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地球温暖化リターンズ 世界平均気温が再び顕著な上昇傾向に突入か

江守正多東京大学 未来ビジョン研究センター 教授
今年8月平均気温の平年からの偏差(気象庁)

世界平均気温の上昇が著しい

1980年代、90年代に顕著だった世界平均気温の上昇が、今世紀に入って停滞していた(このことをもって、地球温暖化は止まったとか、これを予測できなかった気候の科学は疑わしいと評する人たちもいた)。

これが昨年2014年に再び観測史上最高の記録を更新したことは以前にお伝えしたとおりだ。

月単位で見ると、世界平均気温の最高記録(同月の過去の記録に対して)は、2014年4月、5月、6月、8月、9月、10月、12月に更新された。

では、今年に入ってからはどうだろうか。

2015年も1月、3月、5月、6月、7月、8月と、ほぼ毎月という勢いで最高記録更新が続いていることがわかる。

特に今年5月に入ってからは、平年値(1981~2010年の平均)からの偏差が5月:+0.38℃、6月:+0.41℃、7月:+0.38℃、8月:+0.46℃と大きく、それまでの記録がせいぜい+0.3℃強であったことと比べると、ぶっちぎりの記録更新が続いているのである。(いずれもデータは気象庁に基づく)

ちなみに、この間に日本の平均気温が最高記録を更新したのは2015年5月の1回のみである。日本で体感できる気温のみで考えていたのでは、地球全体の傾向を見誤ることがおわかり頂けるだろう。

原因はエルニーニョだが背景には地球温暖化

去年から今年にかけて世界平均気温が高いことの直接的な原因は、エルニーニョ現象であるといってよいだろう。

エルニーニョ現象は、熱帯太平洋の東部から中部までの水温が上昇する現象で、その逆に熱帯太平洋西部の水温が上昇するラニーニャ現象との間を数年おきに不規則に行ったり来たりする。地球全体において占める面積の大きい東部~中部熱帯太平洋の水温が上昇すると、世界平均気温でみても高温になる傾向がある。

以前の記事で、昨年12月にエルニーニョ現象は起きていないと書いたが、これはその時点での気象庁の発表に基づくもの。その後、気象庁は診断を変え、昨年夏頃から弱いエルニーニョが発生していたと発表した。そういうことが起きるのは、気象庁によるエルニーニョの定義が、当該月の前後計5ヶ月の平均を用いているためで、新しいデータが以前の診断に遡って影響を与える。)

エルニーニョ現象は、大気と海洋が互いに影響を及ぼし合いながら変動する過程で自然に発生するパターンであるから、今年はたまたまエルニーニョが起こって世界平均気温が高くなったということ自体は、いってみれば自然現象である。

しかし、それに伴って世界平均気温の大幅な最高記録更新が起こっていることの背景には、じわじわとした気温の長期的な上昇傾向が進行していたことを認めないわけにはいかない。つまり、人間活動に伴う温室効果ガスの増加により平均気温のベースが上がってきていたところにエルニーニョが重なって起きたことにより、記録的な気温上昇が生じているのである。

PDOの反転で再び顕著な気温上昇期に突入か

気候の自然変動パターンはエルニーニョ・ラニーニャのほかにもいろいろある。特に、近年の気温上昇の鈍化との関係で気候科学者が注目しているのは、太平洋十年規模振動(Pacific Decadal Oscillation: PDO)とよばれる現象だ。

PDOは北太平洋域に変動の中心を持つが、それに伴う熱帯太平洋の変動パターンは、エルニーニョ・ラニーニャによく似ている。そして、PDOの周期は10年~数十年である。すると、熱帯太平洋では「エルニーニョっぽい」状態と「ラニーニャっぽい」状態が10年~数十年で入れ替わる現象が起きていることになる。

世界平均気温が顕著に上昇していた1980~90年代は、このPDOの符号が正で、熱帯太平洋がエルニーニョっぽくなっていた時期と一致する。そして、今世紀に入ってからの気温上昇鈍化期は、PDOの符号が負で、ラニーニャっぽい状態が続いていた。

これについて、英国気象局は、PDOの符号が現在再び反転して正になってきている可能性を示唆する研究報告を先月発表した。これは、世界平均気温が再び顕著な上昇期に入り始めた可能性があることを意味している。大西洋の変動など不確実な要因もある、と英国気象局は慎重な姿勢を崩さないが、少なくとも来年までは記録的な世界平均気温が続くだろうとしている。

今世紀に入って気温上昇が鈍化していた期間は、負のPDOパターンに伴って、海洋の深層に熱が貯め込まれていたことがわかってきている。つまり、温室効果ガスの増加によって赤外線が地球から宇宙に逃げにくくなり、地球がシステム全体として持つエネルギーは増え続けているわけだが、その増加分が海洋深層に運ばれることによって、地表付近の気温上昇として現れてきていなかったというわけである。

ということは、このパターンが逆転すると、海洋深層に貯め込まれていた熱が逆に地表付近に運び出され、急激な気温上昇が生じる可能性があるということだ。

そして我々は、去年あたりからそのような期間に突入したのかもしれない。

東京大学 未来ビジョン研究センター 教授

1970年神奈川県生まれ。1997年に東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に勤務。同研究所 気候変動リスク評価研究室長、地球システム領域 副領域長等を経て、2022年より現職。東京大学大学院 総合文化研究科で学生指導も行う。専門は気候科学。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次および第6次評価報告書 主執筆者。著書に「異常気象と人類の選択」「地球温暖化の予測は『正しい』か?」、共著書に「地球温暖化はどれくらい『怖い』か?」、監修に「最近、地球が暑くてクマってます。」等。記事やコメントは個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。

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