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令計画の「西山会」――習近平が批判した「党内利権結託」の正体

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

令計画の「西山会」――習近平が批判した「党内利権結託」の正体

昨年末の中共中央政治局会議で、習近平は「党内利権結託」を批判したが、それは山西省籍の者だけの入会を許す「西山(せいざん)会」を指す。失脚した令計画が、2007年から胡錦濤の膝元で主として中共中央委員を相手に作っていた。

◆「西山会」とは何か?

西山会とは、令計画が2007年から秘かに創った仲間内の「官商聯盟」的な秘密結社で、基本的に山西省の戸籍を持っている者だけが入会を許される。

令計画は2007年の第17回党大会で中共中央委員に選出されたが、それ以降、「中央に権利を持ち、山西省で利益を拡大すること」を目的として、山西省仲間に呼びかけた。

活動場所は主として中央権力が集中している北京だが、何か固定の会所があるわけではない。

令計画が連絡して、3カ月に一回ほどの割合で開催していた。

その秘密結社には、会員の秘書も参加してはならないので、令計画が配車した豪華な車が会員宅に迎えに行く。携帯さえも令計画が預かる。それくらい「闇」の世界だ。

山西省の特定の党幹部が特定の非山西籍の党幹部あるいは商人と結託することによって、さらなる利益を得られると令計画が判断した場合は、山西省籍でなくとも、山西省籍の会員の推薦により特別に入会を許される。入会の可否は令計画が判断する。

山西省はもともと石炭の街。今では中国のエネルギー源の一つである電力閥の棲家(すみか)だ。腐敗の温床でもある。

これはちょうど、唐王朝末期の「牛李闘争」(808年~846年)(牛僧孺を党首とした牛党と李徳裕を党首とした李党との間の闘争)から始まった「権力と商人および暴力団」などが絡んだ「幇」(バン)に似ており、中華文化に深く深く根を下ろしている。清王朝の時代には「青幇」(チンバン)や「紅(洪)幇」(ホンバン)として活躍した「幇」の性格を帯びている。いずれの王朝においても、王朝の滅亡につながっているのが特徴だ。

令計画は胡錦涛政権の後半(第二期)である2007年9月に、中共中央弁公室主任として胡錦濤前国家主席の秘書役を務めていた側近中の側近。胡錦濤の全幅の信頼を得ていなければ就けない職位だ。

だから令計画の息子のフェラーリ事故隠ぺいを知った胡錦濤は、驚愕したという。胡錦濤は本当に、それまで知らなかったようだ。

習近平国家主席は、2014年12月22日に令計画の取り調べを公表した際、おおむね次のようなスピーチをしている。

――党内では絶対に封建時代の結託を再現してはならない。仲間を呼び寄せて徒党を組み、特定の仲間だけしか入場できないチケット(原文:門票)を出すような、あの封建時代の状況を再現してはならない。党内では全ての党員が平等に取り扱われ、平等に権利を持っていなければならない。

このようなスピーチをしたのは、そうしなければ、これまでの歴代王朝時代と同じように、必ずその「王朝」は滅亡するということを、習近平も知っているからだろう。

中国共産党が支配する中国(中華人民共和国)とて、その例外ではなく、まだ誕生して65年しか経ってない「王朝」の一種とみなすことができる。

「紅い皇帝」習近平が怖がっているのは、この腐敗の温床となる「官商グループ」によって、「紅い王朝」が滅びることである。

この本筋を見極めず、未だ習近平の「権力闘争」とか、「江沢民派をやっつけた後は共青団」で、これにより権力基盤を固めたといった解説は、あまりに中国の真実から遠い。

◆西山会の主たるメンバー

西山会の主たるメンバーは令計画の妻・谷麗萍(京都に豪邸。商売人。すでに逮捕)、兄の令政策(前山西省政治協商会議副主席、2014年6月落馬)、弟の令完成(ゴルフ界商人、妻は中央テレビ局CCTVのキャスター。現在取り調べ中なのか、消息不明)などの「令ファミリー」を中心として、すでに(2年の執行猶予付き)死刑判決を受けている鉄道閥のトップだった劉志軍(鉄道大臣。石炭閥でもある)や劉志軍を陥れた山西省の女商人で、すでに監獄にいる丁書苗(石炭おばさん)、あるいは劉鉄男(元発展改革委員会副主任&元国家エネルギー源局局長、山西省人。2013年5月落馬、無期懲役)、申維辰(元中国科学技術協会常務委員会副主席、山西人。2014年4月失脚)……などがおり、数え上げればキリがない。すべてすでに失脚している。

劉志軍が西山会に入会できたのは、石炭と鉄道が密接に結びついていいたらかであり、鉄道閥は「エネルギー源=動力」という意味において、その後の電力閥と連続的につながっている。

ただし劉志軍の逮捕により鉄道閥は散り、中央行政省庁の一つで「独立王国」と称されていた腐敗の温床、鉄道部はすでに解体された。

つぎの腐敗の温床、石油閥も、石油男・周永康の逮捕により、一応終わりを告げた。

習近平がいま斬りこんでいるのは、山西省に根城を置く電力閥だ。

本命は元国務院総理(首相)だった李鵬の「李鵬ファミリー」だが、ここに斬りこむ前に、周りから片づけている。その中に共青団がいようと何閥がいようと、その系列には関係ない。要は電力閥が形成する腐敗の温床を切り崩すだけである。

その中に封建時代の「幇」を彷彿(ほうふつ)とさせるような官商の徒党「西山会」を探り当てたので、昨年末(2014年12月29日)の中共中央政治局会議は、これに関して警告を発したのである。

西山会と周永康との関連はなかったのだが、2012年3月の令計画の息子のフェラーリ事故隠ぺいにあたり、令計画が当時まだ中共中央政法委員会(公安・検察・司法を管轄)の書記をしていた周永康に隠ぺい工作を頼んだことから、令計画と周永康の二人の間に利害関係が生じた。

事実の流れと、いま習近平が何をしようとしているのか、その正体を見極めなければならない。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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