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中国民主活動家の叫び――国家安全法は国の安全を守るためでなく、党の安全を守るためだ!

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

中国の民主活動家からメールが飛び込んできた。日に日に悪化する人権状況の中、治安維持が強化され、マグマのような不満をどこに持っていいか分からないとある。不安に怯える党には、誰でもが敵に見えるとのこと。

理論分析は省略して、今回は老練の民主活動家からのメールだけをご紹介する。

2014年11月4日付の本コラム「日中首脳会談――今はそれどころではない習近平」で解説したものと重なる内容があるが、彼独自の目線があるので、受信したメールをそのまま書き写す。

◆本当は孤立している中国

日本人がスパイ容疑で逮捕されたのを知りました。日本では驚いているようだけど、こんなこと、中国では日常茶飯事です。

中国政府はいま内憂外患で、本当は孤立しているんです。

なぜなら、中国の側に、精神的に本当に立とうという国はいないでしょう?金では惹きつけていても、本当の盟友はいない。

中国政府から「一つの中国」理論を強要されて、多くの国は認めているけれど、それなら肝心の香港や台湾は、どうだろうか。香港の若者は一国二制度における行政長官の選挙法に関して大陸の干渉を嫌い、台湾の若者たちは大陸とのサービス貿易協定で台湾人の精神が汚染されてしまうのを嫌って、「ひまわり運動」を起こしました。

そのため中共寄りの国民党政権が(2014年の統一地方)選挙で惨敗したので、来年の総裁選では、きっと独立志向の民進党が勝つだろうと、中共は気が気ではないのです。台湾には自由な民主的選挙があるから、台湾人は自分の意志で中共寄りの議員を排除しました。これにより、これまで中共がつみ重ねてきた台湾への懐柔路線が破たんしたのを思い知らされました。金だけでは、人の心は買えません。

その結果、中共は、これは海外(主としてアメリカ)の民主化団体が香港や台湾を応援しているからだと思って、やっきになって反スパイ法を制定しました。

これにより誰でも彼でも、少しでも疑いのある者は逮捕できる状態になったわけです。

軍事パレードのとき、私たちの仲間は「まるでヒットラー政権だ」といって批判しましたが、中共にとっては草木皆兵(草も木もみな敵兵に見える)なのです。中共の敵は「人民」なのです。

◆国家安全法は国の安全を守るのではなく、党の安全を守るため

中国は政治改革を進めると言っていますが、真っ赤なウソです。前に進んでいるのではなく、後退しているばかりです。貧富の格差は広がるばかりで、人権は日々悪化の一途をたどっています。

民衆の怒りはどこに向けたらいいのか分からず、国家安全法を新たに制定しても、それは国民の安全を守るものではなく、党の安全を守るために、人民の自由をさらに制限しているのです。

だから、人民の不満は爆発寸前の火山のマグマのように燃えたぎり、不安が募るばかりです。

でも、この不安感を人民よりももっと激しく覚えているのが中共中央だと思います。

中共は不安でならないので、さらに警戒を厳しくする。

その悪循環の中にいます。

新しく出された国家安全法の中には、非政府組織(NGO)の資金の出所を厳しくチェックする項目があります。私たちは貯金通帳を記帳して当局に提出しなければなりません。

そこにアメリカの民主化団体からの資金援助があるかないかと検閲するのですが、ないと分かると、今度はパソコンを調べたり、海外から戻ってきた人と会ってないか、いつも追跡されています。こういう不安な毎日の中にいたら、誰だって反逆したくなるでしょう?

中共はわれわれ人民の冤罪に関して、われわれが当局に訴えても、永遠に解決されないのに、「解決した」としてネットから訴えが削除されてしまうのです。

先日、公安部のネット安全を管理する部門の人が取材に応じて、政府はさらに詳細な実名制の法規を発表すると言っていました。

反スパイ法もそうですが、新しい国家安全法は香港や台湾で頑張っている若者たちだけでなく、私たち一般庶民にも恐怖を与えるものです。

もう一度言います。

新しい国家安全法は、国家や国民の安全を守るものではなく、中国共産党の安全を守るためにあるのです。

しかし、これが「国家の安全」につながるのか。

人民は、そういつまでも黙ってはいません。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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