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非常事態に備える憲法改正は必要か~震災・原発事故時の官房長官・枝野幸男氏に聞く~

江川紹子ジャーナリスト・神奈川大学特任教授
記者会見で質問に答える枝野氏(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

安倍首相は、11月11日に行われた参院予算委員会で、憲法改正によって緊急事態条項を創設することについて、「国民の安全を守るため、国家、国民がどのような役割を果たしていくべきかを憲法に位置づけることは極めて重く、大切な課題だ」と前向きな姿勢を示した。その前日に行われた改憲派の集会では、主催者代表が挨拶の中で、「大規模な自然災害に対しても、緊急事態条項さえない現行憲法では、国民の命を守り通すことは困難」と、この問題に触れ、来年夏の参院選挙を視野に、改憲勢力の結集を訴えた。安倍首相もこの集会に、連帯のビデオメッセージを送っている。

こうした発言直後の11月13日、パリで130人が犠牲になる同時多発テロが発生。フランス政府は非常事態宣言を発して、令状なしでの家宅捜索や過激思想の持ち主と判断した者の自宅軟禁を命じたり、人々の夜間の外出や集会を禁止した(外出や集会の禁止に関しては、文化人の呼びかけなどで、市民が自発的に広場に集まるなどの行為は黙認されているようである)。

この対応を見て、緊急事態条項がない日本国憲法は「テロとの戦い」において欠陥である、といった論調も出ている。憲法を変えないと、本当に日本では非常事態に対応できないのか。2011年3月11日に発生した東日本大震災と、その後の東京電力福島第一原発の事故という、二重の「非常事態」の際に、政権の中枢にいて、官房長官として対応をした枝野幸男氏(現民主党幹事長)に、その体験に基づいて話を聞いた。

憲法上、検討が必要なのは1点だけ

――東日本大震災と原発事故の経験を踏まえて、現行の日本国憲法が非常事態において何か足りないところ、問題などを感じたことはありますか。

「その時に感じたのではありませんが、後で『あ』と気づいたことが一つだけあります。国会議員の選挙の延長は、法律ではできない。この1点です、緊急事態について、憲法上何か必要なことがあるとすれば

あの時は、被災三県の統一地方選挙を遅らせました。それで、(当時の県議や市議の)任期は4年以上になったわけです。地方選挙は、憲法は関係ありません。法律で特例法を作って、選挙を最大12月末まで延長できるようにしたんです。なので、今年も宮城とか岩手とか福島の県会議員選挙は、秋に行われたんです。

このようなことは、国会はできません。国会議員の任期は、衆議院は4年、参議院は6年と、憲法で決められていますから。

だから、一番極端なケースを言うと、内閣不信任案が通って、衆議院が解散され、参議院の任期満了が迫っていてダブル選挙が想定されている場合。そうすると、国会議員が参議院の半分しかいない状態です。なおかつ、現実的に選挙が行えない状況になる。このようなケースはありうる、と。この場合の手当はしておかないといけないだろう。これは憲法事項です。(問題を感じたのは)この一点だけです」

――自民党の議員には、福島へのガソリン輸送が遅れた事例を挙げて、「緊急時における個人の権利や自由の制限を、憲法で明記すべき」と言っている人もいます。

「そのようなことは、法律事項です。必要なら、法律を作ればいい。

私権の制限は平時でもできます。その根拠は「公共の福祉」ですけれども、制限の程度が平時と緊急時では程度が違うのは当たり前ですよね。

たとえば、私権制限で一番大きいのは逮捕ですが、普通は裁判所が令状を出さないと、逮捕はできないのに、平時でも、現行犯なら逮捕できます。緊急事態ならば、その状況に応じて適切な私権制限が法律で可能です。憲法事項じゃないです

原発事故時は行政指導で対応した

――ところで、原発事故の対応の際、法律を変えた方がいいと思った場面はありましたか?

「相手が東電だったので、事実上、全部行政指導でやりました。つまり、統合対策本部を東電の本社の中に作って、そこに海江田さんとか細野さんが乗り込んで、常駐したわけです。民間企業の本社の中に、政府高官が常駐するだなんて、法律上の明確な根拠はありません。すべて行政指導です。相手が東電で、ああいう局面だから東電は応じざるを得なかったわけだし、社会的にも応じさせたことは間違っていなかったと思うんですが、相手がいやだと言えば、あのようなことはできなかったわけです。

行政指導と原子力緊急事態宣言――これは今でも継続しているわけですが――、ふわっといろんな指導ができる。それが根拠ですから、電力会社がいやだといえばできない可能性はありました」

――そういう点など、法律で整備をしておいたことがいい、と感じた問題はあった。

「といえます」

――たとえば、自宅を壊して救助その他の災害対策の活動をするというのは?

「これは法律でできます。憲法を変える必要はなく、今の法律と憲法でできます」

何でも臨機応変にできちゃうというのは危ない

――安倍さんが、災害時などを考えると緊急事態の条項を考えることが重要だと発言したが、どう受け止めているか。

「安倍さんの頭の中にある緊急事態状況は、国会議員の任期のことだけではないでしょう。たぶん、あらかじめ法律で作っておかなくても、臨機応変に何でもできるようにしておきたいんでしょう。でも、それは危なくてしょうがない。何でもできちゃうというわけだから。ある程度の抽象度をもって、幅を持たせることは必要だと思いますけど、人命救助のために必要なことなどは、あらかじめ法律で決めておけばいいことです」

仏の「非常事態宣言」でやったことは法律で対応可能

議員会館の執務室で(手前のCDはAKB47)
議員会館の執務室で(手前のCDはAKB47)

――パリの事件があってから、たとえば産経新聞は、フランスでは非常事態宣言発令して、治安当局が令状なしの家宅捜索できるとか、集会禁止とか夜間の外出禁止とか国境封鎖とか、そういうことができるようになっているけれど、日本は何かあった時に対応できないと言っているわけですが(注)。

「夜間の外出禁止とか国境封鎖とかは法律でできますよ。そういう法律作ればいいだけで。

捜査機関が令状なしで、どこでも入っていいかという話は、簡単ではないが、法律でやろうと思えばできますよ。どうしても必要な特殊なケースに限って、要件をきちっと書き込んで認める。憲法じゃないです。今でも、常人による現行犯逮捕ができるんですから。それが大規模に行われるだけ、とも言えます」

災害時の対応は行政手続きが問題

――災害時に必要な事柄について、法律改正は十分できているんでしょうか。

「民民の関係なら、あまり問題はないんですよ。民法にも刑法にも緊急避難と正当防衛がありますから。誰かの命を救うために、誰かの私有財産を壊しても、民事上問題にならないです。損害賠償の対象にならないですから。現行法でも、民法という基本法でOKです。

問題は、行政手続きなんです。民間人同士でやるなら全然問題なくても、行政がやろうとすると、いろんな規定に縛られる。東日本大震災の時に手続きでややこしかったのは、たとえば埋葬許可。平時と同じ手続きでは、物事が進んでいかない。それで、本人確認ができなくても、一時的に土葬するということをやった。

このように、手続きが面倒だというレベルでは、問題点はたくさんあります。ただし行政手続きですから、法律で対応できます。すべての行政手続きを一括して、緊急事態には、すべての行政手続きをこうします、というのを決めておけばいいわけで。

あるいは、あのときには期限を延ばすための法律を急いで作ったはずです。つまり、被災者の皆さんの運転免許証が切れるとか、そういう時に、すべて流されて、運転免許証そのものも流されているかもしれない人たちに、免許更新の手続きしろとか言えませんでしょう?そういうものは特例法を作りました。

こういうことは、法律作ればできるんです。ただ、法律を作る国会がなくなっちゃっているとまずい」 

国会議員の任期問題は簡単ではない

――だから、緊急時に国会議員の任期を延長することが必要、と。

「ただ、作り方は簡単じゃない。先ほど極端なケースを言いましたが、内閣不信任案が可決して解散しているような場合、じゃあ、解散の前に戻して、その内閣にいつまで継続させるのか。でも、権力の正当性の根拠はすでに失われていますよね。そう考えると、結構めんどくさい、しんどい話です」

――どのように改正すればいいでしょう。

「普通の状況ならば、単に任期満了が迫っているだけならば、半年単位で延長を何回までできる、という規定を置くことはできますね」

――不信任案で正当性が失われている場合は…

「現実的にこの議論がすぐにリアルに俎上に上る状況ではないので、僕も、そこまでは詰めていません。これが一番難しいと思う」

――でも、それはやっておいた方がいい。

「万が一というか、不幸が重なる場合もありうるわけですから、それはやれるならやった方がいい。

ただ、それに便乗して、包括的に総理に独裁権限を与えるようなものがくっついて来るんだとすると、納得できない。そこの見極め、整理が必要です

立憲主義をないがしろにする人たちに憲法をいじらせるな

――岡田代表は、「安倍政権の間は憲法論議はしない」と言っていました。枝野さんのお考えは?

「まったく一緒です。つまり、立憲主義が前提にならない人たちに憲法いじらせたってダメなんです。安倍さんや今の自民党のかなりの人たちは、立憲主義が大事であるという認識が欠落しているので、憲法をさわる資格はないですよ。

ついでに言うと、立憲主義って保守思想です。立憲主義を否定する保守なんてありえない。保守っていうのは、歴史的に蓄積された知恵や経験を大事にするという考え方で、歴史的に蓄積された知恵や経験の法制度上の象徴が憲法なんですから。だから、簡単に変えちゃいけない。これが憲法の世界的な共通項。歴史と経験に裏打ちされた憲法を大事にしない保守なんてありえないんです。だから、僕は一貫して、『あの人たちは保守じゃない』と言っている」

――保守じゃなくて、何なんでしょう?

「革命をやってるんですよ。無血革命やってるんです。革命政権です、今の政権は。憲法秩序をぶっ壊しているんですから。憲法秩序を無視し、ぶっ壊すのは革命と言うんです。政治的には革命政権なんです。保守じゃない」

これは重い憲法違反

――安全保障の法律では、多くの憲法学者が「憲法違反」と指摘しました。

「そう」

――ほかにも、立憲主義が大事にされていないと感じることは?

「今、国会召集に応じないこともそうでしょ。これは実は、9条との関係での集団的自衛権より深刻なんですよ。

表現の自由は、人権の中でも優越的地位を持っているでしょう?これは表現の自由があれば、ほかの人権侵害があっても、表現の自由を通じて、改善、修復の余地があるからです。実は、修復の余地があるのは、表現の自由と民主的な手続きですから。表現の自由があっても、民主的な手続きがなければ、間違った公権力の行使を是正できないですから。憲法の民主的手続きは、表現の自由と同じように特に重たいんです。その違反なんですよ。

本質論を言えば、国会って一年間に150日は開かなきゃならない。150日というと、あと7か月あるわけです。今回のようなことが許されるなら、この7ヶ月の間は国会閉じて、どんな不祥事があっても、どんな政府がぼろぼろの状態でも、議会から信任されてなくても、政権を継続できる、ということになるんですよ。国会を開かない限り、内閣不信任決議をされないんですから。突然安倍さんがとんでもないことやって、自民党の人たちも「これはけしからん、早く辞めさせろ」となっても、国会開かなければ7か月不信任されることはない。臨時国会の召集に応じないというのは、そういうことです。だから、こんな憲法違反は許されないんです」

――憲法には、何日以内に開かなければならない、という記載がないから、と…

「そういう場合は、普通は裁量権があるのは間違いない。憲法、行政法の世界では、自由裁量なのか、羈束(きそく)裁量なのか、要するにまったく自由に裁量していいのか、それとも一定の幅の中で選べばいい、といういう裁量権なのかが問題になります。これは、明らかに羈束裁量権なんですよね。まったく自由というのではなく、一定の合理的な範囲内での自由に選んでいい。何も書いてなければ、普通はそうなんですよ、政府、行政に与えられている権限って。一定の合理的範囲内とはいつなのか。これ、自民党自身が自分たちの憲法改正草案の中で『20日以内』」って書いている。合理的範囲とは20日以内って、自分たちで認めているじゃないですか

僕は、20日というのは少し短すぎるかな、と。1か月から1か月半。臨時国会開けと要求があって決断して開くまで、僕はそれくらい許していいと思うんですが、そこから1か月の会期とれるんですから。明らかに裁量権の逸脱です

――それに対しては、裁判所で憲法違反と認定してもらうことはできないんですか。

「無理です。国会議員が自分たちの審議する権利を奪われたと国家賠償請求するんですか? 訴えの利益がない、原告適格がない、そして最後は統治行為論で逃げるんでしょう。裁判所に期待しすぎるのは、危ないからやめた方がいいですよ

それに、まだ露骨にやってませんが、安倍さんの思考からすると、いずれ最高裁人事にも手をつけるでしょう。アメリカはご承知の通り、政権によって最高裁判事にどういう人が選ばれるか変わるわけですが、あそこは政権交代が頻繁に起こるというのが定着しているから、そういう方法もありでしょう。

ただ、残念ながら、我々の責任もあって、日本では政権交代が定着しているとはいえません。最高裁の裁判官は、慣習的に職業裁判官出身と、弁護士出身と、それ以外の官僚出身学者出身が比率が安定している。今までも、学者や行政官出身を入れる時とかは、政権の意向がある程度働いたと思う。ただ、露骨にバランスを崩すことはしてこなかった。今は、弁護士出身は弁護士会が複数候補者を推薦し、その中から選ばれる。それを変えるようになって一本釣りを始めたら危ないです」

共謀罪をどう考える

――パリでのテロを引き合いに、共謀罪の話が出てきている。この谷垣発言についてはどう思いますか。

「もし、過去に3回廃案になった共謀罪の法律を頭に描いているんだとしたら、これはテロとは全然関係ないものですね。そもそもあれは、マフィアみたいな組織犯罪を国際的に撲滅しようという条約に基づいて、なおかつ、それと全然関係ない犯罪まで対象にしていたので、論外だという話で、我々は反対していた。キセル乗車に共謀罪って、何と関係あるの?という話。それを想定しているなら論外。悪のりとしか言いようがない。

ただ、確かに、テロを防ぐために、この犯罪については、共謀や予備の段階で処罰する必要がある、という話なら、議論の余地はあります。例えば、銃器とか爆薬とか毒ガスとか、こういうものの準備に関連してとか、テロ集団と関係する資金のマネーロンダリングとか。その手の話に限定するならば、議論の余地はあるんですが、今でも幅広く処罰の対象になっているので、本当に抜けているところがあるのかどうかは、きちっと精査しなきゃいけないでしょうね」

――オウム事件でも、事件に使われたサリンの製造とは別に、サリンプラントの建設が殺人予備罪で処罰されました。

「そうでしょう。かなりできちゃうんですよ。本当に必要で、抜け落ちているものがあるのか。あるとすれば、それに絞ってやるなら、議論の余地はあるでしょう」

テロ対策で大事なのは情報

――テロ対策で必要だと考えることはなんですか。

やらなければならないのは、情報の集約システムだと思います。東日本大震災とか原発事故でも、一番問題だったのは、全部東電で情報が止まっていたことでした。情報が官邸に上がってない。東電本社には(現場と)テレビ電話システムでつながっていたということすら、我々のところには上がってこなかったわけですね。あれが初めから官邸につながっていれば、相当に対応は違っていた、というのは間違いないわけだし、テロに備えるなら、警察庁の首脳部に上がる情報が、リアルタイムで官邸につながるようになっているのかとか、その時に官邸で総理なり官房長官を補佐するスタッフはどうなっているかとか、そっちの方が深刻な問題でしょう。

震災の時の経験で、原発に限って言えば、すべての原発と運営する本社と規制庁と官邸が全部つながっていますが、いろんなシステムについて、(そういう情報の伝達網が)全部できているのか、省庁縦割りの中、本当に大丈夫?ということですよね

それから、外国人の入国情報について、もちろん個人情報保護的な視点、プライバシーの視点は大事ですけど、要注意人物と思われる人が入ってきた時に、ほんとに把握できて、きちんと追っかけているのか?そっちが問題ですよ。事後的に防犯カメラたくさんあって、いろんな事件解決できるといっても、後手じゃまずいんで。

情報がないから、イスラム教関係者全部をフォローするとか、イスラム教国からの人を全部フォローするとかいうことになったら、それは問題で、人権侵害じゃないかと言われる。それに、そんなにベタに薄くやってたら、本当に追っかけなきゃならない人間を追っかけられない。日本にそういう情報収集能力あるのか?これは権限の問題じゃなくて、能力の問題ですから。それちを育てるのは、30年50年の仕事ですよね。そっちの方が心配」

一貫した「法の支配」を

――枝野さんとして、テロ対策について何か提案をしたいことはありますか?

「一つ一つのテロに対しては、やはり毅然とすることが大切で、そうでないとテロの連鎖、短期的なテロの連鎖につながる。テロで脅かされて妥協するようだと、短期的にテロを誘因するのは間違いない。だから本件に対する対応は毅然としなきゃいけない。

ただ、本件とは別に、そろそろ真剣に考えなきゃいけないのは、なぜ、世界は絶対王政から法治国家に変わったのか、ということ。それは、結局、弱者が強いからなんです。要するに、暗殺を恐れた絶対王政の側が、おちおち寝てもいられないので、おちおち寝ているためには、ルールに基づいてやるんだから、殺さないでねと、そういうことなんですよ。

正面戦争やる限りアメリカが強いんでしょうけど、テロとなったらどうでしょうか。9.11は、アメリカの軍事力をもってしても、おちおち眠れないという社会に入ってしまったことの象徴で、今度フランスでこれが起きた。明らかに世界は、強権をもって安全を確保することが困難な時代に入っている。これは世界全体が法の支配の下に入らないと、安全を確保できない。そういう事態が、世界で50年100年単位で起こり始めているんだと思います」

――ただ、ISみたいなところは、自分たちの価値観以外は認めない。そういう人たちと共通のルール作れるんでしょうか。

「その人達と共通のルールを作ろうとしたら難しい。誰と共通のルールを作るかというと、過激派ではないイスラムの人たち。だから、難民を排除するとかヘイトスピーチするとかは最悪で、その人達をむしろ過激派の方に追いやるようなもの。こちらは話をしてくれない、相手をしてくれない状況では過激派の方に走らざるをえなくなる。過激派の方には厳しく対処するしかない。いかに過激派を小さくするかというためには、過激派以外と仲間になるしかない。テロをやってる集団を追い込むためには、それ以外のところは、いろいろイヤな相手でも、敵の敵は味方、あるいはこちらに取り込むというくらいでないと、おそらく事態は収まらない

――たとえばイラクは、国内の人に対する人権侵害はあったが、外にテロをまき散らしたわけではない。そのトップを、ああいう形で排除したことで、すさまじいカオスが生まれてしまいました。

「サダム・フセインの倒し方は、法の支配には全く基づかない、力による排除だった。力によって排除されたんだから、力によってやり返すという正当性を与えてしまった。こちらはあくまでも法に基づいてやるという立場であるなら、力づくで排除するというやり方は、説得力をもたない。簡単ではない、もっと時間はかかったろうが、曲がりなりにも国連というシステムの下で、国際法に基づいて対応したなら、状況は違ったのではないか。こちらは、あくまでも法に基づいてやる。法の中身についてはいろいろ不満はあるし、国際関係上は我々のサイドにとって損だということがあっても、法に基づかないで力によって物事解決しようという勢力を少数派に追い込むためにはやむを得ない、ということじゃないですか」

――こちらが「法の支配」を言うからには、常に一貫してなきゃいけない、ということですね。

「そうです」

(注)フランスの非常事態宣言は、同国憲法第16条に基づく大統領の非常事態措置権の行使ではなく、1955年に当時の植民地アルジェリアの独立運動が激しくなってきた際に制定された緊急事態法に基づく措置。

(インタビューは11月20日に議員会館で行った)

ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。2020年4月から神奈川大学国際日本学部の特任教授を務め、カルト問題やメディア論を教えています。

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