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G7会談でなぜ海洋安全問題共同声明?――中国、日本を批判

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

4月16日、ドイツで開かれたG7外相会談で、東シナ海や南シナ海に関する共同声明を出した事に対して、中国が「経済金融を討議するG7が海洋安全に関する共同声明を出したのは40年来の歴史で初めてだ。日本の秘かな策略」と非難。

◆G7外相会談共同声明

4月16日(現地時間15日)、ドイツのリューベックでG7先進7カ国の外相会談が開かれた。日本からは岸田外務大臣が出席し、東シナ海や南シナ海で中国が海洋進出の動きを活発化させていることなどを踏まえ、「現状変更や緊張を高める一方的な行動を懸念し、力などによるいかなる試みにも強く反対する」などとした共同声明を発表した。

それによれば、「大規模な埋め立てを含め、現状を変更し、緊張を高める、あらゆる一方的な行動を懸念し、力などによるいかなる試みにも強く反対する」としている。

AIIB(アジアインフラ投資銀行)に関しては共同声明には盛り込まず、「公正な統治の確保が重要」「情報の共有などで連携」といった共通認識を持つことに留めている。

会談に参加した岸田外務大臣は、厳しさを増すアジアの安全保障環境について自ら議論をリードしたとして、「存在感を示すことができた」と記者団に語っているが、中国はむしろこの点を取り上げて、激しく日本批判を展開している。

◆新華網が「日本の策略によりG7にゴリ押し声明」

中国政府の通信社である新華社のウェブサイト「新華網」は、4月17日、強推七国集団声明 日本暗蔵心機(日本の秘かな策略により、G7にごり押し声明を出させる)という見出しで、日本を批判する記事を出している。その内容に沿って、中央テレビ局CCTVでも、全く同じタイトルの番組を特集し、17日に報道した。

その概要をご紹介する(用語は中国の報道に準じる)。

――周知のように、G7は主として経済問題を討議するクラブである。だというのにドイツのリューベックで開催されたG7外相会議は、なんと東シナ海や南シナ海に触れた「海洋安全問題」に関する共同声明を出したのだ。これは40年来の歴史の中でも、初めてのことである。

これを言い出したのは日本で、そのために日本は大量の裏工作をしていることを、新華社の記者は発見した。日本はなぜ、そのようなことをする必要があるのか?その政治的外交的手段の裏に隠れている狙いを見てみよう。

日本の某外務省高官が明かしたところによれば、「日本はG7の中の唯一のアジアのメンバーだ。もし日本が言い出さなかったら、いったいどの国が海洋安全問題に関して文書を出すことを、G7国に対して説得できるだろうか?」とのこと。

なぜG7が海洋安全問題を議題として討論しなければならなかったかに関して、議長国ドイツのシュタインマイヤー外相は記者会見で「来年のG7サミットの議長国として、日本は今後数年内の議事日程にこの議題を出すことに対して非常な関心を持っているからだろう」と述べた。

なぜ日本がこんなにまで海洋安全問題を気にしているかに関する解答を見つけるには、まずは「海洋安全に関する声明」を読んでみなければならない。

すると海上通商とか密輸密入国あるいは海賊、生物多様性などという、わざわざ声明を出すには及ばない内容以外に、「われわれは継続して東シナ海や南シナ海の情勢、特に大規模な埋め立てなどによる緊張の増加や一方的な現状変更の試みに注意を払う。威嚇や脅迫、および武力による領土あるいは海洋の拡張に対しては、断固として反対する」とある。

そして今年の終わりごろに海洋安全問題に関するG7ハイレベル会議を開くと謳っている。

これは明らかに日本がG7を引きずり込んで中国に圧力を加えようとしていることが見て取れる。G7の力を使えば、中国にかける圧力が大きくなると、日本は思っているのだ。

しかし残念ながら、G7の影響力は近年ますます下がっており、特に最近では、G7はすでに一枚岩ではない。同盟国としてのメンツを配慮し、海賊退治などの内容があるので日本に同調する形を取りバランスを考慮しているが、(日米以外は)日本のために東シナ海や南シナ界における立場を鮮明にしたくないのがG7諸国の本音だ。どの国も日本の権威を認めてはいない。

◆AIIBに加盟しているのだから、とまでは言わないが…

「なぜなら、G7諸国の多くは中国が主導するAIIBに加盟しているのだから」とまでは、さすがに書いてないが、行間を読めば明らかに「G7という虎の威を借りようたって、そうはいかない。今はもう通用しないんだよ。日本の味方をする国は(アメリカ以外)、もういない」と中国は言いたいのだということが伝わってくる。

記事もテレビも、「日本の安倍首相は至るところで中国を悪しざまに言って、あたかも日本が被害者であるようなことを言い、日本は国際法と国際規則を守っている国であるかのように宣伝している」としている。まるで、「もうどの国も、日本ではなく、中国を高く買っている」と言わんばかりだ。

AIIB加盟国の多さを盾に、今後もこの手の視点からの日本批判が続くことが予測される。日本はそれを踏まえて、国益を損なわない外交戦略を練っていくことが求められる。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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