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猪瀬都知事の5000万円問題・渦中の人に聞く

江川紹子ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

猪瀬直樹都知事が徳州会から5000万円を受け取った問題で、辞任に追い込まれた。猪瀬氏と徳州会の徳田虎雄氏をつなぎ、現金の返済場面にも立ち会うなど、この問題のキーパーソンである一水会代表木村三浩氏に話を聞いた。

ーー猪瀬直樹氏と知り合ったのはいつ?

木村「20年くらい前だったか…猪瀬さんが週刊文春で『ニュースの考古学』という連載をやっていた頃。猪瀬さんはペンクラブの言論表現委員会の委員長をやり、私も委員になったり、『朝まで生テレビ』の番組で会ったりするうちに、なんとなく親近感を抱きました。『ミカドの肖像』『天皇の影法師』や三島由紀夫を描いた『ペルソナ』などの作品にも敬意を払っていました」

木村三浩氏
木村三浩氏

ーー徳田虎雄氏は?

木村「山口敏夫さんの勉強会で会って、名刺交換をしたのが最初だと思う。私の名刺を見て、和紙でも毛筆書きでもないので右翼らしくないと思ったらしく、「普通の名刺だね」と言っていました。その後2000年前後に自由連合の選挙の手伝いをして、親しくなりました」

ーーなぜ猪瀬氏を徳田氏に引き合わせようと?

「石原氏の後継で出るかもしれないと聞いたが、猪瀬さんは何しろ選挙基盤がないし、(選挙のために)動く人もいない。徳田さんは選挙のベテランだし、石原さんの盟友でもあるので、『会っておいたほうがいいんじゃないですか』と言った。大学の先生とか、ほかにも何人かに引き合わせた、その中の1人だった」

ーー11月20日にはどんな話を?

木村「徳田さんの病室で、奥さんの秀子さん、病院のスタッフと、女性の秘書がいたと思います。私が猪瀬さんを紹介して『選挙に出るかもしれません。協力してあげてください』と言った。猪瀬さんは自分の本を贈呈したりしていた。この時の話で記憶に残るようなものはなく、40分から1時間程度、世間話のようなものをしたんじゃないか。話の中身は覚えていないが、この時にはお金の話は出ていないと思う。東電病院の話が出たとか言われていますが、全然記憶にありません」

ーーお金の話はいつ?

木村「その後(衆院議員の)毅さんの方から連絡があり、毅さんと私と猪瀬さんの3人が麻布の和食屋で食事をした。その時の会話で、都知事選にはいくらくらいかかるんだろうという話になり、私と毅さんが『1億くらいじゃないか』と言っていたら、猪瀬さんは3000~4000万円くらいでやるつもりだという話をしていた。ただ、なにしろ支持基盤がしっかりしないし、いろんな候補者の名前が挙がっていたので、必ず勝てるという確信があったわけではなく、落選した場合、手元不如意となるんじゃないかと、生活の不安は口にしていたと思う」

ーー石原氏の後継指名もあり、連合も支援し、楽勝という印象があるが…

木村「選挙戦終盤はそうなったかもしれないが、立ち上がりはとてもそんな状況ではなかった。何しろ支持基盤がまるでない。実際、告示の後に猪瀬さんのポスターが掲示板に貼られるのは遅れ、全部張られるのに数日かかった。選挙は水物で、何が起きるか分からない。猪瀬さんが不安に思うのは分かる」

ーーこの時に、猪瀬氏から「お金を貸して欲しい」、もしくは毅氏の方から「お金を貸しましょう」というような話はあったのか。

「猪瀬さんの方からは言っていない。私が話を聞いて、『少し貸してあげたら』というようなことを言い、毅さんが『貸しましょうか』という話があったと思う」

ーーお金を借りる場にはいたか。

木村「私は立ち会っていないので、この時のことは分かりません」

ーー5000万円貸し借りがあったという話はいつ、誰から聞いた?

木村「両方から聞いたと思う。毅さんからは『借用書を書いてもらった』という話も聞きました。時期ははっきりしないが、選挙に入ってからかもしれない」

ーー木村さんも選挙を手伝った?

木村「手伝っていません」

ーーお金を返す話はいつ出たのか。

木村「1月下旬に猪瀬さんから『早く返したい』という話があった。2月4日にパレスホテルの和田倉を予約して、ここで毅さんに返すことになっていました。それが、毅さんの方の問題(女性スキャンダル)でキャンセルされてしまった。猪瀬さんは5月頃にも『早く返さないと』という話はしていた。オリンピックや奥さんが倒れたりしてなかなか日程がとれなかった」

ーー実際に返したのは、徳州会への強制捜査が入ってからだった。

木村「毅さんとは連絡がつかず、虎雄さんの奥さんの秀子さんに、9月25日にホテルニューオータニに来てもらい、猪瀬さんの秘書がお金を持ってきた。手提げの紙袋に入っていて、帯封がしてある100万円の束が50個。私が秀子さんの自宅まで行って、一緒に数えています」

ーー借用書は?

木村「同じ日、お金を返す前に、私が毅さんの秘書の所に取りに行きました。ただ、ニューオータニに行く前に、私が自分の事務所に寄った時に置き忘れてしまったんです。それで、後から猪瀬さんの秘書に送りました。なので、秀子さんが借用書を見ていないというのは、全然おかしくない。マスコミでは、秀子さんが『借用書のことを知らない』と言っていると書いたので、あたかも借用書がニセモノであるようなことも言われましたが、本物です。秀子さんも『自分は見ていないが、毅に聞いてみないと分からない』と言っているのではないですか?あの時点で、毅さんがちゃんと借用書が本物であることを話してくれていれば、と残念でならない」

ーー報道や都議会の追及をどう見ている?

木村「都議会は、事実の解明より辞職ありきでフェアではない、と思います。マスコミも、検察のリークがあるのか、単純な事実を誇大にフレームアップして、人々の疑念を増幅するような書き方をしてきた。特に朝日新聞はひどい。これは決して都民の利益にはならない」

ーー猪瀬氏は辞任を表明したが…。

木村「猪瀬さんが最初、記憶があいまいなまま、質問に答えてしまったので、後からいくつも訂正することになってしまった。それで、言っていることが信用できないような印象を与えてしまったのかもしれない。マスコミのバッシングによって多くの人が目を曇らされたこともある。猪瀬さんは横田基地の軍民共用化や米軍が管理している横田管制空域を縮小して、東京の空を取り戻そうという意欲があった。こういう問題を粘り直やってくれる政策通の人が必要だった。だから、去年の選挙での都民の選択は間違っていないと思う。徳州会の内紛が、こういう問題にすり替えられてしまい、本当に残念だ。私が、最初に紹介したことでこうなったと思うと、責任を感じる」

ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。2020年4月から神奈川大学国際日本学部の特任教授を務め、カルト問題やメディア論を教えています。

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