Yahoo!ニュース

ADBとAIIBの違いと展望――AIIBは「一帯一路」とペア

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

ADBの年次総会で麻生財務大臣は、資金規模やスピードなど、大胆な組織改革を求めた。一方、中国の楼継偉財政大臣はAIIBとペアで動く「陸と海の新シルクロード経済構想(一帯一路)」への参加を呼び掛けた。ADBとAIIBの違いと展望を見る。

◆麻生財務大臣が呼び掛けたADB(アジア開発銀行)の組織改革

5月4日、麻生財務大臣はアゼルバイジャンの首都バクーで開かれていたADB年次総会で演説をした。それによれば、「ADBは多面的かつ大胆な組織改革を行って、十分な職員と運営資金源を確保する」あるいは「事業量や、民間向け支援の拡大を歓迎する一方、大胆な組織改革を求める」とのこと。

中でも注目されるのは、「インフラ投資促進のために、Quality Infrastructure Investments(質の高いインフラ投資)、つまりアジアに中長期的に望ましい成長をもたらす、良質なインフラ投資を促進するための、新たなイニシアティブを推進する」と宣言したことである。

中国ではこのことを以て「AIIB(アジアインフラ投資銀行)の存在がADBを内部改革をせざるを得ないところに追い込んだのだ」と、まるで勝利宣言のような報道をしている。

ADBはこれまで主としてアジア開発途上国における貧富の格差の改善と経済発展に力を注いできた。そこで、創設当初から中国は「AIIBは既存の(ADBなどの)組織と競合するものではなく、補完するものだ」と言ってきたのだが、その際「ADBは貧富の格差削減を、AIIBはアジアのインフラ建設に主力を注ぐ」と「補完」を具体的に線引きしていた。

しかしこのたび、麻生財務大臣が「良質なインフラ投資を促進するための、新たなイニシアティブを推進する」と宣言したことにより、AIIBがADBを改革へと追い込んだのだと、「中国の力の大きさ」を強調しているのである。

ADBはまた年次総会で、「開発途上国の出資比率にも配慮すること」や「融資審査のスピードを改善すること」あるいは「融資枠を1.5倍に拡大すること」などを決定した。 

日本ではADBが存在感を示したと報道されているが、中国にとっては、「中国がAIIBを創設したために、ADBがやっと反省して改革せざるを得ないところに追い込んだのである」と見ているのが、おおかたの報道である。

◆AIIBは一帯一路とペア――ADBとAIIBの決定的な違い

ADBが日本(日米)主導で、AIIBが中国主導だと言っても、実は構成メンバーはほぼ重なっている。

ADBの加盟国・地域67のうち、42カ国はAIIB加盟国だ。

非AIIB国の方が少ない。

ということは、協調も何もないように見えるが、実は決定的に異なる点がある。

それはAIIBには中国の国策である「一帯一路」戦略がペアで存在しているということだ。

中国がAIIBを創立した動機には、既存の国際金融組織は中国の経済力に見合った出資比率を許さなかったということが第一にあるが、それ以外に大きな理由として中国の国内事情がある。

前にも述べた「生産能力過剰」とも関係してくるが、実は、リーマンショック後に成長し過ぎた生産能力あるいは生産物を購入してくれる国と中国とを結ぶ「物流の道」が不可欠なのである。

陸の新シルクロードであれ海の新シルクロードであれ、そこに至る物流手段を構築しなければならない。インフラ整備が整わないと、中国としては「新しい市場」が開拓できないのである。

そのため高速道路や高速鉄道を建設し、港湾を構築する。

それが一帯一路であり、中国のための一帯一路を支えるのが「アジアインフラ投資銀行」AIIBなのである。

だから日本はインフラ建設と言っても電力設備を重んじ、中国は道路や鉄道、港湾を重視している。

日本はアジアの開発途上国を、相手の国のために支援しようとしている。立派な心がけではある。

しかし中国は一帯一路の沿線国を「運命共同体」と位置付けながら、中国自国の発展を狙っている。もちろん運命共同体である一帯一路沿線国の繁栄も同時に図る。しかし「人助け」をすると同時に「自国を助ける」組織がAIIBだ。

ここがADBとAIIBの決定的な違いである。

中国の方が「したたか」なのである。

今年2月3日、中国政府は「一帯一路支持国が60近くに及んでいる」と発表した。

AIIB加盟国が最終的に57国になったと発表したのは4月15日。

つまり、AIIB加盟国を決定する前に「一帯一路支持国」を取り付けている。そしてAIIB加盟国の域内国は、すべて一帯一路支持国なのである。それら支持国も、もちろん自国の利益のために必死だ。

日本のメディアは、アゼルバイジャンにおけるADB年次総会で日本が存在感を示したと、まるでコピペのような報道を一斉にしている。

そしてAIIB加盟国はまだ出資比率を決定しておらず、「早くもつまずきか?」といった「(AIIB失敗への)期待感」をのぞかせている。

気持ちは分かるが、現実を冷静に見た方がいいだろう。

それが出来ずに、習近平の反腐敗運動を権力闘争だと大合唱した日本のマスコミと一部の(ほとんどの?)中国研究者は、「紅い皇帝」が何を狙っていたのか、そのしたたかさを見抜けぬままに、AIIBの参加国申請締め切りを迎えたのを、もう忘れたのだろうか――?

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

遠藤誉の最近の記事