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やっても無駄な少子化対策 将来への不安が少子化を生み出している

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(写真:アフロ)

少子化が深刻である。厚労省によれば、2015年の出生率は1.46であった。2年ぶりに上昇したとはいえ、いまだ低い水準のままである。厚労省の説明では、2013から14年の経済状況が良かったことが、出生率が上がった要因の一つのようだ。

少子化の問題はシンプルだ。経済規模が縮小してしまうことである。人が減れば、少なくとも既存の消費市場は縮小する。子供に関連するすべての産業の収益は悪化する。そうなれば税収が減り、国家財政が維持できなくなる。社会保障等のシステムは崩れていく。いちおう既存のシステムのみを考慮する限り、そういうシナリオになる。

どうすればよいのだろうか。少子化は食い止めることができるのだろうか。少子化の原因と対策の是非を、一から検討していく必要があるように感じる。

なぜ少子化が続くのか

いうまでもなく、少子化は子供を生まない人たちが増えているために生じている。

しかし実は、結婚した人たちに限定した出生率はそれほど下がっていない。1972年では2.20であったが、その後は2002年調査の2.23まで、30年間にわたってほぼ安定していた。2005年の調査で2.09へと減少し、2010年の調査ではさらに1.96へと低下している(出生動向基本調査)。確かに下がってはいるが、それほどは、といったところであろう。

ようするに少子化を生み出しているのは、結婚しない人たちが増えていることにある。生涯未婚率とは「50歳までに1度も結婚経験がない人の割合」のことだ。前回の国勢調査の結果では、2015年時点で男性24.2%、女性14.9%という過去最高の数字を叩きだした。18歳から34歳の未婚者のうち「いずれ結婚するつもり」と答えた人は、男女とも9割近くいる。ようは結婚したくても結婚できなかった人たちがこれだけいるということだ。とくに男性はひどい。

男性の生涯未婚率は1980年頃から早いペースで増えるようになってきた。当初は男性で2.60%という数字だった。一方、女性の1980年の生涯未婚率は4.45%であり、ずっと横ばいだったのだが、2010年ごろから増加傾向がみられるようになった。これが何を意味するのかについてはいずれ書きたい。

独身者が結婚できない・しない理由を調べてみると、25歳から34歳の間では、男女とも「適当な相手にめぐり会わない」ことを一番に挙げている。2010年の出生動向基本調査では、実に男性で46.2%が、女性では51.3%がこれを理由に独身に留まっていた。

その結果を受けて、政府は少子化対策の一環として「出会いの支援」を取り入れるようになった。安倍政権では、新たな3本の矢「2020年に向けた経済成長のエンジン」のうちに「夢を紡ぐ子育て支援」を掲げた。出生率を1.8まで回復させ、子育てにおける経済的負担を軽減するために、幼児教育の無償化、結婚支援、不妊治療支援などに取り組むとのことだ。

少子化の現状についてのざっくりとしたまとめである。しかしながら、生涯未婚率の伸びをみて分かるように、やはりどうも施策が弱いというか、根本的な解決にはつながっていないように感じる。なぜか。実のところ結婚をしない人たちは、施策がどうであるかよりも、結婚に向けて一歩踏み出すことができないからである。それらは幼児教育(のみ)を無償化するとか、結婚を支援するとか、そういった場当たり的な手段では解決できない。

つらい婚活

「適当な相手にめぐり会わない」ことが独身でいる最も大きな原因なのだから、「適当な相手」にめぐり会うための機会を提供するというのは確かに筋が通っている。それではここにおける「適当な相手」というのはどういった人のことだろうか。

多くの婚活サイトでは「自分のスペック」と「結婚相手に求める条件」を入力する必要がある。いわゆるマッチングのためである。ここで入力を求められるのが年収だ。女性は依然、家計を男性に依存する割合が高く、実際に結婚をする必要性のひとつを経済的な事情に求めているのだから、年収の項目を「条件」のひとつとして重視するのは当然である。

明治安田生活福祉研究所の調査によれば、女性が結婚相手に求める最低年収は、20代女性で57.1%、30代では67.9%が400万円以上である。ほかに似たような調査結果もたくさんあるのだが、おおよそこれらの情報を男性はインターネット等で調べることができる。しかし同調査にも記されているように、年収400万円以上の人は、20代男性では15.2%、30代男性でも37.0%である。女性の求める「最低年収」に届かない大半の男性には厳しい状況である。ギリギリ最低年収でも大丈夫だろうか、と思ってしまう。ギャップの大きさに、もはや登録することすらためらわれる。

婚活パーティーでは、年収600万円以上の「ハイステータス」な男性、などという条件をつけているものはいくつもある。そのようなパーティーにも男性は集まっている。しかしどうだろう。年収600万円以上の男性とは、30代すべてひっくるめても10%そこそこである。30代前半となれば、きわめて少ない数しかいない。そういった男性もまた、女性にある種の「条件」を付けるだろう。そして希少種なだけに、彼らの条件はなかなかシビアである。彼らもまた「適当な相手にめぐり会わない」から結婚していないのである。参加した女性ははたして条件をクリアできるだろうか。

ゆえに多くの場合、マッチングは成立しない。そのせいで婚活に疲れてくるようになる。時間は過ぎていく。そこにあるのはつねに妥協である。そのとき結婚は成立する。

悲惨な結末であろうか。しかしよく考えて欲しい。ふつう人と人とが出会うのに、条件などというものがあるだろうか。また、あれやこれやと条件を設けて、それらに適合する人はどれだけいるだろうか。普通に知り合って、結婚を考える人たちは、そのようなことを考えるのは二の次であろう。もし考えたとしても、「この人なら」という気持ちのほうを重視するはずである。これが人間らしい付き合いである。

実際に、婚活の末に結婚できた女性は、お金よりも内面の部分で結婚を決めているようである。条件があるから妥協が生まれる。ようするに、このような条件づけを意識のうちからなくすことが、「適当な相手」ではなく「よい相手」にめぐり会うために重要なのである。

若者はずっと貧乏だった

若者は貧乏である。婚活の条件に合わないくらいには貧乏である。しかし、若者はいつの時代だって貧乏である。

若者は昔からお金がない。我が国における、あの時期の調子がよすぎたのである。そして当たり前だが、戦後すぐのほうがお金はない。しかし、そこに生きていた若者は貧乏でも結婚していた。なお、字数の関係から説明は省くが、いまの若者は全体で見ればお金がないわけでもない(参考:ニッセイ基礎研究所)。

それではなぜお金を使わなくなったのか。不安だからである。将来の見通しも立たないなかで、不必要なものを買っている余裕はない。将来年収が上がる保証はない。解雇されるかもしれない。よって貯金をしなければならない。無駄なローンなどは組んではいけない。このような状況で結婚なんて出来るはずがない。子供を作れば出費はかさむ。子供が大学にいくようになれば何百万円というお金が飛んでいく。マスコミも不況だといっているではないか。恐ろしい限りである。お金があれば安心だ。若者は自分の将来のために、結婚はできないのである。

昔は希望があった。明日に希望を持っていた。しかしいまや、日本の未来は明るくない。そういう景気、そういう気分が、いまの日本で蔓延しているのである。すなわち、まさに「景気が悪い」のが、少子化の原因なのである。「いまは貧乏でも景気のよい社会」、不安にではなく希望に目を向ける社会を実現できなければ、少子化は改善されない。

経済成長、これ一本でいこう

これまで述べてきたことからも分かるように、少子化の原因には「カネ」が関わっている。カネの問題、経済の問題を解決することが最も重要である。若者の不安を解消することが、いま一番求められる対策である。

しかしそれでもなお、いつか少子化は食い止めることができなくなる。教育費はこれからどんどん上がっていき、子供ひとりを育てるコストは膨大になっていく。なぜなら、知識社会が到来したからである。

知識社会とは、知識そのものや、知識をもつ状態にすることが価値をもつ社会である。かつての工業社会では生産性の高さが重要な社会であったが、知識社会では、生産性を「高くすること」が重要になる。つまり労働力をいかに集めるかのほかに、労働力をいかに生産的なものにするかが問われるようになる。生産性そのものではなく、生産を生み出す力、生産性を高める力、生産性の低いビジネスから生産性の高いビジネスへとシフトする力、すなわち成長をもたらす力が重要になるのである。

それゆえ大学には、行かなければならない。大学を卒業後も、つねに新たな知識を追い求めなければならない。そうでなければ自身の価値は低下していく。教育コストはかさむばかりである。ゆえに幼児教育を無償化してもほとんど意味はないのである。もしやるとすれば、生産性の向上にかかわる教育、大学教育や生涯教育の教育コストをいかに下げるかのほうである。

将来への不安は不況によって生じている。不安の症状を緩和しようと、あれもこれもやろうというのは無理である。国費は限られているのだ。すべての戦略のキモは選択と集中にある。安倍総理、ここは一つ経済成長戦略、この一本でいこうではないか。成長戦略には長期的な視野が必要になる。根幹になるのは、生産性を高めるための教育改革、イノベーションを生み出すための教育改革である。国民一人あたりの生産性を高め、産業を生み出し、財政を支えなければならない。将来の見通しのある社会でこそ、子供も生まれようというものである。

しかし少子化を食い止めることが不可能であれば、これと合わせて語られる高齢化の問題についてはどうすればよいのだろうか。確かに少子高齢化社会では、社会保障費はかさんでいくばかりなのである。これについては「高齢化問題を解決するいちばん簡単な方法は「高齢者」をなくすこと」にて検討していく。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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