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中台トップ会談は逆効果だった――国民党への支持率低下

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

中台トップ会談後、国民党の支持率が下がり、野党民進党への支持率が上昇している。会談そのものが与えた視覚的インパクトと、北京政府寄りの国民党に対する支持率は別物で、総統選には逆効果だったことが判明した。

◆トップ会談そのものへの関心と国民党への支持は別物

11月8日(12:41配信)の本コラム「中台トップ会談の結果――台湾国民は大陸を選ぶのか日米を選ぶのか?」では、11月7日夜に出た調査結果に基づいて分析したが、11月9日11:42に台湾で公表されたデーターと比較すれば、会談は逆効果であったことが明確になりつつある。

11月7日夜の時点では、台湾のYahoo奇摩のネットアンケート結果しか出ていなかった。したがって筆者はそのデータと台湾からの直接の声をお伝えした。それによれば68%がトップ会談自身に興味を示し、肯定的だったのは事実だ。

しかし、本コラムの読者で台湾の方たちから、「Yahoo奇摩は国民党寄りのウェブサイトだ」というご批判を頂いた。その傾向が若干あることは否定できない。

客観的に台湾のウェブ検索市場を見てみると、「Google台湾が50.5%」で、「Yahoo奇摩が48.3%」、中国大陸の「Baiduが0.1%」だ。Googleが中国当局による検閲を嫌って中国大陸から撤退したのは、まだ記憶に新しい。それに比べてYahooは、そこそこに大陸当局と妥協しながら経営しているので、本コラムの台湾人読者が仰る通り、台湾Yahooが北京政府に対して「やや妥協的」であるという傾向にあるのは否めない。しかしイデオロギー的色彩が非常に鮮明であるかというと、そうとも思えない。

Yahoo奇摩は2006年に「奇摩(kimo、キモ)ステーション」というウェブサイトをYahoo Taiwanが買収して誕生した検索ウェブサイトである。

筆者が前回のコラムでご紹介したアンケート結果は、「中台トップ会談自身をどのように評価するか」に関するデータだった。あの握手の場面自身は、当然、世界の耳目を集めたことは事実だろう。だから68%という数値をはじき出したものと判断する。

さらにYahoo奇摩の動きは素早かったので、7日の夜中に書いたコラムでは、そのデータを使用する以外になかったことをご理解いただきたい。

しかし、あの握手により、台湾国民が国民党支持に傾いたかというと、これは全く逆で、国民党への支持率も、同党総統候補者に対する支持率も低下していることが判明した。

責任上、今回は、9日に発表された「国民党&総統候補支持率」と「民進党&総統候補支持率」に関して、ご紹介する。

◆民進党支持率が上昇し、国民党支持率が低下した

11月9日に台湾の「三立新聞」が「馬習会談後の支持率変化に関する民調(民意調査)」の結果に関して発表した(前回のコラムにも書いたが、馬習会談とは「7日にシンガポールで行われた馬英九・習近平会談」のことを指す)。

民意調査はネットアンケートと多少異なり、電話取材など、かなり信憑性の高い調査に基づいている。7日の夜に発表されたのは、あくまでもネットユーザーによるネット・アンケートなので、着実性においては三立の民意調査には及ばない。それでも一定の傾向は示しているので、以下に示す三立の民意調査結果と比較しながら、考察を試みる。

三立の民意調査による結果:

1.馬習会談後、民進党の総統候補者・蔡英文氏の支持率が46.7%にまで達し、初めて45%を越えた。一方、国民党の総統候補者・朱立倫氏の支持率は19.0%と会談前より低下し、ますます支持率の差をつけた。

2.しかし、馬習会談が両岸(中台)の平和に寄与したか否かに関しては、43.3%の台湾国民が「寄与した」と回答し、36.7%が寄与していないと回答している。

3.馬習会談前と会談後の支持率の変化(カッコ内は会談前の支持率)

民進党の総統候補・蔡英文:46.7%(41.6%)

国民党の総統候補・朱立倫:19.0%(20.7%)

親民党の総統候補・宋楚瑜:10.4%(11.4%)

(親民党は第二野党で、当選する確率は非常に少ないので省略してきた。)

4.馬習会談は「国民党にダメージを与えた」と回答した者の割合は、回答者の中の37.9%に達し、「国民党に有利になった」(33.6%)を上回っている。

5.両岸(中台)トップが面会することを常態化することを「支持する」は58.6%で、「支持しない」は20.4%だった。

6.最後に、「馬習会談における馬英九総統の態度をどう思うか?」という質問に対して、26.4%が満足、34.9%が不満足、38.7%が「何とも言えない」という結果が出ている。

「三立新聞」のウェブサイトが公表した民意調査の結果は、以上だ。

「6」に関しては、Yahoo奇摩の質問と少しだけニュアンスが異なっているものの、たしかに満足か否かに関する値は異なる。したがってネットユーザーがクリックした調査結果か、統計的有効性を考慮に入れたランダム・サンプリングによる調査なのかという違いもあろうが、各報道媒体の「イデオロギー的色彩」に影響を受けている可能性も、否定できない。これは、どの国でも同じ事情にあるだろう。

それにしても、「5」に関してだが、このデータが、Yahoo奇摩の調査結果傾向と、そう大きくは変わっていないことは注目に値する。

これは何を意味しているかというと、やはり、あの握手の場面は、国共分裂後66年ぶりの両政府トップの握手であっただけに、インパクトは大きかったのだろうことが推論される。

しかしそれにより、北京政府寄りの国民党にとって有利に働いたか否かということになると、「逆効果だった」ということが明確になっているということが、現段階では結論されよう。

今後、それがどの方向に動いていくかに関してはなお、しばらくの静観が必要とされる。

不屈の精神で闘い続けたミャンマーのアウンサンスーチー女士が率いる最大野党のNLD(国民民主連盟)が、総選挙において圧勝する勢いだ。

人類は最終的には民主主義に向かって動いていく。

来年の台湾の総統選においても、その人類の掟が生きていることを祈らずにはいられない。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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