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香港デモ、背後にAIIBの米中暗闘――占領中環と全米民主主義基金NED

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

昨年起きた「雨傘革命」には複数の流れがあり、その内の占領中環(オキュパイ・セントラル)運動の背後にはアジアインフラ投資銀行AIIBをめぐる米中の暗闘があった。その動かぬ証拠(動画)をご紹介する。

昨年9月末、香港特別行政区長官の民主的な普通選挙をめぐって、香港の若者たちが中心となって抗議運動が起き、警察側の催涙スプレー攻撃を雨傘で避ける姿から「雨傘革命」と呼ばれるようになった。

この雨傘革命に関して、筆者は学生たちの授業ボイコットという下から自主的に立ちあがった運動要素と、占領中環(オキュパイ・セントラル)運動の間には、微妙な温度差があると、2014年12月8日付本コラム「香港デモ学生とオキュパイ派(占領中環)との温度差」 で書いたが、その証拠を見つけてしまった。

中環というのは香港の金融街がある街路の名前で、占領中環は「金融街を占拠せよ」という意味を指す。

これは2011年9月17日、アメリカ、ニューヨーク市マンハッタン区にある金融街ウォールストリートで起きた「オキュパイ・ウォールストリート(Occupy Wall Street)」(金融街を占拠せよ)という抗議運動の流れを引くものだ。このことから筆者は『香港バリケード  若者はなぜ立ち上がったのか』を執筆する時点(昨年末)で、ある動画を見つけたのである。

それはオキュパイ・セントラル運動の発起人の一人である香港大学法律学系准教授・戴耀廷(1964年~)(ベニー・タイ)の元上司・李柱銘がアメリカの全米民主主義基金(National Endowment for Democracy(以下、NEDと略称)の地域副理事長であるルイサ・グレーブ(Louisa Greve)とともにオキュパイ・セントラルに関して開いているトークショーの動画だ。

李柱銘(1938年~)(マーチン・リー)は香港の民主党の創設者で、オキュパイ・セントラル運動の発起人・戴耀廷は、かつて李柱銘が率いる民主党本部で秘書として働いていた。香港大学の先輩後輩にあたる仲でもある。

NEDは1982年にレーガン政権により「アメリカ政治財団」の研究による提案という形で設立が決定された組織で、それまでCIA(Central Intelligence Agency、アメリカ中央情報局)が非公然でやってきたことを公然とやる目的をもったものである。

アメリカ国務省から資金を受け、国際共和協会(International Republican Institute:IRI)、全米民主国際研究院(National Democratic Institute for International Affairs:NDI)、国際民間企業センター(Center for International Private Enterprise :CIPE)、米国国際労働連帯センター(American Center for International Labor Solidarity :ACILS) の4つの組織の内のいずれかを通して資金を分配している。

NED は毎年米国家予算から資金提供を受けている。そのうちには国務省の米国国際開発局(United States Agency for International Development:USAID) 向けの予算も含まれているが、非政府組織の扱いを受けている。2004年9月の会計年度における NED の歳入は8,010万米ドルであり、そのうち7,925万米ドルが米国政府部局から、60万米ドルが他の寄付収入などであった。

2014年4月2日、李柱銘と陳方安生(アジソン・チャン)(香港政府の元政務司司長、女性)はワシントンでNEDの地域理事長ルイサ・グレーブ(Louisa Greve)とともに、1時間にわたるトークを行っている。

トークのタイトルはWhy Democracy in Hong Kong Matters(なぜ香港の民主主義が重要なのか?)である。

香港側の二人は、NEDにオキュパイ・セントラル運動の性格、狙いや要求などを説明している。

このトークショーで、李柱銘氏は「中国本土を、香港にもともとあった欧米流の機構や法律あるいは権益で染めること」が香港の役割だと強調している。

香港側の二人は、「中国が香港をどのように統治していくかに関して、中国は世界の目を気にしているので、いまオキュパイ・セントラル運動を展開することは、北京から譲歩を引き出すチャンスになる」という趣旨のことを述べている。

これほど決定的な映像はまたとないほど、大きな衝撃を与える。

もう、問答無用だろう。

中国中央はよくスパイを使って「やらせ」をやり、金で買った「敵」に「中国に有利な真実」を吐かせるという手法を取るので用心しなければならないが、しかし、「肉声と映像」は、否定のしようがない。

この動画をスクープしたのは、Land Destroyerというウェブサイトのトニー・カルタルッチ(Tony Cartalucci )で、そのスクープ映像のURLはhttp://landdestroyer.blogspot.jp/2014/10/entire-occupy-central-protest-scripted.html で、公開された日時は2014年10月5日である。

問題は、なぜNEDがこのようなことをしたのかということだ。

実はアジアインフラ投資銀行の覚書が2014年10月24日に、北京で開催されるAPEC首脳会談を前に交わされようとしていた。

習近平政権は国際金融のセンターをアメリカ(ワシントンとニューヨーク)から中国(北京と上海)に移そうと、2013年から動いていた。

しかし民主と自由のないところに国際金融センターは成立しない。

そのことをアメリカは「香港」という、中国の管轄下にある国際金融都市の現状をアピールすることによって世界に見せつけたかったのだろう。

1997年に香港がイギリスから中国に返還されて以来、香港では民主と自由を求めて中国中央政府への抗議運動が絶えたことがない。一国二制度で香港の自治を約束しながら、実際は香港特別行政区基本法の改正権と解釈権が全人代(全国人民代表大会)常務委員会にあるという法的事実を行使して、香港の自治は年々蝕まれている。

このように中国の傘のもとにある限り、香港でさえ国際金融都市としての機能を失ってしまうのだということを立証し、アメリカとしては何としてもAIIBが成功するのを阻止したかったものと思われる。

明日3月31日、このAIIB創設国の申請申し込みの期限が締め切られる。

現時点で40カ国が参加しているようだ。G7を構成する西側諸国もロシアも韓国も陥落してしまった。

日米だけはまだ踏み止まっており、運用の透明性を理由に参加を見合している。

どこまで頑張ることができるのか。日米の動向に目が離せない。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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