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【PC遠隔操作事件】保釈直後の片山氏インタビュー

江川紹子ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

片山祐輔氏は、保釈翌日の3月6日に、江川のインタビューに応じた。その重要部分は、週刊朝日に掲載したが、紙幅の都合上落とした部分もあったので、改めてここに公開することにする。

自由になったらまずネット

――夕べはどう過ごしましたか。

保釈翌日の片山氏(主任弁護人の事務所で)
保釈翌日の片山氏(主任弁護人の事務所で)

「弟と焼き肉を食べて、ホテルに泊まりました。部屋のパソコンで、僕が(保釈後の記者会見で)しゃべったことに対する反応をネットで見ました」

――どんなものを見たんですか。

「ホリエモンのツイッターとか、江川さんのブログとか、落合弁護士の反応を見ました。昨日は、弟の携帯で2ちゃんねるも見たんです」

――2ちゃんねるの反応はどうでしたか?

「好意的なものもあれば、『こいつ口悪いなー』と思うものもあれば、半々ですね」

――ネットは懲り懲りとはならなかったのですか?

「いや。やっぱりネット自体好きなので。面白いというか、情報を得るために生活に欠かせないツールなので」

――今、一番欲しいものは何ですか?

「携帯を」

―― PCは?

「ほしいですね。必要ですね。自作したいんですけど、パーツをかうために秋葉原ぶらぶらすると目立ちますかね?まず先に変装グッズを用意しないと」

就職して友達もできた

――いつごろからITやネット関係に馴染んでいたのですか?

「父がコンピュータ会社の社員で、小さい頃からPCがあって、小学生の頃から触っていました。高校生の頃から自作パソコンを始めました。秋葉原でパーツを買ってきて、組み立てるようなものです」

――その頃からIT関係の仕事をしようと?

「そうですね。情報関係の大学の学部が新設され始めていた頃、その年に新設された学部に入りました。ちょうどIT革命だと言われ始めていた、森総理の時代です」

――大学は結局……

「中退しました。正直なところ、友達を作れなかったというのがありました。レポートを提出するのに、必ず組になって提出しないといけないのに、自分は組んでくれる人がいなかったんですよね。自分から人を誘うようなタイプではないので。無視されてたというわけではないんですけど、結果的に孤立状態になって、授業にも付いていけなくなって、単位もほとんど取れなくなって、結局4年目で中退してしまいました」

―― そのあと専門学校に行かれたのですよね?

「そうですね。ただ、ここも大学にいた時に比べて楽しかったかというと、そうでもないなと。その年に、前の事件を起こして逮捕されて、専門学校は除籍になってしまったのですけど」

――人間関係が寂しいことも事件を起こした理由だったの?

「将来への不安ですかね。『自分は企業に求められる人間じゃないのではないか』と思い始め、『社会人としてやっていけるのか』という悩みが膨らんでしまって、事件を起こしてしまったという話ですね」

―― 出てきてから就職するのはそれも大変でした?

「そうでもなかったです。雇用能力開発機構という独立行政法人がやってくれる職業訓練プログラムに無料で参加したんです。そこでIT技術者になる訓練を受けて、就職しました」

――そこでの人間関係は?

「かなり良かったと思います。会社からも『あいつはかなり友達が多い方だ』と思われていたようです。同僚とプライベートでの付き合いもあったので。たぶん、刑務所で僕は変わったと思います。人付き合いが苦手な方だったんですけど、刑務所に入ったらそんなこと言ってられないわけですよね。人と仲良くやっていかないと、いじめに遭う、トラブルに巻き込まれる。だから、ちゃんと話さないといけないし」

――人と話をするのも、大丈夫になってきた?

「就職した頃には、割と大丈夫になっていました。僕は友達が多い方ではないんですけど、僕の交友関係は会社入ってからの人が中心なんです。学生時代から付き合いがある人は、ただのひとりもいないんです。社に入ってからの友達の中には、今回の事件の後も母にもメールくれたりして、支えてくれました」

――大事な友達ですね。そうすると、過去のような人間関係の悩みっていうのは、事件があった時には、なくなっていたわけですか。

「そうですね。仕事の進捗状況についての悩みはありましたけど、人間関係的な悩みはほぼなかったと言っていいですね」

逮捕されてからの「市中引き回し」

――今回の事件で逮捕される前、予感とか予兆は全然なかったのでしょうか?

「感じてなかったですね。いきなりという感じです」

――逮捕直前に、猫カフェで正面から写真を撮られているようですけど、あれも分からなかったですか?

「はい。分からなかったです」

――逮捕された時のことを「市中引き回し」と冒頭陳述で述べていましたけど、その日のことを今の記憶で話してください。

「家から連れ出された時、マンションの近くの川沿いの遊歩道のところに、何十人もの報道陣がいました。一斉にストロボがたかれて、エレベーターで下に降りて、車に乗せられ、マンションを去る時まで、ずっとバシャバシャと。その日に麹町署と病院と湾岸署に連れまわされ、その各所で、なぜかマスコミが待ち構えていました。一日中、市中引き回しです。車自体が前から撮れば顔がバッチリ写るような構造になっていますし。僕はあれを『市中引き回しカー』と呼んでいますけど」

――連れていかれている時、どんな気持ちでどんなことを考えていましたか?

「頭の中が真っ白で考える余裕もなくて、横の警察官がしきりに親しげに何か話しかけてきていたんですけど、何を話したか覚えていないですね。唯一覚えているのが、マンションを出た直後に、『なんであんなにマスコミがいっぱいいるんですか?』って聞いたら、『俺たちが情報を流したわけじゃないから』と。『マスコミも俺たちと同じようなことしてるんだよ。刑事さんも尾行してるんだよ』みたいなことを話しされたことだけです」

――遠隔操作事件だということも、逮捕当初は分からなかった。

「後から分かりました。その日の最後にほのめかされる形でした。まだ半信半疑で、一晩寝て、上本検事のところではっきりと言われたという感じでした」

――言われた時、どんなことを思いましたか?

「『ええ!? まさかあの?!』という感じでしたね」

接見禁止による情報遮断は「すごくつらい」

――非常に長い拘束期間になったわけですけど、どんなことがしんどかったですか。

「湾岸署では、3日に1回は警官と喧嘩してました。いろいろと規則がうるさいんです。『トイレで本読むな』とか、四六始終見張られて指示されていました。反発して、『そんなルール知らないし、そっちの都合だろ』と逆キレしたりして、一回、保護室に入れられました。拘置所に移ってからは、刑務官が優しくはないんですけど、厳しくもなく、基本的にはあまり干渉してこないので、喧嘩みたいなことにはならなかったです」

――いつになったら出れるか分からないのは、相当、きつかったですか?

「そうです。出口のないトンネルの中にいるような、そんな感じですね」

――拘束されて情報遮断されるのは、これまでネットでつながれていた人にとっては…

「すごいつらい、何も情報が入ってこない。それでも湾岸署の留置場では、新聞の回覧はありました。自分の事件は黒塗りでしたけど、それ以外は読めた。でも、東京拘置所では新聞の回覧もない。新聞購読はできるんですけど、接見禁止になっていると、それもできない」

インタビュアー(江川)のスマホで自身についての報道をチェックする片山氏
インタビュアー(江川)のスマホで自身についての報道をチェックする片山氏

――逮捕されてから、マスコミにもいろんなことを書かれていたようでしたが、それは分かっていましたか。

「はい。弁護士さんが新聞のスクラップ記事とか、雑誌の記事を逐一見せてくれていたんですけど、『ひどい書かれようだな』と思いました」

――そういうメディアに対して、どのように思っていますか?

「当時は、絶対に『各社を訴えてやる』と思っていました。今でも、ちょっとは思っていて、すべて決着がついてからは、あまりにひどい書き方をしていたところは、責任をとってもらいたいなと思っています」

――と言いながら、言い方は淡々としているのね?

「まあそうですね。キレても損するだけですし。昨日の記者会見でも、佐藤先生がマジキレしているモードみたいに、終始テンション高いような喋り方をしていたら、受け取られ方も違ってたでしょう。2ちゃんの書き込みでも、『もっと怒っててもいいんじゃないか』『割と冷静だな』というコメントが、ちょっとありました」

――カーッと感情的にはならない?

「佐藤先生みたいな(熱くなる)タイプではないですね」

スマホのカードが未開示

――事件関係のことで、お尋ねします。江の島のビデオについて、法廷でも再生されましたけど、あそこで検察側が「これが被告人だ」と言った人物は、片山さんでいいのでしょうか?

「いいと思います」

――動きについて検察が説明をし、「あの時間帯で写真を撮れるのは片山さんしかいない」と主張しました。どう思いました?

「あの位置で僕が撮らなくても、望遠機能が付いたカメラを使えば、あの防犯カメラの範囲外のもっと遠距離からでも撮れるだろうと。そうすれば、映像が多少ブレているのにも、説明がつきます。だから、『片山さんしかいない』というのは、おかしいだろうと。そもそも、(僕が撮ったという)例の問題の3ショットのうち、僕の手の中にスマホのようなものがあることが確認できるのは、1ショットのみです。それも、左手で片手で縦に持っている。残り2ショットのうち片方は、ちょうどすぐ隣にいた人の影になって、僕自身の身体全体が隠れちゃっていて、何をしているのか分からない。もう1枚は背中しか写っていないので、撮っているか撮っていないのかも分からないという感じです」

――あの時にあそこで持っていた撮影できるものというのは、富士通のスマホだけ?

「はい。アローズX F05Dだけです」

――あそこで何らかしらの写真を撮った記憶は?

「う~ん……。結局、似たようなベンチもいろいろあれば、似たような猫もいたりで、あの場所であのグレイを撮ったかというと、記憶は定かではないですね」

――あの日は下にバイクを置いて、上がってきたわけですよね。その間に、途中でも猫を撮ったみたいなことは?

「はい。撮りました」

――何匹くらい撮ったか覚えていますか?

「5.6匹です」

――どのへんで?

犯人が送り付けた猫の写真の一枚
犯人が送り付けた猫の写真の一枚

「途中の商店街だったり、商店街の脇道だったり。途中の石段にもいて、神社にもいて、頂上、つまりグレイがいた場所にも何匹かいて、という感じでした」

――スマホなんですが、写真を撮るときには、保存はどこにしていたんですか?

「本当はマイクロSDにしたいんですけど、F05Dの不親切設計というんですか、マイクロSDを抜くと設定がリセットされて、本体保存になっちゃうんで。よく本体保存になっちゃってたんですね。むしろ本体に保存されていることの方が多かったかなと」

――あの日は?

「分かりません」

――撮った写真は、パソコンなどに保存はしていなかったんですか?

「たまに、パソコンにバックアップはとっていました。ただ、3日に撮って、15日に本体を売るまでに、バックアップはとらなかったんですね。特別に残しておきたい写真もなかったので」

――では、パソコンの中にもそれはないと?

「ないと思います」

――そのマイクロSDカードは今はどうなっているんですか?

「中に入っていたマイクロSDカードは、そのまま、機種変更した新しい携帯で使っていたので、新しい携帯にささった状態で押収されました。昨日の野間さん(特別弁護人)の話だと、そっちのデータはまだ開示されていないそうです」

――ひょっとしたらそこに入っているかもしれない?

「かもしれない。グレイの画像じゃなくても、その日撮った猫の画像が入っているかもしれない」

――片山さんにとっては大事な証拠かもしれないわけですよね?

「そうですよ」

――それがまだ開示されていない。それから、使っていたUSBはどうなったのですか?

「僕がポータブルアプリケーションを持ち歩くのに使っていたUSBメモリですね。あれも行方が……。黒いバッファローのUSBメモリだったのですが、押収されているものだとばかり思っていたのに、押収品リストにはないらしくて。警察が家宅捜索した時に、たまたま見落としていたのか、それとも何らかの意図で隠しているのか、そのどっちかですよね。2月10日に家宅捜査を受けた時に、パソコンにささっていたか、机の中か鞄の中か、車の中か、いずれかにあったことは間違いがないはずなんですけど」

――それを見れば、あなたがどういうアプリを入れていたのか、何か良からぬウィルスっぽいものに感染していた否かじゃ、分かるわけですね?

「おそらく。犯人が遠隔消去をした跡でなければ、ですけれども」

JRの防犯カメラ映像がなぜ出てこない?

――いつくらいから、お正月に江の島に行こうと決めたんですか?

「1週間くらい前ですね。クリスマスくらいから、近々バイクでどこかに出かけようと、どこでもいいからと思っていました。江の島を選んだ特定の動機はなく、バイクに乗って、湘南方面を走りたいというのがメインだったと思います。猫と触れ合いたいなというのも、目的のひとつだったのは事実です」

――バイクでどこかを走るというのは、どれくらいの頻度やっていたのですか。

「2週間に1回は休日に車かバイクで」

――江の島に行く前はどこかへ?

「江の島に行く前は12月29日から大晦日まで、静岡の友人のところに行っていました。そっちは車です」

――防犯カメラ映像の中で、検察側が「首輪を付けてガッツポーズした」とか言ってましたけど、あの説明を聞いてどう思いました?

「『かなりこじつけだなー』と。『相当うがった見方をしないと、被告人が特異な行動をとっているという受け取り方はできないだろうなー』と。『観光客のひとりにしか見えないだろう』と。

――検察は「あそこで人がいなくなるのを待っている」といった解説をしてましたが。

「ただ山頂のあたりをうろうろとしていただけだと思います。あっちに猫がいたりとか、こっちに猫がいたりとかいう感じです。ぐるぐる2、3周まわっていた記憶はあるので。大道芸を横目で見たりとか。本当に無作為にそぞろ歩きしていたので」

――冒頭陳述で、正月の行動をなぞっていましたけど、元日にお母さんとショッピングに行ったと。2日はよく覚えていないけど、秋葉原のあたりにいたと。そして、3日が江の島。4日は検察が「川崎に行ったんじゃないか」と。川崎駅でこの日の神奈川新聞を買ったのではないか、という見立てのようですが。

「川崎に行った覚えはありません。それについて証拠として出てきているのが、地下鉄の映像だけなんですね。僕が、最寄り駅から地下鉄に乗って大手町駅で丸の内線に乗り換えて東京駅まで行ったところまでは、防犯ビデオ映像で出ているんですよ。僕、東京駅はよく行くんです、駅中の店で食事しに。たぶん、その日はそれ目的で東京駅に行って、午後は秋葉原にいたと思います。それだったら、東京から山手線もしくは京浜東北線に乗って秋葉原に行ったというのが、僕の一番ありうる行動です。検察の主張としては、僕が携帯で東海道線で川崎駅までの経路検索をしたことになっているらしくて、東京から川崎に行って、『10時台に川崎駅周辺にいた』と言っているんですけど、証拠が地下鉄の映像しか出ていないんです」

――JRだってあちこちにカメラがあるじゃないですか?

「JRの映像は出ていないんです。もし、自分の思っている通り、東京から山手線なり京浜東北線なりで秋葉原に移動する行動をとっていたのなら、その映像があるんじゃないかと思います。検察が言うように、神奈川新聞を手に入れるためだけに川崎駅に行くとするとしたら、切符も川崎駅まで買わずに、ホームで新聞を買って、とんぼ帰りすることは可能です。でも、そうだとしたら、川崎駅の防犯ビデオにも写っているはずです。とにかく、東京駅、川崎駅、秋葉原駅の防犯映像が出ていないんです。なぜ地下鉄だけなのかという疑問があります」

――片山さんは電車で移動する際には何を使っていますか?

「スイカかパスモですね。その記録も残っているはずなんですが、ただ、スイカとパスモを割と母親と交換していて、僕の乗った記録と母親の乗った記録とが、まざっているんですね」

――でも、どのみち警察は押収していると思うんですよね。

「そうなんですよ。その日、僕が東京駅まで行った記録と、そこから秋葉原まで行った記録とが、あるはずなんですけど。あるいは、たまたまその日、チャージを切らしていて切符を買ったかもしれないでしけれど、記録がないというのも変ですよね」

首輪を2本買ったのは誰?

犯人のメールによる雲取山の写真。これはヤマレコ掲載の写真を流用したもの
犯人のメールによる雲取山の写真。これはヤマレコ掲載の写真を流用したもの

――片山さんは雲取山にも登っています。山登りはよくするのですか。

「趣味の一つです。大学2年まではワンゲル部に入っていました」

――雲取山以外にはどんな山に登ったことがありますか。

「大雪山とか、北アルプス西穂高だとか。高尾山、尾瀬は毎年です」

――山登りの魅力?

「自然を満喫できて、頂上につたときの達成感」

――片山さんが登った一昨年12月1日は、雲取山は雪が降ったようですね。

「途中から。山頂についたときは、粉雪ですね」

――かなり寒かった?

「そうでもなかったです」

―― 装備は?

「12月にはいっても、秋の山に上る人の装備です。上着はあったかめのものでしたが」

――山頂にいる時間、常にひとがいた?

「30-40分の間、常に人がいました。3、4人とか、多い時は6,7人。『どこからですか』とか話しかけられたり、カメラのシャッターを押してあげたりとかしました。そんなところで何か埋めたら目立ちます」

――雲取山、江の島と両方に行っているのは、偶然にしてはできすぎている、と言われます。

「雲取山に行く時には、事前に下調べ、山関係のサイトを見て参考ルートをしらべています。江の島は行くルートを道路検索、湘南方面の観光情報を、江の島のネコスポット情報を調べていた。おそらく犯人は、それをのぞき見して江の島のネコ利用しようと考えたんでしょう」

――猫につけられた首輪を、片山さんが購入した証拠は出てないですね。

「はい。仮にぼくが犯人で、犯人が語っているストーリー通りのことが行われているなら、僕は1月2日か3日にダイソーで首輪をかっていないとおかしい。でも、そんな事実はない。たぶん犯人は(2012年の)年内から首輪、用意していて、はじめから雲取山はフェイクで、江の島のほうに警察を導くことを考えていたとしか、考えられない。

問題の首輪を、どこかのダイソーで一度に2本買った人がいるか、警察は調べているはずなんですが、それも証拠として出てきていません。首輪の台紙にはバーコードが印刷されていて、POSで管理されている。いつどこで売られたか記録があるはず。なのに、犯人がいつそれを手に入れたのかというのも謎のままです」

――片山さんにとって大事な証拠が出てこない…。

「証拠開示を求めても、『検察の手持ち証拠には存在しない』という回答が多いそうなんです。弁護士の話では、警察が検察に(証拠を)送ってないケースかなり多いのではないか、と。今後、公判でどうひっぱり出させるか……」

映画、居合い、ツーリング、コスプレなど多趣味

――証拠開示が問題になっている事件はたくさんあって、昨今話題の袴田事件でも、最近になって隠されていた証拠がいろいろ出てきました。 

「その事件についての『BOX』という映画を見ました。その前に『ハリケーン』という元ボクサーの冤罪の映画をみたんですが、袴田事件はハリケーンの日本版だと知って、見たんです」

――映画もよく見るんですか。

「よく見る方です」

――社会的な問題に興味があるの?

「社会派の映画も見ますが、ハリウッドで制作されて全国公開というのも見ます。単館上映のマイナーな映画もみますし、逆にまったくくだらないB級映画も見ます。実は逮捕される寸前に『デッド寿司』というB級映画を見ていました。寿司が化け物になって人を襲う、という。この監督はその前には『ロボゲイシャ』という芸者さんが暗殺ロボットに変身するとか、そういうものを作っていて、くだらないと言えばくだらないのですが、海外でも評価されたりしています。あと『君が代不起立』とかのドキュメンタリーなんかも見ます」

―― 他に居合いをやったり、ツーリングや旅行に行ったり、どっかで武士の恰好するイベントにも参加したりしてたんでしょ?

「参加してましたよ」

――かなり多趣味ですね

「そうですね」

――事件があった頃も、かなり充実した日々だった?

「仕事上の悩みを除けば、やりたいことはできていました」

スマホを売ったわけ

――あと、スマホのことを聞きたいのですが、あの富士通のスマホは、電池の減りが早くありません?

「それがちょっと不満だったのです。アローズXはすぐに電池がなくなっちゃって、常に予備バッテリーを持ち歩いていたんですけど」

――なんであのスマホにしたんですか?

「ワンセグもできて、お財布ケータイでもできて、クロッシーというLTE、最新の通信規格にも対応していて、2012年末当時で最高性能で、機能も考えうるかぎり全部そろっていたスマホだったんですけど、期待外れだったかなと。電池の持ちが悪すぎるだろと。我慢して1年くらい使っていましたけど、買い換えることにしました」

――その次に買ったのは?

「シャープのアクオスフォンってやつですね。電池の持ちがすごくいいというのを確認して、その機種にしようと思いました」

――なぜ、アイフォンじゃなくて、アンドロイドの方を?

「アイフォンは使い方の自由度が低いですね。アップルが一元管理してコントロールしている。ソフトもアップルのアップストアを通したものしか使えない。それに対してアンドロイドは基本的になんでもできて、どこかの誰かが開発したソフトを動かすことも可能なるので、僕の使い方としては、そっちの方がいいなと思って」

――どんなアプリを入れていました?

「ネットの情報収集系から、2ちゃんねる専用ブラウザから、ゲームから、世界カメラみたいなARアプリとか、クラウドで情報を同期するようなもの、データをドロップボックスのアプリも入れていましたし」

――自分でアプリを開発するとかそういうことは?

「いつかやろうとは思っていたんですけど、やらずじまいでしたね」

――かなり大変?

「そうでもないですね。アンドロイドは開発環境がJAVAなんで、僕が業務で使っているものと同じなんです。やろうと思えば、簡単なものならできそうだなとは思っていました」

――スマホを遠隔操作するのは難しいという指摘もありますが。

「アイフォンだとアップル許可の安全なアプリしか動かせないので、ウィルス、マルウエアみたいな騒ぎはめったにおこらない。一方、アンドロイドで動くウィルスいっぱい出回っています。アンドロイドむけセキュリティソフトも売っている。でも、僕はスマホのウィルス対策ソフトを入れてなかった。しかも、アンドロイドは、グーグルプレイのアプリしか動かないような初期設定になっているんですけど、僕の場合、その制限を解除して、ネットで好きなものを使える設定にしていた。ということもあり、何かしかけられたと思います。そのへん無防備だった」

「僕にも落ち度はあった」

――あなたは、誤認逮捕された4人と自分は同じだと訴えていましたね。

「ただ、正直にいうと、僕に落ち度がないというわけでない。あの4人はITの素人でした。でも僕は、プロだから、最低限のセキュリティは備えてないといけなかった。実際の業務で、情報セキュリティインシデントを引き起こせば、その人の責任。犯人に何かされました、というのは、プロとしてはすまされない。無防備に好きなアプリを職場でつかっていたこと自体、プロの自覚が足りなかったと思う。それは認めないといけない。ITで複数の会社を巻き込んで起きた、IT史上最大の情報セキュリティインシデントの当事者になってしまった。『僕は悪くない』では済まされない」

ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。2020年4月から神奈川大学国際日本学部の特任教授を務め、カルト問題やメディア論を教えています。

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