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【COP21開会!】本音トーク:地球規模の気候変動リスクと向き合う(第4回)国会議員編(2/2)

江守正多東京大学 未来ビジョン研究センター 教授
(写真:アフロ)

前の記事(1/2)からつづく)

座談会編

江守:本会合では、事前のインタビューでのご意見を受けて、今後の展望についてみなさんの中で対話していただきたいと思っています。まず、事前にお会いできなかった若松さんに、基本的な考え方をお聞きします。

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若松:最近の気候は台風や異常気象など、明らかにおかしい。地球の歴史を見れば、10億年の時間をかけて植物が吸収してきたCO2を、人類が大気に戻していることが温暖化の原因であるというのは、もう共通認識になっているでしょう。

その上で言いますと、1. の「衡平性と国益について」のキーワードは「地球益」です。気候はグローバルな問題ですから、地球益あっての国益であるという考え方は根づかせたい。そしてCO2の削減は当たり前のこととして、最終的な処分方法が確立していない原発ではなく、コストの問題はあるにしても再生可能エネルギーを最優先させるべきだと思っています。

2. の「現在世代と将来世代の負担について」で、共通認識としたいのは、今のCO2排出は、将来世代に負担だということです。損失保障引当金という言葉がありますが、将来世代に損失があるならば、現在世代がそれを負担しなければならない。評価基準をちゃんとつくって、原因となっている我々が将来世代の負担を金額化して考え、それを関係者が共有するということです。

3. の「社会や産業の構造転換の必要性と現実性」については、先日の会合で知ったのですが、モンゴルでは、ここ70年間で気温が2.14℃上昇したというデータがあるそうです。そのために凍土の中からメタンガスが出てきてしまっている。そうした事態に対応する対策コストをどうするかといった議論をしなければならないと考えています。早い方がコストがかかりませんから、早急にやらなければならないでしょう。

4. の「気候変動問題に関する民主的な意思決定」については、日本は技術に対する信頼性が高いせいか、政治の世界で環境問題がそれほど重視されてこなかった印象です。でも、異常気象による災害がはっきりしてきていますので、対策費用を税などの形で負担する必要があるという認識は広がると思っています。この税と負担の仕組みをCOP21で議論してアジェンダを出せれば、大きな前進になると思うのですが。

江守:ありがとうございました。何か補足したい方はいらっしゃいますか。

温暖化対策の負担をどう考えるか

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鈴木:ほぼ皆さん同じような方向性だと思いますが、これから考えなければならないのは、世界的な規模で見て、どの国にどう納得してもらった上で、負担をシェアしていくかですね。経済的な成長を抑制しないようなオプションを踏まえつつ、現実的な対策をとる必要があります。

福山:将来的な構造転換ということで言いますと、具体的な技術として省エネや再生可能エネルギーを加速的に進める必要があると思っています。それを負担として捉えるのではなく、将来の異常気象リスクを軽減するための投資と考えるということです。その変化をポジティブにとらえることが重要なのではないでしょうか。

水野:温暖化問題の難しさは、たとえば一時代前の公害だったら、工場の廃液が原因といった具合に被害者と加害者がわかりやすかった。被害は深刻だけれど、対策としては、それを止めればよかったわけです。ところが温暖化は、すべての人が被害者で加害者というところが難しい。大企業もそうですが、一般人もCO2を出す。排出の削減は大事ですが、個々の家庭にまで強制できない以上、化石燃料を使わない方が得だよねというインセンティブを与える必要があります。それは税などを利用する方向でやっていくべきだろうと思っています。

小杉:やはり人間は得になることしか行動しませんから、インセンティブは重要です。うまくいった最近の例としては、クールビズです。あれは安いコストでみんなの意識を高めて効果を上げることができた。リーダーシップをとったという意味で、政治の果たした役割は大きかったと思いますよ。

江守:インセンティブを与えることで市民の行動を促すというわけですね。それは税によるものなのか、また、そのようなインセンティブが必要だと誰が判断するのか。

若松:新しい税については既に機は熟していると考えています。税制大綱にも去年あたりから森林税のような文言が入ったんですね。国民の皆さんに、負担ではなく、森、里、川や海を守るために必要なものだから協力しようと思っていただけるようなソフトアプローチを検討しているところです。

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福山:民主党政権のときに我々が導入した固定価格買取制度は、電気料金に課金するものですから、国民から見れば税に近いんですね。国が税金としてとるのか、企業が料金としてとるのかというだけで。しかし結果としては、再生可能エネルギーの普及には大きく貢献したわけです。取られることが次の何に結びつくのかを共有化できれば、国民の理解はもっと広がると思います。

税を否定するわけではありませんが、やはり税をかけるというと経済活動に影響するといった話になり、足元の経済問題と温暖化問題が対立する構図になってしまう。そうなると、なかなか政治的な合意が難しくなってしまいます。固定価格買取制度のような仕組みをつくることによって、マーケットが広がり、投資も増える、さらに地域経済も活性化するといったポジティブなサイクルになるような状況を工夫したいですね。

鈴木:そもそも税は国として必要な財源の裏づけであって必要な税額は決まっていますから、それを誰に負担してもらうかということなんです。これまでは経済的に、儲けた人の利益だとか消費にかけてきたわけですが、これからは温室効果ガスの削減が大きな政策目標ですね。政策転換をした以上、税も消費ではなく化石燃料、炭素にかける。増税ではなく、転換ということです。イノベーションすることで炭素を減らせれば経済的にもプラスになり、税の導入によって大転換を起こせる。やはり経済界からの抵抗が大きいのは事実なので、そこはきちんとやる必要があります。

原子力発電と化石燃料

江守:構造転換は可能だし必要だということでは皆さん一致されていますね。では、最終的に再生可能エネルギーに移行するとして、その道筋で原子力発電をどれくらい使うのか、また化石燃料については、資源が残っていても使わないという見通しでしょうか。

若松:化石燃料の使用が温暖化を引き起こしているという認識を共有すべきですね。

鈴木:すべてはエネルギーの供給方法にかかっているので、時間はかかるにしても川上から徐々に変えていく必要があります。ただ、100年後にも化石燃料を使うといったことはありえません。そのためにはイノベーションを加速させていく仕組みが必要だし、カーボンプライシングで、それを後押しすることはできると思っています。

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水野:原発に関しては、安全に操業したとしても数万年単位で管理しなければならない高レベル放射性廃棄物が出ますから、後世に重大なツケを残すという倫理的な問題があります。とはいえ化石燃料を野放図に使うわけにもいかない。安いということで化石燃料に依存することを避けるためにも炭素課税などを導入して、人為的に高くする必要があります。大口排出者の電力会社や製鉄会社に排出量規制を設けるというのは統制経済になってしまうので難しいですが、彼らに化石燃料の消費を減らした方が得だよとインセンティブを与えて、その方向に誘導する方が良いと思います。

気候変動問題に政治が果たす役割

江守:今日うかがいたかったのは、温暖化問題について研究者同士が議論していて、「最終的な意思決定は政治家がするんだよね」となったとき、しかし政治家は長いスケールで地球規模のことを考えてくれるのだろうか、次の選挙の方が重要なのではないか、という疑問が出てくるわけです。それは結局のところ、選挙民自身が長いスケールでものを考えられていないことを反映しているのでしょうか。

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小杉:私自身50年間環境問題に取り組んできましたが、次の選挙のことだけ考えていたら、政治家としてやっていけないし、むしろ我々以上に世間の人は賢いですよね。

若松:政治家事務所として初めて環境問題のISOを取得したのは、15、6年前になりますが、選挙運動でも各家庭の冷蔵庫に張りつけてもらう環境家計簿というのを使いました。要は有権者とのコミュニケーションなんですね。環境は大事だって、みんなわかってはいるので、政治家がうまくコミュニケーションの中に取り入れていくことができれば伝わると思うのですが。

福山:私も初当選のときから温暖化問題に取り組んできました。有権者自身も、将来世代のために、なんとか政治に託したいと思っているはずです。そう信じてやり続ける、それが有権者とのコミュニケーションだと思っています。

水野:有権者は目先のことだけ考えていて、長期的な問題に関心がないというわけではないでしょう。ただ、業界団体との対立はありうるということです。やはり、野心的な削減目標は評判が悪いですね。もちろん、それに逆らったからといって落選するわけではありませんが。

鈴木:日本国内では、民主的な政策運営で進んできていると思っています。これから考えなければならないのは、国際政治の中でどうやって交渉するのかという、全世界での合意形成。さらに中国やアメリカなど、それぞれの国の中での合意形成をどのようにやってもらうのか。そこでの民主的なプロセスが問われることになるでしょう。

今後の展望について

江守:最後に今後の展望についてお聞きしたいのですが、やはり地球規模で環境問題について理念的に語れる国会議員の方は、多くはないのではないかと思うのです。他のプライオリティが高い議員がほとんどであるとして、この問題にどう取り組まれていくのかも併せてうかがえるでしょうか。

鈴木:たしかに、過去には理想的なことだけを言っているように見られて、結果的には排除されたようなケースもあったと思います。ただ、地球環境問題に取り組むことイコール経済の抑制とは限らないという共通感覚は出てきていると思います。日本は環境技術が高いですから、実はそこが成長戦略の柱なんです。環境をやっていこうという人と経済をやっていこうという人が、うまくマッチする可能性もあるはずです。

もう一つは、我々も数字に基づいた話をしなければならなくて、削減量にしても、どの技術でどのくらい対策が進むのかといったことも数値化する必要がある。おそらくどの国でもネックになるのは、ファイナンスと技術とやる気です。技術はイノベーションする、ファイナンスは途上国の場合、先進国から導入するとして、問題はやる気です。ここをどうするか。日本国内だけでなく、世界規模で考えなければならない。

福山:IPCCが警告しているように、2050年までに、地球全体で温室効果ガスを半減、先進国は80%減しなければならないわけですよ。これはまさに時間との闘いであって、先進国は責任を持たなければならない。

異常気象発生によるコストはすでに発生していますし、CO2削減はすぐに対策の効果が出るわけではありません。IPCCのような科学のプラットフォームと国連のような政治のプラットフォームが両輪でマネジメントしていかなければならない。そういうトータルマネジメントが必要ということです。

早く目標を掲げて投資も進め、イノベーションを起こす必要があります。私は日本の目標値は低いと思っています。高い技術を持っている自覚を持って、目標値を上げて世界をリードしていってほしい。2030年までにCO2は30%削減、再生可能エネルギーは30%以上導入、原発の稼働率ゼロという一定の目標をつくって社会全体の構造変化を促すという役割は、やはり政治にしかできない。

水野:政治における重要な課題はたくさんありますから、以前は環境問題に関心のある議員は、そう多くなかったはずですが、最近では「この問題は重要である」という雰囲気になってきているように思います。

小杉:世界各国で環境問題は軽く扱われてきたんですね。80年代の終わり頃から変わってきたと思いますよ。政治家の役割は、科学者の意見や数値をもっと重視して、予算をとったり、法律をつくったりすることです。そのためにもステークホルダー同士のコミュニケーションが必要です。

鈴木:いまは、都市のサイレントマジョリティは、道路をつくることよりも環境問題に興味がありますしね。

小杉:やはりCOP21が今年最大のイベントですね。京都議定書のときに抜けてしまった最大排出国の中国とアメリカや、義務を負わないとしていたインドが参加する方向になったのは、歓迎すべきだと思います。

江守:今日はありがとうございました。

*環境省環境研究総合推進費課題S-10の研究活動として実施した。

協力:上田尋一

執筆:小池晶子 撮影:福士謙介

編集:青木えり、江守正多、高橋潔

東京大学 未来ビジョン研究センター 教授

1970年神奈川県生まれ。1997年に東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に勤務。同研究所 気候変動リスク評価研究室長、地球システム領域 副領域長等を経て、2022年より現職。東京大学大学院 総合文化研究科で学生指導も行う。専門は気候科学。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次および第6次評価報告書 主執筆者。著書に「異常気象と人類の選択」「地球温暖化の予測は『正しい』か?」、共著書に「地球温暖化はどれくらい『怖い』か?」、監修に「最近、地球が暑くてクマってます。」等。記事やコメントは個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。

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