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【PC遠隔操作事件】「可視化で取り調べされれば否認できなかったかも…」(第15回公判傍聴メモより)

江川紹子ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

――平成25年1月5日に延長戦メールを送った理由は?

雲取山USBメモリを発見してもらえず、ムキになって「次の仕掛けを」と、焦った。

――江の島の猫にしたのはなぜ?

首輪をつけられた江の島の猫グレイ
首輪をつけられた江の島の猫グレイ

雲取山は、取りに行くのが難しすぎて、警察のヘリが一番乗りしてしまった。今度は誰でも取りに行ける所にしようと。猫を、多くの人に探させるアイデアを思いついた。マスコミ、ネット住人、警察が一匹の猫を求めて島中大騒ぎになる、滑稽な絵を描いた。

――防犯カメラが多数設置されていたが、映像に残る懸念は感じなかったのか。

全く考えていない。商店街を歩いている時、郵便局の所にカメラがあるのには気づいたが、上に行ってからは商店もないのでカメラもないと思った。

周到な準備と楽観的な犯行

――準備はどのように?

1月2日に「猫 首輪」で検索して、ダイソーに売っていると分かった。1月2日に浅草をうろうろしたが、そこのダイソーに首輪はなく、軍手とキャットフードだけ買った。アキバオーでマイクロSDカードを買い、1月3日午前に錦糸町のダイソーで首輪を万引きして入手した。自宅でSDカードにパソコンからデータを書き込んだ。

――その際、タイムスタンプを書き換えた?

12月22日の昼頃としたのは、アリバイのため。その日、私は居合道場で団体行動していてパソコンに触れていないので、万が一の時のためにそうした。

――撮影機材として、コダックのplaysportを使ったのは?

スマホで撮影すると、OSのどこかに痕跡が残るかもしれない。デジカメはタイ旅行で紛失した。仕方なく、デジタルビデオカメラの静止画を使うことにした。

――片手で持って、親指でボタンを押せる。

はい。縦に構えると(画像は)横に移る、割とレアなものです。

――使ったplaysportはどうしたのか。

マスコミらしい人が来て、マークされていると思ったので、イタリア旅行の時に、成田空港の出国審査の前のゴミ箱に捨てた。

――警察は画角の検証にデジカメを使っていたが。

私がplaysportを使ったことは知らないのだと安心した。

――あなたが売ったスマホから猫の映像が再現されたという報道もあったが。

絶対あり得ない。誤報だ、ねつ造だと自信を持っていた。そのスマホでは撮っていないからです。

――首輪をつけた後、たこせんべいを買ったり、釜揚げしらす丼を食べたりしているが。

1月4日付神奈川新聞の上に載せられた首輪の写真
1月4日付神奈川新聞の上に載せられた首輪の写真

江の島では、普通に観光もしようと思っていたので。食事をしている時に、首輪とSDカードをもう1セット用意して、翌日の神奈川新聞の上に載せて撮ったらおもしろいと思いつき、またダイソーに行って首輪を万引きし、同じアキバオーでSDカードを買った。

――帰りに下りたインターは?

自宅最寄りの箱崎で下り、下の道で錦糸町に行った。ETCの記録に残るのを避けたかったので。

――1月4日の神奈川新聞を使ったのは?

あわよくばアリバイトリックになると思った。(神奈川新聞にしたのは)自殺予告メールと統一感を出したかったのと、江の島は神奈川県なので。新聞は4日の午前中、川崎駅ホームの売店で買った。

――猫の写真は1月3日午後3時9~11分頃に撮影されたが、プロパティの更新日時では4日午後4時31~44分となっている。

playsprtの画像は16:9だが、自宅パソコンで横をカットして4:3にかえた。そういう作業をしたのがこの更新時間。

――なぜ縦横比を変えたのか。

普通のデジカメは4:3。普通のカメラやスマホで撮ったようにするため。

――延長戦メールについてどう思うか

完全に思慮不足というか、ムキになりすぎ、慎重を期さず、防犯カメラも気にせず、完全に失点だったと思う

――防犯カメラについてはいつ知ったのか。

猫に首輪をつけた広場を映す防犯カメラ
猫に首輪をつけた広場を映す防犯カメラ

6日か7日、前年末に大量のカメラが設置されたと報じられていた。商店街あたりだろうと楽観的に考えていたが、テレビで「ここが犯人が猫に首輪をつけた場所です。それを見下ろす位置にカメラがあります」と言っていて、青くなった。やばいやばいやばい…だけどパニックになってはいけない、と。いざ事情聴取された時にどう答えるか想定問答を考えた。

不安…だけどイタリア旅行へ

――1月21日から29日にイタリア旅行に行った。

申し込んだのは1月12日くらい。もしかしたら警察が来るかも、と思っていた時期だが、敢えて行くことにした。ヤバいと思う半面、自分は大丈夫、警察はたどり着けないと思い込もうという気持ちでいた。この旅行に無事帰ってくれば大丈夫と願掛けもあった。

イタリアに行く日の昼頃、インターホンが鳴って、マスコミらしい人が来たので「ヤバい、マークされている」と思った。

――イタリア旅行は?

10人くらいのツアー。凄く不安で、昼間から酒を飲んで不安を抑えていた。現地のプリペイドのSIMカードを買って、10分おきくらいにYahoo!リアルタイム検索をチェックした。母にメールも出した。母からの返事でマスコミや警察の訪問がないことを確認しないと気が済まなかった。

――警察の動きに気がついたことは?

ありません。

――マスコミの動きに気づいたことは?

ありません。

警察が持つ情報を冷静に確認

――逮捕の状況は?

朝6時半ぐらいに呼び鈴が鳴って目が覚めた。母が「祐輔、警察だって。あんた何かした?」と言うので、驚いてみせないといけないと思い、「えーっ」と言った。

――どう思ったか。

やっぱり来たか、気を引き締めて対応しないと、と。向こうがどれだけ情報を持っているのか、向こうの情報を見落とさずに対応しないと、と思った。

――警察の情報をどのように収集したか。

家宅捜索の時、押収すべき物の中に、12月1日雲取山で身につけていたニット帽、とあったので、雲取山に行ったことはバレているんだな、と思った。なので、行ったことまでは認めよう、と。ある時は嘘をつき、あるいは忘れたと結論を引き延ばし、相手から情報を引き出そうと思った。

――うまくいったか。

自宅PCで写真の縦横比の修正をした
自宅PCで写真の縦横比の修正をした

ある意味ではうまく言った。例えば猫の首輪。Y警部補は「あなた以外はいない」と、私の前後に(猫に)近づいた人のことは言っていたが、私の行動には言及されなかった。その日の夜、「あなたが売っぱらったスマホから出てきた」と3枚の写真を見せられたが、どうでもいいものばかり。それをさも意味があるように揺さぶりをかけている、向こうは私がスマホを使って撮ったと誤認している可能性が高い、と思った。

それで言い訳の方針にめどが立った。おそらく、首輪をつけるところはビデオに写っていない。スマホで撮ったことを前提に、縦横(機器を縦位置に構えたのに、問題の写真は横位置)などの言い訳ができると思った。

――しかし、そのことをすぐに話さなかった。

取り調べで、グレーを撮ったかどうかも覚えていないと言ったのに、縦横は覚えているという矛盾した状況になる。防犯カメラ映像が開示され、それを見てから言う必要があると思った。

無実の人ならどう振る舞うか

――C#は読めるが書けないという説明はいつ考えたのか

逮捕前から考えていた。

――これについて、弁護人にいつ話したか。

2月15か16日に、「どうやら自分はあの遠隔操作の犯人と疑われているようです。そういえば、ウィキペディアでiesysとかいうウィルスはC#で書かれていると読んだんですが、僕はC#はできないんです」と。

――すぐに言わなかったのは?

逮捕された時は「あの事件」とは知らないことにしていたので、C#に反応してはいけない、と。

録音録画されれば嘘がばれる場面が記録に残る

――佐藤弁護士から、取り調べの録音録画のメリットとデメリットを聞いてどう反応したか。

「ぜひして下さい」と即答した。嘘がバレやすいというデメリットは怖かったが、無実の人ならどういうかを考え、すぐにそう答えた。

――録音録画がなされない場合はどうするようにとアドバイスがあったか。

取り調べを拒否するように、と。2月17日は録音録画がないと受けられませんと言ったら、無言の行になり、互いに黙ったままだった。向こうはパソコンを出して作業できるが、こちらは目を閉じて何もしない状態。18日は雑談に応じてしまった。弁護士から「留置場から出ることを拒否しなさい」と言われた。

――録音録画をして取り調べを受けたら否認し続けられたか。

できなかったかもしれない。次々に証拠を波状攻撃的に示された場合、自分としても整理が追いつかず、言ったことの一貫性がなくなり、そこを突かれる。嘘がばれ、やり込められる。それでも、録画がされていなければ、調書にサインしなければ証拠は残らないが、録画されればやり込められたところが残ってしまう。

「自分も遠隔操作されていた」は言いたくなかった

――公判前整理手続で検察側の証明予定事実と証拠が出てきた時に、どう思ったか。

「ヤバい、ここまでつかまれていたのか」と怖くなった。1つひとつ矛盾のない言い訳を考えないと、と。

――特にまずいと思ったのは?

江の島の(防犯ビデオに映る)22分間の問題。

――どういう言い訳を考えたか

もしかして、自分が尾行されていたのかもしれない。私が接触した猫に何かを仕掛けられたのではないか、と。

――検索履歴には知らないものがある、とも言っていた。

犯人にウィルスを仕込まれて、遠隔で画面監視されていたのかも、と言った。

――それはいつ頃考えた?

わりと早い段階。雲取山と江の島の両方に行っている、こんな偶然はあるかと言われた場合、遠隔画面監視という言い訳をせざるをえないかもしれないと、思っていた。できれば、この言い訳は使いたくなかった。

――なぜ?

それを証明するために、パソコンの専門家を呼んで解析しないといけなくなる。そんな痕跡がないことは分かっている。逆に犯人であることを補強してしまう。

――弁護人は、検察の証拠にすべて同意する提案をした。

そんなことして大丈夫なのかと思った。ただ、判決は早い、証拠隠滅はないとして保釈されやすくなると聞いて、一石二鳥ではないか、と。不利になっても、判決前に真犯人メールでひっくり返してやるから同じことだ、と。

ITリテラシーが低い裁判官が判断していいのか

――2月7日に4回目の保釈請求をした。

証拠に全部同意しているので保釈されると思った。ところが却下されて、現時点で有罪の心証を抱いているのではと不安になった。

――それが高裁で認められた。

高裁の裁判官は年齢の高い人しかいないのだろう。ITリテラシーが低く、一般的なものの見方で保釈したと思う。ITサイバー事件という特殊な事件を(ITリテラシーが低い裁判官に)適切に決められるのかなと思うが、うれしかった。

動機が説明できない

――情状鑑定を求めているが。

私自身、どういう動機でやってしまったのか、自分で言えない。自分の心の中にどんな化け物がいるか分からない。自分で自分が分からない。動機や事件に至った原因が分からない。鑑定を受けたいと切実に思う。

――検察官は殺人事件でもない、と反対する。あなたは人を殺すことは考えたことはあるか。

いじめられ時、「あいつ、むかつく。殺してやりたい」と殺す妄想を抱いた。仕事をするようになって、理不尽なクレームをしてくるやつは、どうにかしてやりたいという思いがあった。絶対にバレない殺し方ができるのであれば実行していたかもしれない。

――どういうことか。

私は、昔の事件も今回も、サイバー空間で自分にはたどりつけないだろうとやっていたが、現実の世界では無理。だから殺人や暴力はやっていない。そういう手法を見つけてしまったらやったかも。中学生の頃、魔法や超能力を自分が使えたら、あいつなんか殺してやるのに、と思った。

――佐世保の(女子高生が同級生を殺害した)事件を知っているか。

はい。10年前の事件は、児童の間で何らかのトラブルがあったが、最近の事件は、動機が人を殺してみたかった、ということ。誰かを恨んでやったわけじゃない。それが、踏み台の対象や関係ない人を攻撃した自分と重なる。自分は腕試しがしたかったとしか説明できない。それが、人を殺して、「殺してみたかった」としか説明できない人と重なる。

――酒鬼薔薇は同じ年齢で強い興味があった。

1982年生まれの異常な犯罪として。もしかして僕もあいつになっていたかも。秋葉原事件の加藤被告のようになっていたかもしれない。

ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。2020年4月から神奈川大学国際日本学部の特任教授を務め、カルト問題やメディア論を教えています。

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