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ノーベル物理学賞の日本人受賞に対する中国ネットの反応

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

ノーベル物理学賞の日本人受賞に対する中国ネット空間の反応

昨日日本人科学者3名がノーベル物理学賞を受賞したことに関して、中国のネット空間では実に興味深い一般ユーザーのコメントが現れた。中国の若者たちの赤裸々な心情が見えるので、削除される前にご紹介したい。

中国共産党系および中国政府系メディアは、案外と客観的に淡々と、しかも非常に詳細に日本人科学者3名の受賞内容を紹介している。ところが一般ユーザーの書き込みがすごいのだ。

まず「新浪科技」(http://tech.sina.com.cn)から見てみよう。興味深いコメントを列挙する。

●四川:(中国って)人材を必要とするのかい? 「奴才」がいれば、それで充分なんだろ!

(筆者注:「奴才」とは、「奴隷根性の人」という意味で、ここでは「中国共産党にひれ伏す人」とか「中国共産党を礼賛したり、へつらったりする人」という意味である。)

●北京:それ(奴才)こそは、われらが党が最も必要とする教育成果だ。だから党に言わせれば、党は大成功をしているのさ!

●広東:中国は「奴才」を重視するだけで、「人材」なんか重視してやしないさ。お役人は庶民を言葉で騙して「大虎」を叩き、どうせ猿と戯れているだけさ。

●上海:中国はなんでも、「経済の科学者が不動産を発明した奨」を出すんだってことだよ。

●黒竜江省:日本の科学技術の発展は、中国の50年先を行ってるよ!軍事装備は20年先!文化の素質(民度)は30年先!身長は中国人より平均で0.3メートル高い!食品や農業は20年先を行ってる!

●北京:日本人が中国人より背が高いだって? お前、何まちがえてんだよ!

●安徽省:まちがえてないよ! だって日本人はここ20年間、毎日子供たちに牛乳を一袋ずつ飲ませていただろ? だというのにわれわれ中国人が飲んでたのは「三鹿(メラミン入り毒牛乳)」なんだぜ!

●山東省:おまえんち、まだあの「三鹿」飲んでのかよ!

これらのコメントのやりとりが延々と続いて何千にも達するので、別のページを見てみよう。

同じく「新浪」だが、今度は「財経」の微博(マイクロブログ)。

●中国で自慢ができるものと言ったら「横店」くらいじゃないか?これなら日本に戦勝することができると思うよ。

(筆者注:「横店」とは浙江省にある映画村で、映画撮影のためのあらゆる時代や場所のセットがあり、ハリウッドを超すと中国人は言っている。)

●いや、(この受賞は)実に凄いよ。心から尊敬してしまう。

●へん! なにを言ってるんだい! 俺たちは彼らを手で裂けるんだぜ!

(筆者注:中国で制作されている「抗日戦争」の映画では、手で日本軍を引き裂く場面があり、あまりに荒唐無稽なことから、逆に中華民族が命がけで戦ったことをからかっているとして制作を抑制するよう、指令が出たばかりだ。そのことを皮肉ったもの。)

●それにしても、こんな大きなことなのに、「五毛」の奴ら、いやに静かじゃないか。

(筆者注:「五毛」とは「中国政府のためにわずかばかりの報酬をもらって中国政府や中国共産党を礼賛するコメントをネットで書く人たちのこと」。一般ユーザーに成りすましているが、だいたい見抜かれる。)

●やつら(日本人)には「三つの自信」がない、俺たちにはある! だらか必ず奴らが負け、俺たち(中国)が勝つ!

(筆者注:「三つの自信」とは2012年の第18回党大会で宣言された「中国の思想路線に対する自信」「理論性の高さに対する自信」および「社会主義制度の素晴らしさに対する自信」の三つを指す。これも、それを皮肉ったコメントと考えていいだろう。)

●日本とインドの物理学研究と科学のレベルは、米英に匹敵しているか、それを越えている。中国の科学研究は「現在の政治体制」から脱却しない限り、これを突破するのは困難だと思うよ。

●お前はあの「鬼子(グイーズ)」(日本の鬼畜生)を賞賛しようというのか!!! 五毛の目から見たら、お前など日本の鬼で、売国奴だ! 売国奴が党を率いていくというのか!

だんだんと激しくなって論理性が見られなくなってきた。

しかしこれらのコメントの中に、中国の若者たちの心情が如実に表れていて興味深い。彼ら自身が葛藤しているということが、良く見えてくるので、一部をご紹介した。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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