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独立の前に副業から 年収にプラス100万円を稼ぐために最初にやること

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(写真:アフロ)

 当記事は「独立の前に副業から:少子高齢化社会を充実して生きるために」の続編である。

 人は明日も生きなければならない。明日も飯を食わなければならない。家族を食わせていかなければならない。よって、定職を得なければならない。定職を得たあとは、解雇されないように努めなければならない。安定のためには「社畜」であらねばならない。いかなる大望があれ、第一に不安定であってはいけないのである。

 起業を促すには、この「食っていける」という大前提が非常に重要なのである。したがって、年金や老後の蓄えのある高齢者、時間に余裕のある高齢者こそ、起業するのにふさわしい。また次に、まだ自分ひとりの生活費を稼げばよく、そこそこ時間もあり、卒業後は企業なり何なりに就職することのできる学生が、生活費のためにも学びのためにも起業するのが望ましいのである。

 そして最後に、すでに飯を「食っていけている」人たち、すなわち20、30代のサラリーマンの起業である。彼らはまだ給料が安い。しかし今後も昇給するか分からない。子供は大きくなる。将来のために大学にも行かせたい。不安であり、不安定である。そうであれば、いまも「食っていけている」とはいえ、「より食っていける」ようにならなければいけない。

 サラリーマンの起業は副業であるべきである。いや、まずは副業でなければならない。目下の不安を取り除き、安心して日々を送るようになることを優先するためである。不安ではなく目的に目を向けるためである。

 想像して欲しい。年収にプラス50万円、100万円が加わればどんなに楽になるだろうか。あれもこれも出来るようになる。心に余裕が生まれる。つまり不安を払拭できるようになる。結婚し、家庭がもてる。よい大学に行かせるために、子供を塾に通わせよう。あの本を買ってあげよう。色んなところに遊びに連れて行ってあげよう。兄弟姉妹をつくろう。妻を喜ばせるためにプレゼントを買ってあげよう。今日は家族みんなで少し贅沢な食事をしよう。幸せな家庭を築くことができる。

 お金は何らかの目的を果たす手段である。逆にいえば、目的があるのにお金がないというのでは何にもできない。何かをするにはつねにお金が必要だ。自由に生きることはできない。だからまずは自由に生きるためのお金を稼ごう。

わが国の起業と副業の現状

 長いうえにあまり意味はないので、この項目は飛ばして頂いても構わない。

 いうまでもなく、わが国の開業率は欧米各国に比べ、きわめて低い水準にある。しかしながら、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの行った「日本の起業環境及び潜在的起業家に関する調査」(平成26年)をみてみると、潜在的には起業をしてみたいと考えている人は多くいることがわかる。起業を「将来的な選択肢の一つとしては考えている」人は35.0%、「起業したいと考えているが、具体的な準備はしていない」人は25.3%である。「起業については、現在、関心がない」とする人は、たったの4.2%しかいない。残りはすでに起業したか、起業に向けて具体的な準備をしている人たちである。

 一方で、「過去に起業することを考えたが、具体的な準備をすることなく断念した」人は、47.1%もいる。この理由は何だろうか。日本政策金融公庫の「起業と起業意識に関する調査」(平成27年)によれば、起業予備軍が起業していない理由として「自己資金が不足している」が40.3%、「失敗したときのリスクが大きい」が30.4%に及ぶ。家族からの反対は意外にも低く、5.9%に留まっている。「自己資金の不足」は大きく始めようとすることが問題であって、「失敗したときのリスク」は無職になることの恐れであろう。そうであれば、いきなり独立することは躊躇される。資金もリスクも少なくてよい起業を行ったほうがよい。

 そこで独立ではなく副業を、ということになる。求人情報サイトを運営するエン・ジャパンの調査(平成28年)では、副業経験があると答えた人は、57%にも及ぶ。そしてこの数字は2009年以降、結構な勢いで増加している。副業はしたことがないし興味もないと答えた人は11%しかいない。まさに副業の機運は高まっているのである。

 しかるに、ほとんどの企業では副業は禁止である。リクルートキャリアが中小企業庁に提出した「兼業・副業に係る取組み実態調査事業報告書」(平成26年)によれば、副業を「容認」している企業は14.7%に過ぎない。調査のなかでは副業を「推進」している会社はゼロであった。副業を容認している企業からは「副業で得た知識を活かして、本業に貢献してくれる」とか「副業容認が定着率向上に寄与すると期待している」、「経験豊富なスペシャリストの採用に繋がる」、「個人活動が企業ブランドを高め、企業ブランドが個人に誇りを持たせる」などのポジティブな意見がみられるようである。

 いずれにせよ、法律上は副業をすることは何ら問題がないはずだし、労働時間外に何をしようが個人の勝手であるはずなのに、一企業が個人の行動を制約しようというのはなんとも不思議である。ちなみに、政府は副業推進派である(参考:TBS News i.加藤大臣、副業認める企業を視察 「柔軟な働き方」議論へ)。大臣には頑張って頂きたい。

副業は最高の社員教育

 副業禁止の会社はいまだに多い。副業解禁の機運が高まっているとはいえ、まだまだ様子見の会社のほうが多い。日本の人事制度の硬直性には昔から少なからず問題がある。面倒を起こさないことをよしとする体質がそうさせている。しかしある意味でビジネスとは、社会に面倒を持ち込むことである。新商品は人の心をかき乱し、既存の秩序の一部を破壊する。よって面倒を起こさないことばかりを好む会社には、新たなビジネスは生まれない。

 そうであれば、副業はむしろ会社の前進のために望ましいはずである。副業は会社のなかに多様性を生み出す。社員はそれぞれ別の知識を持つようになる。それらを集めてつなげれば、新しいものが生まれる。イノベーションが生じる基本的な原理がこれである。

 しかも社員が勝手に能力を高めてくれるのだから、会社はそのための社員教育費を払わなくてもよい。こんなにうまい話はない。教育にはコストがかかる。しかも社員は生活にゆとりができるから、活き活きと働くようになるだろう。仕事は早く終わらせたほうがよいとする風潮が生まれ、働き方にも効率を求めるようになる。

 社員一人あたりの労働生産性は固定的ではない。生産性は高めることができる。よって労働時間が長いか短いかは、生産性の高さとは関係ない。労働時間ではなく、高い成果こそ、会社が求めるべきものである。つまり会社は、拘束時間ではなく、個人の知識、能力の向上をこそ、求めるべきなのである。

 「本業に支障をきたすから」副業を禁止している会社は(そもそもこの理由は意味不明である)、この新しい社会の本質をまったく理解していない。愚かである。愚か者は相手にしないほうがよい。あるいは、企業は愚か者にルールを作らせてはならない。会社が傾く。

 会社は人によって成り立っている。人が能力を向上させ、主体的に動くとき、企業は前進する。社員には様々な経験をし、知識を身につけてもらわなければならない。そして企業が行うことは、それらの社員の能力を活かし、発案してもらい、新たなビジネスを生み出してもらうことである。企業の存在目的は顧客の創造とその維持であることを忘れてはならない。

副業をすると決めたら転職してしまおう

 これまで述べてきたように、副業は基本的に個人にとっても会社にとってもよいことである。

 しかしいまの会社では、副業は原則禁止である。わざわざ許可を取るのは億劫だ。会社に新しい風をもたらそうとしているのに、それを邪魔するとは何事だろうか。そんな会社には未来はない。もういっそのこと、転職してしまおう。副業をしようとするような活きのいい人材を、新しい日本は求めている。

 そういうわけで、前向きな皆様のために副業を推奨ないし容認している会社をまとめてみようと思い立った。しかし、さすがは情報化社会。すでにそういうサイトは存在した。もちろん一部に過ぎないだろうが、参考にはなる。

 転職を促す理由は3つある。一つは副業を禁止している会社で副業をやると、クビになるのではと思い、ビクビクしながら過ごさなければならないからである。そうすると副業を大きくすることができなくなる。しかし何ら悪いことはやっていないのだから、不安を感じることはない。会社が勝手に決めたルールにすぎない。晴れ晴れとした気分で元気よく副業をやるために、副業を推奨する会社に転職しよう。

 二つ目に、これまで述べてきたように副業には個人にも会社にもメリットがあるにもかかわらず、それを禁止するような会社には未来はない。未来のない会社は業績が落ちる。社内の雰囲気が悪くなる。そういった会社ではルールにがんじがらめにされるようになる。ノルマを果たすために、すでに売れもしなくなった商品を背負って営業先を駆けずり回る必要はない。時間の無駄である。心身ともに健康によくない。

 三つめに、これが最も重要なことだが、副業を推奨している会社には当然ながら副業をしている社員がたくさんいる。しかも副業で大きく稼いでいる社員は有能である。愚か者に関わるよりは優れた人に関わったほうがよいに決まっている。彼らは、自分の副業にアドバイスをしてくれるだろう。新しいアイディアをくれるかもしれない。そしてもし彼らが独立したら、自分の副業のパートナーになってくれるかもしれない。つながりがビジネスを促進する。彼らは成功をもたらしてくれるのである。ゆえに自分の周りには、有能な者を集めておいたほうがよいのである。

 しかし本当に愚かである。副業を認めるだけで有能な社員が確保できるのに、それをやらない。副業ができないために会社をやめようとする有能な社員を会社に留めることができるのに、それをやらない。我が国の企業の後ろ向きな体質は、早急に変えていかなければならない。

 新しい時代のサラリーマン起業は、副業であるべきである。副業は安定のうちにあって、現在の生活を向上させることができる。やりたいことがやれるから、毎日が充実する。不安を取り除き、前向きに生きるために、まずは小さく何かを始めてみようではないか。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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