理品は受け取り、5000円は請求されず、こっちの主張が通ったけど、すごく疲れた・・・。2時間半も無駄にした。

期待して一括で買った新機種で初期不良掴まされただけでなくこんなイヤな思いさせられるなんて、

softbankほど酷くないといままで思っていただけに、殿様商売の怖さを知った。

ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。2020年4月から神奈川大学国際日本学部の特任教授を務め、カルト問題やメディア論を教えています。

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