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上海株8%急落の原因

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

上海株価指数の一日の下げ幅が2007年以来最大となったが、その原因の一つは雑誌『財経』が載せた中国証券管理監督委員会(証監会)に関する記事にあった。それを見た投資家が動揺。証監会は火消しに必死だ。

◆『財経』が載せた記事の内容

7月20日、信用の高い雑誌『財経』は、デジタル版で中国証券管理監督委員会(証監会)が「安定を維持させるために(株式市場に投入した)資金を、そろそろ市場から引き揚げる方案を考えている」という趣旨の発言をしたという記事を載せた。

そこには概ね、以下のような方案が書いてあった。

――このたび(7月上旬)株式市場を救い安定させるために巨額の資金を投入したが、 今はどのようにしてこの巨額の資金を引き揚げて市場を正常な状態に戻すかが検討課題となっている。何兆にも及ぶ資金が持っている株を、どのように処置すればいいのか?どのようにして安定的に穏やかに市場から引き揚げるか?『財経』の記者によれば、監督管理機構(証監会)は、その方案に着手することを始めているという。

雑誌『財経』はこの文章のあとに、具体的な資金引き揚げ策を延々と書いている。

細かな数値まで出しているので、誰でも本当だと思ってしまうだろう(ここでは、詳細は省く)。

◆股民(グーミン)(個人投資家)が動揺

この記事を知った股民(グーミン)(個人投資家)の間に、「政府はもう、これ以上は守ってくれないのではないか」という動揺が広がり、あわて自分の持っている株を売り始めた。それを見た他のグーミンは、「それなら大変!自分も早く売らなければ損をする!」とばかりに売りが売りを招き、一気に株が一日で8%も暴落するという事態になったわけだ。

これを知った証監会は驚き、「自分たちは、そのようなことを言った覚えはない!」と反論。すぐさま『財経』の記事から当該部分を削除するように要求した。

証監会のスポークスマンは、この報道に関して、以下のようにコメントしている。

――株式市場に対して大きな影響を持つメディアが、証監会の発言を載せるというのに、証監会に内容の正確さを確認せずに載せてしまうのは、実に無責任で、あってはならない行為だと思う。証監会としてはあくまでも株式市場を継続的に安定させ、人心の安定を図り、システマティックなリスクを回避することを目標として、全力で業務を遂行していきたいと思っている。

このように証監会は「中国政府が株式市場を救う気がない」という情報を必死になって否定している。

◆証監会と証金公司は中国政府の動向を知るアンテナ

証監会は株式市場が正常に運営されているか否かを管理監督するための機構で、中国政府から法律や体制面で株価の暴落を阻止する権限を与えられている。

また中国には中国証券金融公司(証金公司)という、証券会社向けの信用取引決済に必要な資金を提供する国営会社がある。

この二つが、タイミングを見ながら株市場に干渉をしていくしすてむになっている。

だから、中国政府の直接介入以上に、証監会と証金公司の動きに対して、グーミンは敏感に動く。

これらは政府の動向を敏感に察知するためのアンテナのようなものだからだ。

証金公司はすでに株価対策として4000億人民元(約7.8兆円)を投入しているが、グーミンに中国政府が下支えをして株市場を救うだろうことを信じてもらわないと、巨額を投入した効果は上がらない。

そのために、証監会と証金公司はよほど言動に気をつけていないと、一瞬で株市場を混乱させる要素を持っている。その悪材料を取り除こうと、証監会は必死だ。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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