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ワシントン米中首脳会談、中国での報道

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
3月31日、核セキュリティサミットでの米中首脳会談とオバマ大統領の冷めた顔(写真:ロイター/アフロ)

ワシントンにおける核セキュリティサミット開催に際し、米中首脳会談が行われた。オバマ大統領の顔から年々消えていく笑顔が印象的だが、中国では実に輝かしく習近平国家主席の訪米を報道した。会談内容とともに報道ぶりを見る。

◆新華網「出訪Visit」特別ページ

習近平国家主席(以下、習主席)は3月16日に全人代(全国人民代表大会)閉幕式を迎え、3月25日に中国共産党中央委員会(中共中央)政治局会議を主宰して終わると、3月28日からチェコのプラハに向かった。これはチェコと中国が国交を結んでから初めての中国の国家元首による訪問で、チェコのゼマン大統領は盛大に習主席を迎えた。中央テレビ局CCTVは大々的に「習-ゼマン」会談を報道し、「中国はまた新たな戦略的パートナーを見つけた!」という言葉が微博(ウェイボー)(ミニブログ)でも飛び交った。

もっともチェコ国内ではゼマン大統領が中国やロシアに接近していることを批判する声も少なくなく、欧米の中文網(ウェブサイト)では中国国旗に黒い液体がかけられた事件なども報道されている。

しかし、そのような情報は完全無視。

中国政府の通信社である新華社のウェブサイト・新華網には習主席の笑顔とともに「出訪Visit」と大書した特別ページが設けられ、続く訪米の「輝かしい」活躍がクローズアップされている(ページの冒頭が表示されるまでにしばらく時間がかかるので、少しだけ我慢していただきたい)。

日本や欧米中文網などにおける報道を見る限り、回数を重ねるごとに冴えなくなっていく米中首脳の表情が浮き彫りになるが、そこは中宣部! 

「党と政府のメディアの名前は“党”でなければならない!」

あんなに輝きを失っていく米中首脳会談でも、こんなに「立派に!」報道できるのだから、その腕は大したものである。

少なからぬ国の元首の目にも、「一党支配体制」下における国家元首の位置づけの仕方は、羨ましく映るのではないだろうか。

◆会談内容

3月31日から4月1日にかけて、アメリカのワシントンで核セキュリティサミットが開催され、31日には米中首脳会談が行われた。その具体的な会談内容も「出訪Visit」に詳細に掲載されている。習主席が堂々と自国の利益を主張した、実に「立派な」ものだ。

習主席が発言した言葉として例を挙げると、たとえば以下のようなものが書かれている。

経済問題:米中両国は貿易額、双方への投資額、人的往来などにおいて前代未聞の高い値を示している。

米中新型大国関係:米中は世界の二つの最大規模の経済国家である。米中間には多少の食い違いがあるものの、それを遥かに超えた米中協力があり、それは両国と世界にとって非常に大きなことだ。米中両国は「衝突せず、対抗せず、相互に尊重しウィンウィンの協力」を実現すべきだ。

筆者注:ちなみに、米中核安全保障モデルセンター(COE)が今年3月18日から運用が開始されたことを、習主席訪米前から、中国メディアは盛んに報道するようになっていた。このセンターは、第1回核セキュリティサミットにおいて米中間で合意されたもので、中国に設立することが決まっていた。2011年1月、当時の胡錦濤国家主席が訪米した際、覚書に署名したものである。中国が土地を、アメリカ(主としてアルゴンヌ国立研究所)が技術を提供することが約束され、それを習主席「出訪Visit」に合わせて運用開始できるように計画したものでもある。中国側は中国国家原子力機関が技術提携をする。国際原子力機関(IAEA)の天野事務局長が、このセンターの存在を高く評価したという横顔も繰り返し報道された。オバマ政権退陣に伴い、核セキュリティサミットが今回で最後となり次は国際原子力機関が先導していくだろうことを睨んでの戦略だろう。中国は今後、アメリカに代わって主役を務めていくつもりだ。また 原発関係の概念株(上海機電、中核科技、沃尓核材、保変電気、上海臨港、大唐発電、盾安環境など)が爆発的に跳ね上がるだろうと中国では盛んに報道されている。

米中両軍関係:米中は絶え間なく両軍の相互信頼メカニズムの建設に尽力しており、昨年12月に米中両国の協力によって実施されたネット犯罪取り締まり行動は大きな成果をあげた。

朝鮮半島問題:中国はつねに朝鮮半島の非核化に対して尽力しており、対話によって最終的な解決を望んできた。中国は関係各国が国連安保理制裁決議を厳格に守っていくことを強く望み、その他の時局を緊迫化させる、いかなる言動にも反対する。関係国(米韓を指す)は、その他の国家(中国を指す)の安全と利益や地域戦略のバランスを崩す、いかなる行動をも取るべきではない。

筆者注:これは韓国における米韓合同軍事演習を指し、韓国へのTHAAD配備の可能性を牽制した言葉である。習主席自身の言葉としてではなく、それを解説する論評においては頻繁に明示されている。

南シナ海問題:中国は断固として南シナ海の主権とそれに関連した権利を守り抜く。中国は国際法に基づく各国の航行と飛行の自由を尊重する。航行の自由を口実にして中国の国家主権と安全利益を損なういかなる行動をも受け入れることはできない。アメリカが、主権と領土紛争に関してどちらかの側に立って行動しないよう(中立を)厳守し、南シナ海地域の平和と安定に関して建設的な役割を果たすことを強く希望する。

台湾問題:一つの中国の原則を遵守し、中米の長期的発展に利するよう行動すること。

◆オバマの顔から笑いが消えていく時系列!

このように習主席が、いかに堂々と中国の利益を守り主張したかが、一連の報道には満載されている。

そして今回の「習奥(習近平‐オバマ)会談」は習近平政権誕生以来7回目となるが、オバマ政権中に、あと2回米中首脳会談があるはずなので、「習奥会談」は合計9回となるであろうことが強調されている(奥は奥巴馬のことで、オバマをその発音に当てはめて中国語表記したものである)。

しかし習近平が国家主席となった第1回目の「習奥会談」からこんにちまでを時系列的に見ると、オバマ大統領の顔から、どんどん笑顔が消え、冷めていく様子が手に取るようにわかる。

1回目の会談は2013年6月、カリフォルニアのアネンバーグ邸で行なわれた。そのときのオバマ大統領は「へつらわんばかりの」満面の笑みをたたえていた(これも画像が鮮明になるまでにやや時間がかかるので、少しだけ辛抱して画像が落ち着くのをお待ち頂きたい)。

2回目の大きな会談は2014年11月で、今度はオバマ大統領が北京を訪問。アネンバーグ邸のお返しに、中南海でもてなしている。この時のオバマさん、まだ満面の笑顔を崩していない。

しかし大きな会談としての3回目あたりとなると、オバマさんはすでに「笑っていない!」

これは「作り笑い」であって、笑っているのではない。筋肉は笑顔を作った時の動きになっているかもしれないが、目は「苦しげ」、いや「憎らしげ?」でさえある。2015年9月、ワシントンにおける会談だ。

こちらの写真は、筆者が書いたコラム<まれに見る「不仲」に終わった米中首脳会談【習近平 in アメリカ】>で使用した、習主席の「恨み節」のような表情だ。

このように、「“党”という名前を持ったメディア」が、どんなに華やかに宣伝してみたところで、「新型大国関係」はすでに冷めており、ほぼ存在していないに等しいのである。

それにしても、オバマ大統領もまた、げんきんなものだ。

いくらアメリカ国内の民意が逆風であっても、また次期大統領選において不利になることが予測されるからではあっても、こんなに誰の目にも明らかに見て取れるようでは、最初から「笑みの演技」などしない方がましだったのではないだろうか。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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