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サンフランシスコから「南京事件」イベントに関するメール

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
発信地となっているサンフランシスコのチャイナタウン(写真:アフロ)

サンフランシスコから南京事件のイベントに関するメールが来た。全世界に英語で発信している。中国大陸では12月13日に迎える2回目の国家追悼日として十大ウェブサイトが連携してオンライン追悼を行なう。

◆サンフランシスコから届いたメール

日本時間の2015年12月3日、サンフランシスコの「世界抗日戦争史実維護聯合会」(Global Alliance for Preserving the History of WWII in Asia)事務局からメールが来た。「南京大屠殺索賠聯盟(南京大虐殺賠償請求聯盟)」(The Rape of Nanking Redress Coalition)と, サンフランシスコ(旧金山)抗日戦争史実維護会(the Alliance for Preserving the Truth of Sino-Japanese War )との共同開催でサンフランシスコ時間12月4日に「南京祭」を開催するという。

以下は届いたメールの画像である。

サンフランシスコから来たメール
サンフランシスコから来たメール

不鮮明だと思うので、内容を列挙する。

Press Release

December 3, 2015

RNRC Press Conference

To Announce

2015 Nanjing Ji Program in San Francisco

What:The Rape of Nanking Redress Coalition (南京大屠殺索賠聯盟), the Alliance for Preserving the Truth of Sino-Japanese War (舊金山抗日戰爭史實維護會) and the Global Alliance for Preserving the History of WWII in Asia (世界抗日戰爭史實維護聯 合會) will jointly hold a press conference to announce the details of the program for the 20th Nanjing Ji (南京祭) in San Francisco.

Where:Chinese Culture Center (舊金山中華文化中心), 3rd Floor, 750 Kearny St., San Francisco; website: http://www.c-c-c.org/ (map)

When:11:00am on December 4, 2015 (Friday)

と書いてある。その下には「南京大虐殺」に関して中国側が主張する内容が述べてあり、「日本政府はこの事実を認めることを拒絶し、謝罪することも拒絶し、その責任を負うことも拒絶している」と糾弾している。そのため生存者も含めてパネル・ディスカッションを行うそうだ。

2015年にUNESCOの世界記憶遺産に登録することに成功したことと、2017年には the memory of the WWII Japanese military sexual slavery system(第二次世界大戦における日本の従軍慰安婦制度の記憶)を多くの国の協力を得て必ず UNESCOの世界記憶遺産に登録させることも強調している。

南京事件も慰安婦問題も、主たる発信地はサンフランシスコだ。

ここには本来、台湾から逃れてきた華人華僑が多かったため、中国の民主化運動を支援する団体が形成されていた。しかし1992年以降の「92コンセンサス」による両岸(中台)の和平統一運動が始まってから、北京政府の懐柔により、今ではほとんどが北京政府寄りになってしまった。むしろ北京政府に代わってロビー活動を行ない、政治資金や票田に魅力を覚える米議会議員たちを支援して、米議会を動かすほどの力を持つようになっている。

その意味で、中国(北京政府)と「アメリカ」はつながっているのだ。

しかし当のアメリカ政府の姿勢は微妙で、戦後は日米同盟があるとしても、戦時中は日本に原爆を落として「戦争犯罪人・日本」を罰した経験を持つ。この懲罰の正当性を強調する意味においては、在米の華人華僑が南京事件に関して活動を活発にすることに、それほど否定的ではない。

むしろ、日本が「戦争の反省」を必ずしも十分に行なわないことによって、日米同盟の片方であるアメリカの立場が国際社会で悪化することは、何としても避けようとしている。

しかし、中国は日本に「戦争犯罪者」としての歴史カードを突きつけることによって、アメリカを凌駕し、世界のナンバー1になろうとしているのである。

◆中国の十大ウェブサイトが連携して南京事件哀悼

11月30日、南京市のある江蘇省のウェブサイトは、南京事件が起きた12月13日に「十大ウェブサイト連動オンライン南京大虐殺犠牲者哀悼」イベント」を開催すると報道した。

国家公祭網(網:ウェブサイト)、新華網、中江網、竜虎網、南報網…などが提携して、全国一斉に第二回目となる「南京大虐殺犠牲者国家哀悼日」記念行事を行う。

6.7億人のネットユーザーがいる中国では、特定の地点で行うよりも、効果が高い。ネットユーザーの圧倒的多数が若者なので、思想教育という面においても力を発揮する。

10月13日付の本コラム<毛沢東は「南京大虐殺」を避けてきた>でも述べたように、中国建国の父・毛沢東は南京事件に触れるのを避けてきた。教科書にも南京事件に関する内容を掲載させないという徹底ぶりだった。その理由は当該コラムに書いた通りだ。

それが今では、情報戦あるいは心理戦とでも言おうか、国際社会を真っ赤に染めた全世界的行事になっている。

中国のこの凄まじい戦略に対して、日本の外交はいかなる外交戦略を実行しているのだろうか。

筆者が「毛沢東が日本軍と共謀していた事実」を追跡して発表しても、それがどれだけ大きな外交力を発揮するのかに関して、十分には気付いていないのではないかと懸念する。

日本が日中戦争時代に行った戦争行為は決して肯定されるべきものではないし、したがってそれに対する謝罪も償いも日本はしてきた。

その反省と、日本軍と共謀していた中国共産党が統治する国家・中国が、いま歴史認識に関して言う資格はないこととは別物だ。

それを区別する良識を日本人が持っていることを信じている(ノーベル平和賞受賞者である劉暁波が主張している事実を、日本にいる中国人も理解することができるものと期待する)。

その上で言うが、日本は「毛沢東が日本軍と共謀していた事実」を軸として論理武装をし、国際社会における共通認識を変えていく努力を「国家として」していかなければならないのではないだろうか。

少なくとも、いま世界で何が起きようとしているのか、情報戦と心理戦という意味で、事実を見極める目を持ってほしい。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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