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最新の出生動向基本調査にみる、若者が子供をつくらない理由

遠藤司SPEC&Company パートナー 皇學館大学 非常勤講師
(写真:アフロ)

 第15回出生動向基本調査が公表された。先日の「やっても無駄な少子化対策:経済成長、これ一本でいこう」には2010年の調査までしかなかった。これは5年置きに行う調査だからである。そのため直近データとしては情報不足で、明確に言えないこともいくつかあった。

 その後の5年でどうなっていったのだろうか。調査結果から、重要な点を抜き出したい。

結婚したくでもできない

 前回も書いたとおり、18歳から34歳の未婚者のうち「いずれ結婚するつもり」と答えた人は、男女とも9割近くである傾向は変わっていない。

 生涯未婚率(50歳までに1度も結婚経験がない人の割合)が、2015年時点で男性24.2%、女性14.9%であるから、結婚したくでもできない人が多い傾向はそのままである。結婚した人たちに限定した出生率は1.96→1.94に推移したが、やはり微減といったところだ。よって未婚者の増加が少子化の理由である傾向は変わらない。

結婚相手に求める「条件」のハードルが高い

 結婚する意思のある未婚者が結婚相手に求める条件としては、男女とも「人柄」を考慮・重視する人が98.0%である。実のところ、この項目はあまり意味がない。人間としてどうかと思う人や気の合わない人と結婚する人などいない。

 次が「家事・育児の能力」で、96.0%である。これもまた、単に共働きなのに相手が家事や育児をやってくれないというのはどうなのか、ということであるから、当たり前の話である。

 しかし、これらは「条件」になっていない。「条件」と言われるものは「経済力」である。未婚女性の93.3%が「経済力」を重視している。そして前回の記事でも述べたように、大半の女性が結婚相手に求める最低年収は400万円以上である。年収400万円以上の男性は少数派である。

 なお、結婚の利点として「経済的余裕が持てる」ことを挙げている未婚女性はむしろ増えている(15.1→20.4%)。

教育にお金がかかりすぎる

 とくにこのデータが欲しかった。夫婦のうち、依然としてほとんどが2人以上の子どもを生んでいるが(77.8→75.2%)、一方でひとりっ子が増加している(15.9→18.6%)。その理由は、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」である。実に30歳未満で76.5%、30~34歳で81.2%が理想の子供の数を持たない理由としてこれを挙げている。子供に「大学」に行かせたいからである(男の子71.5%、女の子57.2%)。

 そのため共働きをする理由も、子供のいる生活のためである。15 歳未満の子どものいる夫婦のうち、妻の86.0%が就業を希望しているが、その最大の理由の52.1 %が「経済的理由」である。その内訳は、「子どもの教育費のため」が18.8%、「生活費のため」が15.6%、「貯蓄のため」が8.0%である。実に「自分の収入を得たい」は9.6%にすぎない。

経済成長に向けた教育改革を

 「やっても無駄な少子化対策:経済成長、これ一本でいこう」で述べたことは以下のとおりである。

・女性が結婚相手に求める「条件」は経済力であり、それはほとんどの人の年収よりも高い

・若者はお金がないのではなく、将来が不安なのである

・不安のなか、知識社会で教育費が増大していくのだから、少子化は今後も続く

・知識を生産力に転化できる教育への改革を行うべきである

 多くの人びとは、できれば子供をつくりたい。そのために、結婚もしたい。しかし現状、それは無理であるし、これからも無理である。よって少子化は食い止められない。一時的に出来たとしても、いずれその時がまたくるはずである。

 それよりもわが国は、一人当たりの労働生産性を固定的にみる風潮のほうを何とかした方がよい。すなわち、教育によって一人当たりの生産性をいかに高めるかのほうを考えるべきである。それには教育にかかるカネの問題と中身の問題の両方を考えなければならないだろう。日本では教育に対するコストを低く見積もる傾向にある

 コストとは明日に対する投資である。知識社会において教育コストは明日への最大の投資になる。だからこれからもどんどん上がっていく。ゆえにその教育の費用対効果をいかに高めるかを考えなければならない。幼児教育の無償化とか婚活支援は、根本的解決にはならない。

 再びいうが、根幹になるのは、生産性を高めるための教育改革、イノベーションを生み出すための教育改革である。国民一人あたりの生産性を高め、産業を生み出し、財政を支えなければならない。そうすれば、若者の不安も徐々に解消していくことであろう。将来の見通しのある社会でこそ、子供も生まれようというものである。

SPEC&Company パートナー 皇學館大学 非常勤講師

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。多数の企業の顧問やフェローを務め、企業や団体への経営支援、新規事業開発等に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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