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朝韓間の経済交流即時無効を北朝鮮が――中国新華社が速報

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
中国が「ならず者」「あの若い奴」として警戒する金正恩(写真:KRT/ロイター/アフロ)

3月10日午前10時40分、新華社からの速報が入った。北朝鮮と韓国のあらゆる経済交流協定がこの時点から完全に無効になると。中国は北朝鮮からの石炭輸入を3月1日から停止させた。中国政府とネットユーザーの声を拾ってみよう。

◆北朝鮮の報道官の発言を伝える新華社の速報

3月10日午前10時40分、新華社からの速報が入った。見れば「北朝鮮と韓国の間のすべての経済協力協定は、ただいま即刻、完全に無効になる」という知らせだ。北朝鮮のメディアが伝えたのだという。朝鮮祖国統一和平委員会の報道官が伝えた、とだけしか書いていない。

ただ、ここから分かるのは、中国政府にとって、いかに朝鮮半島問題が切実かという事実だ。

動きを追わなければと思っているまもなく、その7分後の10時47分、中央テレビ局CCTVのネットにある「中央電視台新聞センター官報微博(ウェイボー、Weibo)」から、たくさんのネットユーザーのコメントが、筆者の携帯に飛びこんできた。(このページは、もしかしたらアクセスできないかもしれない。その節はお許しいただきたい。)

時々刻々増えていくので、すべてをフォローはできないが(最初に入って来た時点と、本コラムの読者の方々がクリックなさる時点では、状況は異なっていると思うが)、以下のようなコメントが気になった。( )内は筆者。

●誰を脅しているつもりなんだい? 地縁があるからといって恥知らずにも強引に中国を道連れにして(1950年に金日成が強引に中国を朝鮮戦争に巻き込んだことを指す)、我が国の利益を侵害しておきながら、さらに恥知らずにもあれを打ちのめしてやる、これを発射してやると叫びまくる。穴だらけのボロボロの鉄で、何ができると思ってるんだい?(中略)朝鮮半島の長年の平和は、(朝鮮戦争のときの)中国人民志願軍の鮮血と命で得たものじゃないか!こんな奴に壊されてたまるか!このろくでなしは、一度、痛い目に遭わせてやらなきゃ!

●ならず者、国家!

●中国は、主人に咬みつく犬を養ってしまったようだ。

●(中国は)さっさと出兵して、この妖怪(悪党)をやっつけなきゃ。(中国東北の)吉林省が管轄すればいいんだよ。

●あいつ、なに様だ! 失うものがないから、怖いもの知らずなんだろう。

◆韓国の報道官の発言を続報で伝える新華社

3月10日、13:59になると、また新華社からの速報が飛びこみ、今度は韓国メディアの情報が伝えられた。それは午前の北朝鮮メディアの速報を補う以下のような内容だった。

――北朝鮮の祖国平和統一委員会のスポークスマンは「ただいま即刻、北朝鮮と韓国間のすべての経済協力交流プロジェクトが無効になる」と発表した。さらにスポークスマンは「韓国が一方的に金剛山観光プロジェクトとケソン工業園区運転を全面的に廃止するという決定を一方的に行なったので、(北)朝鮮は徹底的に朝鮮領内における全ての韓国側の財産を一掃することにした。朴槿惠政権に対して、政治・軍事・経済などあらゆる方面において致命的な打撃を与え、韓国が悲惨な末日を一刻も早く迎えるために、(北)朝鮮は引き続きあらゆる措置を取り続ける。(北)朝鮮は、韓国に対して先制攻撃をするための最終司令を待っているだけだ。

この内容は「中華網・軍事」など、多くのウェブサイトが転載している。

◆中国外交部、韓国を牽制するシグナルも

中国の外交部の洪磊(こうらい)報道官は、3月9日の記者会見で「韓国は対北朝鮮独自制裁で中国の正当な利益を損ねるべきではない」と回答したと、新華社が伝えた。

洪磊報道官は「独自制裁は問題を解決する方法ではない。また独自制裁は中国の正当な利益を損なうべきではない。朝鮮半島が複雑でデリケートな形勢にある中、関係各方面は、慎重に冷静に対応すべきで、局面の緊張を高めるような行動を採るべきではない」と述べたとのこと。この発言から、洪磊報道官が言うところの独自制裁は、米韓合同軍事演習のことを指しているものと考えられる。

以下に記者会見における記者の質問と、洪磊報道官の回答を略記する。

記者:報道によれば、一艘の北朝鮮から来た貨物船が、山東省の日照港で進入を禁止されているとのことですが、中国は国連安保理における対北朝鮮決議を執行しようとしているのですか?

洪磊:私は具体的な状況に関しては了解していません。但し、中国はまさに、国連2270号決議を、全面的かつ厳格に執行しています。安保理第2270号決議は、ただ単に北朝鮮への制裁を含むだけでなく、6カ国会談という対話による問題解決の道を再び模索し朝鮮半島の平和と安定を図るという内容を含んでいます。関係各方面は、バランスを以てこの決議を執行するように望みます。(中略)中国の合理的で正当な安全戦略と利益は不当に損なわれてはなりません。

◆北朝鮮からの石炭輸入停止は3月1日から実行

3月3日付の「環球外匯(外国為替)」あるいは3月4日の「国際煤炭(石炭)網」は、「中国政府は業界関係者に、3月1日から、北朝鮮からの石炭と鉄鉱石の輸入を停止するよう命令した。日用品と食品の貿易に関しては、まだその指令を出していない」と報道している。

北朝鮮の現場報告として、高英起氏が「中国が石炭輸入を停止、北朝鮮国内に困惑広がる…制裁が本格化」と書いておられる。この記事により立証されているように、中国が3月2日の国連安保理決議2270号が議決される前日の3月1日から、実際上、独自制裁で北朝鮮からの石炭と鉄鉱石の輸入禁止を実行していたというのは、注目に値する。

中国では政府の無償支援としては、すでに2年前から石油の輸出をストップしているとのこと。中朝辺境貿易地区で民間企業を通して、改革開放を促すための貿易としてまだ石油の輸出を許していた。

しかし今年2月になって、「韓国メディアによると」という形の報道だが、中国では今年2月の時点で、すでに中朝貿易の50%を停止しており、北朝鮮の銀行に対する凍結も50%実施していたという報道がある。

日本の研究者の中には、「中朝蜜月」とみなす人がまだいるようだが、中朝関係はどこから見ても、「蜜月」などという情況は皆無だ。

ネットユーザーの90%以上が、北朝鮮を嫌悪し、金正恩のことを「金三胖(ジン・サン・パン)」と呼ぶのはまだいい方だ。「金三胖」とは、「金ファミリー三代目のデブ」という意味だ。「金猪(ジン・ズー)」(猪:豚の意味)という呼び方もある。

中国政府高官が金日恩を指すときには「小○子(シャオ・ホーズ)(○は人偏に火)」(あの若い奴)としか言わない。名前などで呼んだことさえない。

それくらい、中国政府も庶民も北朝鮮を嫌い、金日恩を危険視しているということだ。

今回の速報は、その危険視している「ならず者」の国家の一挙一動が、中国の安全・利害に影響してくることへの警戒感を示していると見ることができよう。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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