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愛犬と一緒に地域貢献はいかが~和歌山で広がる「防犯パトロール犬」の取り組み

江川紹子ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

愛犬の散歩をしながら、安全見守り活動で地域に貢献――和歌山市の一地域で昨年9月に始まった「防犯パトロール犬」の活動が、広がりを見せている。和歌山市は、この事業を市内全域に広げるため、来年度予算で支援することを決めた。

パトロール犬のバンダナをつけて活動(=散歩)中のもか吉
パトロール犬のバンダナをつけて活動(=散歩)中のもか吉

この活動を発案したのは、二人の子どもの母親で、和歌山市立福島小育友会長を務める吉増江梨子さん。吉増さんは、5年前に山犬の子を保護した。「もか吉」(通称もか)と名付けられたその子犬は、当初は激しい人嫌いだったが、吉増さんの愛情と犬のしつけの専門家の協力によって、お年寄りなどに寄り添うセラピー犬に成長した。高齢者施設の訪問活動や小学校での動物愛護教育などのボランティア活動で活躍している。吉増さんは、毎日たっぷりと時間をかけてもかの散歩をするのが日課だ。

見守りボランティアが高齢化の中で

そんな吉増さんが、この活動を思い立ったきっかけは、昨年2月に紀の川市で小学5年生の男の子が殺害された事件。吉増さんの子どもたちが通う福島小学校の校区でも、不審者情報が出回ることもあった。一方、登校時の子どもたちの交通安全など見守ってきた地域のボランティアは高齢化し、数も減っていく。吉増さんも、もかを連れて朝の通学路に立つようになった。この経験から、「犬を飼っている人は、必ず散歩に行く。それを地域の見守り活動に活用できないか」と考えるようになり、パトロール犬構想が生まれた。

散歩の時、犬には目立つそろいのバンダナをつけ、パトロール犬であることを分かりやすくする。飼い主は、散歩をしながら、子どもたちに気を配ったり、声をかけたりするほか、不審なことに気づいたら、学校や警察に連絡を入れる。それ以外に求められるのは、散歩中の排泄物は持ち帰るなど、当然のマナーくらいだ。これなら、格別しつけが行き届いた犬でなくても参加できるし、飼い主はそれほど負担を感じることもなく、地域への貢献ができる。

「自分のワンちゃんが、地域の『パトロール犬』という役割を担えるのは、飼い主としてもうれしいはず」と吉増さん。

地域と警察がタイアップ

もかと飼い主の吉増さん
もかと飼い主の吉増さん

このアイデアを、吉増さんは地元・野崎地区の自治会長で育友会長の先輩でもある上高敦子さんに相談した。共感した上高さんは、これを和歌山市地域安全推進員会和歌山北支部(野畑久則支部長)に提案。子どもの見守りの担い手の高齢化や不足は、どの地域も共通する悩みだ。提案は歓迎され、同支部としてこの取り組みを行うことに。上高さんは、さらに地元の和歌山県警北警察署の防犯担当者とも話し合い、警察もこの活動を支援することになった。

昨年8月25日、同警察署で出発式が行われ、犬の首に巻く黄色いバンダナが野畑支部長から各自治会長に渡された。この時点での「パトロール犬」は、もかを含めて7頭。それが、みるみる増えて、現在では約80頭になる。野崎地区では、参加者の散歩コースを地図に書き込んで、子ども達の通り道や遊び場をできるだけ網羅するように工夫したり、情報をLINEを通じて共有するようにした。パトロール犬を実施している地域では、子どもが知らない人に声をかけられるなどの不審者情報は、今のところ一件もない、という。地域外からも、吉増さんのブログやFacebookを通じて問い合わせが相次いでいる。

地域で子どもを見守る

このパトロール犬の最大の特徴は、愛犬家だけのサークル的な活動ではなく、地域や警察が連携する事業になった点だ。4月からは、それに自治体も加わることになった。西署、東署管内を含めた全市で取り組みを展開できるよう、和歌山市が後押しすることになり、バンダナ代などの補助をすることになったからだ。今後は、不測の事態に備え、参加者の保険をカバーしてもらうなど万全を期すための対応を協議中だ。

「仲間になりませんか~」
「仲間になりませんか~」

自分の地域でもやってみたい、という相談に対して、吉増さんは「まずは地元の自治会に相談してみて」とアドバイスしている。

「子ども達に関わる活動だからこそ、参加する人たちと学校、地域などとの信頼関係が大事。お互いの信頼があってこそ、子どもや親たちの安心感も生まれる。地域全体で子どもたちの安全を守っていく、これをきっかけに人と人が地域の中でつながりを強めていく。そんな風になるといいな、と思っています」

自治会など地域の活動とはあまり縁がなかった人も、犬を通じてなら、敷居が低く感じられ、比較的楽に参加できるかもしれない。

また、こうした活動を通じてペットが地域に認知されれば、災害時の同行避難など、いざという時に、人々の理解がえられやすくなるなど、飼い主にとっての安心材料にもなりそうだ。

昨年は、川崎市の中1殺害事件や寝屋川市の中2の少年少女殺害など、地域で子どもたちを見守っていくことの必要性と難しさを感じさせられる事件が相次いだ。そんな中、防犯パトロール犬の取り組みは、他の地域でも大いに参考になるのではないか。

▽もか吉の日頃の活動は、吉増さんのFacebookブログをどうぞ

▽もか吉の生い立ちや活動、防犯パトロール犬についての詳細をお知りに鳴りたい方は、拙著『もか吉、ボランティア犬になる。』(集英社インターナショナル)をどうぞ

ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。2020年4月から神奈川大学国際日本学部の特任教授を務め、カルト問題やメディア論を教えています。

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