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中国赤珊瑚密漁船名から何が見えるか?

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

中国赤珊瑚密漁船名から何が見えるか?

中国の赤珊瑚密漁船の数は200隻を超え始めた。これら密漁船は主として浙江省や福建省から来ている。その船名の「見分け方」と、そこから何が見えるかを今回はご紹介する。

中国における船名の付け方

まず中国における船名の付け方は、主として以下のようになっている。

●一文字目:最も大きい行政区画(直轄市名や省の名称など)の名称。

●二文字目:その行政区画の中の小さな行政区画(市、県などの港町)の名称。

この部分は2文字使っている場合もある。

●三文字目:漁業であることを示す「漁」という文字。

●四文字目:必要に応じて漁業の中の細分化された業務名「運(運搬)」や「養(養殖)」など。

●3文字~4文字以降に番号:車のナンバープレートのような番号(2桁~5桁)。

中国語ではこれを「船号」と称する。

以上が基本的な構成だが、一文字目と二文字目は、日本語でも「船籍」という言葉があるように、「船舶名簿に登録された、船舶の所在地を指す籍」のことである。その船籍が出航する港名を「船籍港」と日本語でも言うが、二文字目は、この「船籍港」を指している。

それ以外にも各最初の文字の行政区画に「中国漁政」という4文字のあとに番号のみが書いてある船名もある。これは公営の船であることを示している。

偽装船は「中国漁政」を名乗るわけにはいかないので、それ以外の数多い船名を用いて偽装工作をしている。

浙江省の場合、たとえば「浙洞漁運12345」だと、「浙江省」の「洞頭」という港町の人民政府から許可を得た「漁業運搬船」で許可ナンバーは「12345」である、という意味になる。この「運」という文字がない場合、たとえば「浙洞漁1234」だと、「浙江省」の「洞頭」政府から許可を得た漁獲船で、許可ナンバーは「1234」ということになる。

次に多い福建省の場合は、福建のことを一文字で「▲(▲:門の中に虫)」(びん)と書くので、「▲霞漁運678」などがある。これは福建省の「霞浦」という港町の人民政府から許可を得た「漁業運搬船」で許可ナンバーは「678」ということになる。

「運」という文字がない「▲霞漁678」の場合は、「福建省」の「霞浦」政府が許可した漁獲船で、許可ナンバーは「678」ということになる。

江蘇省の場合だと、最初の文字は「蘇」である。

山東省の場合は、最初の文字は「魯」などと、それぞれ中国独特の昔から用いられている、その行政区画に相当する文字を当てるという規則になっている。

偽装船の船名から見えてくるもの――「三無船舶」を取り締れ!

このたび、小笠原諸島周辺に密漁に来ている船の最初の文字はほとんどが「浙」か「▲」なので、密漁船は浙江省あるいは福建省から来ていることが分かる。

福建省は、現在の習近平国家主席が1985年から2002年までの17年間にわたって治めていた地域であり(最後の身分は副書記)、浙江省は2002年から2007年まで書記として治めていた領域だ。

この二つの省からの密漁船が最も多いとなると、習近平は本来なら「世界に向ける顔がない」はずである。

そのためか、日本のメディアで大々的に報道されていることと、何よりも6億を越えるネットユーザーの多くが「この密漁は中華民族にとって恥ずべき行為だ。日本はもっと厳しく取り締まってほしい」と書いていることも手伝って、中国政府は取締りに必死になってきた。

たとえば浙江省台州市の2014年9月18日付「台州日報」は、「温嶺市はすでに95隻の“三無船舶”を解体した」という見出しで、不法漁獲行為に地方政府がいかに真剣であるかを誇示している。453名の乗組員も同時に逮捕したそうだ。

「三無船舶」とは「船名船号が無い」、「船舶証明書が無い」そして「船籍港名が無い」の「三つの無い」を指す。

「三無船舶」の場合は、不正漁業をしていることはひと目でわかる。逮捕もしやすい。

問題は、すでに登録されている船名と、適宜付けた船号で偽装船の改装作業を行っていることだ。

船籍はたとえば浙江省なら数十種類あり、各「漁」で終わる船と「漁運」で終わる船があり、そこにそれぞれ船号が付くので、種類の数はなかなか数えきれない。筆者はそれをすべて数えあげてみようとしたが、とめどないので途中でやめた。

つまり、それくらい多いので、当局の目をごまかしやすいということである。

船号はまったく偽の番号を付けていることもあれば、実は一つの船を登録する際に複数の船を製造しておいて、その船と船名船号を高く売るという商法もある。

中国の各地方政府当局の取締りが追い付かない状況だ。

中国の中央テレビ局CCTVは、「 福建省の警察が赤珊瑚の違法捕獲と売買をした犯人を検挙した」という見出しで、赤珊瑚密漁に対して中国政府が戦っている現状を報道している。密漁先がどこかに関して明言していないところが、どうもずるいというか、「後ろめたさ」の表れだろう。

最近では、密猟者を見つけて当局に通報した者には賞金を与えるという通知までが関係する港町で散見されるようになった。まもなく北京で開催されるAPEC首脳会談を前にした習近平主席の焦りを表している。

前回と同じことをもう一度言うが、海上保安庁の人員と船艇の補充だけでなく、日本は密猟者が「採算が合わない」と思うくらいに処罰を重くすべきだ。

また、国家の外交問題として中国に激しい抗議をし、それを国際社会に大々的に発信していかなければならない。APEC首脳会談を前に、安倍首相の緊急なる英断を期待したい。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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